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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第1章  はじまり
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第11の扉 もふもふパニック

 ドンドンと扉の外から叩く音が店内に響く。美羽と一葉が扉を開けようと、外で奮闘してくれているようだ。


「無駄だぞ、何をやってもその扉が開くことはない」


 京也は店内でふふん、と余裕の表情である。外の二人にはその声さえも聞こえていないのだろう。ドンドンと扉を叩く音は鳴りやまない。



 そして一旦ぴたりと叩く音がやんだ。




「やっと諦めたか」


 京也は静かになった扉を見て、風花との戦闘に集中しようとする。今店内には風花と京也の二人きり。今まで翼、優一と邪魔が入ったが、今回はその二人はいない。今がしずくを奪う絶好のチャンス。しかし……


「「せーの!」」


 静かになっていた外から何やら嫌な掛け声とバンッという音が。鈍い音と共に扉が軋んでいる。これはまさか……


「「せーの! おわぁ!?」」


 京也が嫌な予感に頭を抱えていた時、その予感が現実となった。鈍い音と共に扉が開き、美羽と一葉が店内になだれ込んでくる。


「マジかよ……」

 

 京也は口をあんぐりと開けていた。扉には魔法をかけていたのに、少女二人がそれを破って入ってきたのだ。普通の女の子に破壊できるはずかない。よほどの怪力少女たちなのだろうと二人を観察していた京也だが……


「ちょっと美羽、今変な音しなかった? 壊れたんじゃない?」

「え、嘘!? 大丈夫だよ、きっと。ほら、ちゃんと動くし」


 二人の手に心のしずくが握られていることを発見し、状況を理解した。心のしずくを持っていたから、強引に魔法を突破してきたのだろう。


「毎回のように邪魔が入るな、全く……」


 扉破壊の責任の押し付け合いをしている美羽と一葉をよそに、京也はため息をつく。そして、地面に手のひらをつけ、力を込めた。


「え!? なに、地震?」

「二人とも外に出よう!」


 京也の魔法によって、地震が発生。風花がパニックになった二人を連れて、店の外に飛び出した。外に出ると揺れはすぐに止んだのだが。


「わわ! なに?」


 カフェの庭に置かれていた置物たちが、ガタガタと揺れる。猫、犬、パンダ、トラなどなど。可愛らしい置物だった物が、まるで本物の動物のようなもふもふで動き出したのだ。


「風花、しずくを渡せ」


 混乱している美羽と一葉に構わず、京也はカフェの中から出てくるとしずくを要求する。風花は京也の言葉に一瞬苦しそうに顔を歪めたが、すぐに元の無表情に戻った。


「美羽ちゃんと一葉ちゃんは、危ないから逃げて」

「「え?」」


 美羽と一葉から距離を取ると、ゆっくりと目を閉じた。いきなりの風花の行動に二人は頭がついていかないのだが、そんな彼女たちを置いて、風花の周りを風が包みこむ。


「風ちゃん!?」

 

 美羽が風花の変身に驚きの声をあげるが、構っている余裕はない。白色の魔法衣装へと変身した彼女は、しっかりとその瞳に京也を映す。


「やれ」


 京也の命令で動き出した動物たちが一斉に三人の元に飛び込んできた。三人は動物たちに囲まれ、ムギュっと押しつぶされる。見た目はモフモフとしていて、可愛らしい動物たちだが彼らの圧力はすさまじい。三人からは苦しそうな声が漏れていた。


「く、苦しい……」

「飛ばせ、wind(ウィンド)……spring(スプリング)!」


 風花が何とか呪文を唱えると美羽と一葉の足の下に小さな風のバネが出現し、二人を動物たちの輪から飛ばした。


「自分が抜けだすための力はなかったようだな」


 美羽と一葉は動物たちから解放されたものの、風花はいまだ苦しそうに潰されている。彼女の魔力は心のしずくとなり散らばっている状態であるため、不完全。今の魔力では美羽と一葉をはじき出すことしかできなかったようだ。その様子を見て京也は余裕の表情を浮かべている。動物たちを止める気はないらしい。


「ねぇ、あんた、あれ止めてよ、風花が潰れちゃう」


 一葉は混乱しながらも庭に落ちていた箒を手に取り、余裕の表情をみせている京也に向ける。


「お前たちが持っているその石を渡せば、あの動物たちを止めてやる」

「どういうこと?」

「その石は風花の心だ。俺はそれをもらいに来たんだ。だからその石を渡してくれれば、大人しく帰るぞ」


 京也は二人の持っている心のしずくを指さしながら、冷たく告げた。京也のまとう空気はとても禍々しく、ギロリと二人を睨みつけている。一葉は箒の持つ手が震えたが、強い口調で京也に言い返した。


「……この石が風花の心なら、あんたに渡すのおかしいんじゃないの?」

「それなら、渡さなくていいぞ。風花が潰れていいならな」

「このっ!」


 パシッ!


 一葉は箒を竹刀代わりにし、京也へと切りかかる、が……


「な!?」

「邪魔だ」


 京也は素手で一葉の攻撃を受け止め、箒を破壊。自身の握力のみで箒が木っ端みじんになってしまった。


「うそでしょ、素手で握り潰したの」

「何なの、こいつ……」





 ※※※※




 一体どういう状況なの? 何が起こっているのか全く分からない。

 私は隣の一葉ちゃんを見るけど、たぶん考えていることは同じ。


 というよりも、この男の子、ヤバい。

 剣道部の実力者の一葉ちゃんの一撃を防いだ。ううん、それだけじゃない。箒を破壊したんだ。

 しかも素手で。何なのこの子、人間じゃないよ。ゴリラなの……


 ゴリラだったら良かったかもしれない。こんな禍々しい空気を放つゴリラなんて、見たことないもの。

 私は目の前の男の子の放つ空気に震える。

 良くみたら一葉ちゃんの手も震えてた。そっか、怖いのは同じだね……


「風ちゃん……」


 私は今にも潰されてしまいそうな風ちゃんの方を見る。

 ごめんね、風ちゃん。私たちを助けてくれたのに、私たちにはあなたを助けられるだけの力がないの。




 ※※※※




「渡さないなら、大人しくそこで風花が潰れるのを見ていろ」


 京也は容赦なく動物たちを操り、更に圧をかけて風花を押しつぶそうと動く。「ぐぁ」と、苦しそうな風花の声が聞こえる中、美羽と一葉の頭の中に声が響いた。


「「え……」」


 美羽と一葉は自分の頭の中の声に驚き、お互い顔を見合わせる。しかし、頭の中の声と一緒に必死にその名前を叫んだ。


『「熱果(れっか)!!!」』『「衣氷(いひょう)!!!」』


 美羽を熱風が、一葉を冷気が包み込む。辺りは二人を境に熱と冷気が立ち込めだした。美羽は赤い髪、深紅色の衣装を身にまとい、一葉は水色の髪、水縹(みずはなだ)色の衣装を身にまとっていた。

 突然のことに二人とも固まっていたが、頭の中に再び声が響き、力いっぱいその声を叫ぶ。


『「ice burn(アイスバーン)!」』

『「heat shot(ヒートショット)!」』


 一葉は動物たちを凍りつかせ、美羽の熱で破壊。キラキラと太陽の光を反射しながら、動物の置物たちが散らばっていく。


「風ちゃん、大丈夫?」

「ケホッ、ありがとう」


 風花は苦しそうに咳き込んだものの、特に怪我もなく無事のようだ。美羽と一葉の口から息が漏れる。


「くそっ! また精霊付きかよ。今日はここまでにしておいてやる。覚えてろよ!」


 京也は二人の持っている心のしずくの光を確認すると、いつもの捨て台詞を残し消えていった。














「ごめんなさい、巻き込んでしまって……」


 京也が去った後、風花は謝りながら事情を説明する。心のしずくのこと、京也のことなど。


「私の近くにいると、また今日みたいに危ない思いをするかもしれない。だから、もう……」


 せっかく友達になれたが、風花は二人と別れることを決心した。自分と一緒に居れば、京也に襲われることは避けられないだろう。彼女の肩はしょんぼりと小さくなっていた。


「風ちゃん……」

「優しくしてくれた二人を、これ以上危険な目に合わせたくないの」


 風花はそう言いながら不安そうに瞳を揺らす。


「話してくれてありがとう。私、風ちゃんの友達辞めるつもりないよ」

「ウチも」


 風花の言葉に寂しそうな顔をしていた二人だったが、彼女を優しく抱きしめてくれた。風花は二人の行動に一瞬目を見開いたが、またすぐに無表情に戻った。そして、戸惑いながらも口を開く。


「でも、今日みたいに危ない目に合うかもしれない」


 風花の悲しい訴えに、美羽は一旦体を離して問いかける。


「風ちゃんは、もし私が一人で危ない目に合っていたらどう思う?」

「助けに行きたい」


 美羽の質問に風花はまっすぐに目を見て答えた。瞳の中には迷いの感情は一切浮かんでいない。美羽はその瞳を見ると優しく微笑んで、言葉の先を紡いだ。


「私たちも風ちゃんが危ない目に合っているなら、助けに行きたい」

「ウチたちにも、助けさせて」


 美羽と一葉の暖かく優しい言葉が、風花の心の中に入ってくる。ぽっかりと空いた胸の中が、じんわりと暖かくなるのを感じていた。そして……



 ポロリ、と風花の目から一粒の涙(・・・・)が零れ落ちた。



「……ありが、とう」


 風花はギュっと二人を抱きしめる腕に力を込める。















 店の物陰では風花たちの様子を少年がうかがっていた。


「今回は二人同時にですか……これで四人になりましたね」


お読みいただきありがとうございます。感想、評価ありがとうございます。執筆の力となっております。

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