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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第6章  出発
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第118の扉 踏み切られたスイッチ


 カチリ


 不吉な音が教室に響き渡った。


「あ、美羽ちゃんスイッチ入った」

「この勝負もらった!」


 風花が女優スイッチオンに気がつき、一葉はガッツポーズを作る。


「横山さん、どうしたの?」

「あのねぇ……」


 美羽が教壇へと歩いていく。彼女は普通に歩いているはずなのに、なぜだろうか、スポットライトが当たっているような錯覚を覚える。クラスメイト達は美羽から視線を離せない。教壇にたどり着くと……


「美羽はぁ、執事さんの服が着てみたいのぉ」


 教壇の上に両肘をつき、唇を尖らせて、おねだりする。


「「「ぐはっ!」」」


 大半の男子が落ちた。苦しいうめき声と共に死屍累々(ししるいるい)


「美羽たんの執事姿!!!」

「これは、見ものですぞ!」


 親衛隊を中心に、『美羽たんコール』が鳴り響く。さながらライブ会場だ。今この空間は彼女の独壇場。美羽はニコニコ笑顔で観客に手を振っている。そして……


「ふふっ」

「!?」


 観客には見えないように角度を計算した美羽が、優一だけに見えるよう不敵な笑みを浮かべる。まるで彼を挑発するように。それを見た優一の額に、青筋が浮かんだ。


「ちょっと、待った!!!」


 彼もやられてばかりではいられない。席を立ち、教壇に上がる。


「お前ら、本当にいいのか?」


 優一の登場に『美羽たんコール』が鳴りやんだ。ライブを中断されて怒り狂う親衛隊隊長が、優一の元へ駆け寄り胸倉をつかむ。


「何が言いたいのですか、成瀬氏!」

「横山のメイド服」

「はぅあ!!!」


 優一の放った一撃に、苦しそうに胸を押さえる親衛隊隊長。

 そう、メイド服といえばフリフリのミニスカート。似合わない女の子はいないのではないかというくらいに、可愛さが計算されている。それを美羽が着る。ただでさえ可愛い彼女が更に可愛く仕上がる。この事実に胸を躍らせない男子はいないだろう。しかし……


「待たれよ、隊長殿! 美羽たんは一度メイド服を着ておる!」


 待ったをかけるのは親衛隊副隊長。美羽は以前雑誌の撮影で、メイド服を身に着けたことがあるようだ。しかし、執事服はまだない。親衛隊としては、まだ見ぬ執事服への誘惑も強いらしい。彼らの中で意見が揺れていく。


「では、執事服を……」

「ツーショット」


 カフェ開催に傾く隊長の肩を掴み、耳元で優一が甘く囁く。


「何ですと?」

「メイド服の横山と、ツーショットを撮りたくないか」

「み、美羽たんとのツーショですとっ‼」


 隊長の心が揺れ動く。追い打ちをかけるように、優一は攻撃を仕掛けた。


「それに横山だけじゃないぞ。このクラスの女子はレベルが高い。そんな可愛い女子たちのメイド姿だ。見たくないか?」

「なんとっ‼」


 隊長は女性陣を見渡す。芸能人の美羽はもちろんのこと、一葉、結愛、うらら、風花、愛梨、大野などなど。女性陣は整った顔立ちの女の子が多い。そんな彼女たちが可愛いメイド服に身を包む。想像してしまった翼が、鼻血を出して脱落した。


「「「見たい! 見たいでござる!」」」


 親衛隊含め、男性陣は意見が固まった。先ほど手に入れたうららたちの票を足せば、過半数を超える。これでカフェの開催は阻止できる、と思われた……


「ふふっ、成瀬。男子の負けだよ」

「どういう意味だ、藤咲」


 優一の元に一葉の声が届く。彼女はまるで勝利を確信しているかのような、微笑みを携えていた。優一の背中に嫌な汗が流れ落ちる。そして、一葉は教壇を指さした。


「なっ!?」


 優一は目の前の光景に言葉を失う。


「み、みんな、私たちの身体目当てなんだね……うぅ」


 そこには目を潤ませる美羽の姿が。両手を顎の下に添えて、萌え袖までしている。


「美羽、悲しいよぉ……」

「み、美羽たん……」


 彼女の涙に親衛隊の動きが止まる。そして、うるうるの瞳が隊長を射抜いた。彼がフラフラと、美羽の元へ近づいていく。


「そ、そんなことはござらぬ。美羽たんは、メイド服の方がお似合いになるかと思い……」

「待て、そっちに行くな! 死ぬぞ!」


 優一が待ったをかけるが、彼は止まらない。もう、止まれない。美羽は近づいてくる隊長の首に抱き着くと、甘い声で囁いた。


「私はぁ、執事の服が着たいのぉ。ねぇ、だめぇ?」

「ぐはっ!」


 親衛隊隊長が陥落。もう彼は美羽以外の声は聞こえない。完全に彼女の操り人形と化した。


「くっそ!」


 優一が悔しそうに唇を噛む。隊長はもう救えない。彼は犠牲となってしまった。優一は次の作戦を発動すべく、頭を巡らせていく。しかし……


「ふはっ、次は俺が行こう」

「は? 彬人?」


 優一の隣にはいつの間にか彬人が。彼には何か作戦があるのだろうか。


「ふ、男には負けると分かっていても、行かなくちゃいけない時があるのさっ」


 どや顔で宣言しているが、つまりは無策。彼は『とりあえず行ってくるね』と言っている。そんな彼の宣言に優一は頭を抱えた。そして、結果は……


「無念……」


 ラスボス美羽にたどり着く前に、一葉が現れて彬人を撃退。先ほどとは反対の目に、青あざを作り散っていった。優一たちの戦力が次々とやられている。この展開はかなり不味い。


「くっそ、お前ら、汚ねーぞ」

「きゃ、成瀬くんが怖い」

「「「成瀬氏!!!」」」


 美羽に食って掛かる優一を親衛隊が止める。優一がもがくも、親衛隊の数が多すぎて、拘束はびくともしない。


「くっそ……」

「ふふふっ」


 美羽は捕まった優一に向かい、べぇっと舌を突き出した。やはり先ほどの涙は演技のようだ。流石は女優。

 もう親衛隊の票は取られた。一気に男装女装カフェ開催に王手。何か手を打たなければやられてしまう。


「何かないか……」


 優一は辺りを見回す。翼は先ほど鼻血を出してダウン。彬人も一葉にやられた。颯はのんきに眠りの国に旅立っている。いつものメンバーが揃って戦力外。

 頼みの綱である平野はもう諦めているようだ。目が遠くを見つめている。


「あれしかないな」


 必死に考えを巡らせる優一の視界に、うららが映った。あの一手をここで出すしかない。休憩時間にうららが教えてくれた最終兵器を。


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