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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第6章  出発
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第109の扉 本城佐々木劇場

Excalibur(エクスカリバー)!」

「エ、エクスカリバー」


 今日も風花自宅の庭では、魔法修行のための練習が行われていた。


「違う、そうではない! こうだ、Excalibur(エクスカリバー)!」

「えぇ……エクスカリバー」


 賑やかな修行が行われているが、果たしてこれは修行と呼べるのだろうか。


「もっと、腰をいれるのだ!」

「え、えっと、こう?」


 先ほどから修行に励んでいるのは、もちろん彬人。そして、彼の意味不明な練習に付き合わされている犠牲者は、翼。彬人は翼にExcalibur(エクスカリバー)を習得させたいようで、ひたすら教え込んでいる。そもそも何がどうなったらExcalibur(エクスカリバー)となるのか、彼の基準は謎だ。


「ひぇ……」


 翼は言われた通りに剣を振り回している。しかし、彬人は難しい顔をして眺めているので、まだExcalibur(エクスカリバー)を習得できていないらしい。


「結愛も行くぅ!」

「結愛さんお菓子を食べませんか?」

「およ!」


 そんな翼たちの様子を見て、目をキラキラとさせながら結愛が突撃しようとしていた。それを間一髪で太陽が食い止める。お菓子はもちろん風花作のものではない。風花、太陽、結愛はリビングでお茶を楽しみながら、エクスカリバーの修行を眺めていた。


「たくさん食べてくださいね」

「はーい!」


 太陽の作戦が成功し、結愛はお菓子に釘付けである。翼は彬人の相手だけでも大変そうだ。そこにハイテンションの結愛を放り込んだら、どうなるのだろう。流石に翼が可哀想である。


「楽しそうだね」


 お菓子を食べながら風花が呟く。楽しそうなのは彬人だけなのだが、彼女の目にはどうやって映っているのか。

 以前胸の痛みを訴えた風花。その痛みの発生原因は翼なのだが、今日は痛みを感じていないようだ。ニコニコ笑顔で彼らのことを眺めている。彼女が自分の気持ちを理解できるようになるのはいつだろうか。


 風花の心のしずくは順調に集まってきており、すでに半分程の心を取り戻すことができた。感情表現も豊かになり、心と一緒に散らばった記憶も戻ってきている。じきに風花は自分の気持ちに気がつくことができるようになるだろう。

 太陽は微笑ましく思いながら、彼女を見ていた。しかし、のんびりとした雰囲気をぶち壊すように、隣に座っていた結愛から声が上がる。


「よし、結愛も言ってくる!」


 机の上を見ると、出しておいたお菓子がぺろりと平らげられている。どうやらこれ以上足止めするのは難しいらしい。今後の展開を想像して、太陽は合掌を捧げた。


「行ってらっしゃい」


 合掌している太陽には気がつかず、風花は笑顔で結愛を送り出す。彼女に悪意は全くない。風花の声にニコリと返すと、結愛は元気いっぱいで飛び出して行った。







「ドーン!」

「ぐへっ!?」


 結愛が庭に降り立つと、彬人をめがけてドロップキックを噛ます。苦しそうな声と共に彼が倒れた。どうやら急所に入ったらしい。


「およよ?」


 結愛に全く悪意はない。彼女の頭のアホ毛が不思議そうに揺れている。その隣には苦笑いを浮かべる翼。彬人が犠牲になったため翼は無事だ。


「本城くん、大丈夫?」

「ふ、どうやら別れの時が来たらしい。佐々木、すまないな……」

「!?」


 苦しそうにお腹を押さえている彬人だが、大丈夫そうだ。何やら変な寸劇が二人の間で始まろうとしている。結愛が彬人を膝枕し、涙目になって話しかけた。


「何でそんなこと言うの? 結愛を置いていかないでよ」

「……悪いな」

「お願い、結愛を一人にしないで」


 二人の頭のアホ毛が、楽しそうにぴょこぴょこと揺れている。本城佐々木劇場が開演してしまった。翼の隣には、いつの間にか部屋から出てきた風花が立っている。彼女は真剣に二人の劇を眺めていた。


「お前は一人で生きろ」

「いやぁ、私は、私は……」

「大丈夫、お前なら大丈夫だ。逞しく、生きる、ん、だぞ」


 彬人は最後の台詞を苦しそうに言い切ると、結愛の膝の上で白目をむく。そのままピクリとも動かなくなった。


「本城くん! 本城くん!」

「……」

「うぁぁぁぁぁぁ」


 白目をむいた彼の顔はかなりの破壊力なのだが、結愛はクスリとも笑わず迫真の演技を続けた。美羽と同様女優になれるかもしれない。翼が彬人の変顔に笑いをかみ殺していると……


「うぅ、グスン。いい話だね、うぁ……」


 風花が感動して涙ぐんでいた。一体どこに感動ポイントがあったのだろう。翼には全く分からない。


「うん、そうだねぇ」


 翼はなんと言っていいのか分からず、特に感情のこもっていない台詞しか言えなかった。しかし、感動している風花にその声は届かない。






 しばらくして


「ふ、闇の淵より舞い戻りし、漆黒の戦士!」

 訳)僕は復活しました。テレレッテレー


 どや顔で彼は復活を遂げる。結愛からもらった痛みも引いたらしい。風花はパチパチと拍手を送った。一体何を見せられているのだろう。翼は、ぼけっと彼らのやり取りを見ていることしかできなかった。


「では、我が美声を響かせることにしよう。♪~漆黒の」

「およ!?」


 漆黒ソングを歌いだそうとしていた彬人に、結愛が再びキックを入れる。彬人が綺麗に飛んでいった。そして……


「本城くぅぅん‼」

「お前は、逞しく、生きろ……」


 寸劇第二幕が開演してしまった。内容は先ほどと同じなのだが、風花は食い入るように二人のやり取りを見ている。これはエンドレスループなのではないだろうか。翼の苦笑いが止まらない。

 そんなことを考えていると、家の中から太陽の声が聞こえてくる。


「みなさん、異世界からしずくの反応が出ましたよ」


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