表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみと桜の木の下で  作者: 花音
第5章  バトル大会編
106/230

第105の扉 パジャマパーティー

「ご心配をおかけしました」


 美羽がベッドの上で頭を下げる。ここはホテルの一室。美羽と一葉の部屋である。この部屋に女性陣が集まり、お菓子を食べながら話し込んでいた。ちなみに一葉はいまだ『散歩』から帰ってきていない。


「回復して良かったですわ」


 うららがふわりと微笑みながら彼女に話しかける。美羽は死ぬかもしれないという恐怖を感じたが、身体は何ともなく無事。そして、精神も大丈夫そうだ。今の美羽の笑顔は、無理して笑っているようには見えない。


「そう言えば、相原くんが優勝したんだね」


 美羽は長い間眠っていたので、先ほど翼が優勝したということを聞いた。


「何だか闇に呑まれていたみたいだけど」

「それはね、結愛たちがお守りを渡したからもう大丈夫なんだよ」


 結愛が胸を張って美羽に答える。翼はリミッターが外れ、暴走したが今はもう元通り。そしてそんなことがもう起こらないように、と結愛と彬人が願いを込めてネックレスを渡している。彼はもうきっと大丈夫。みんなが明るく翼の話をしていると……


「風ちゃん、どうかした?」


 風花の異変に美羽が気付いた。彼女はさっきから会話に入ってこない。そして、難しい顔をしながら胸を押さえているのだ。


「胸が痛い」

「!?」


 風花の発言に真っ青になる美羽。風花はパルトとの戦いで胸部に剣を突き立てられている。それが原因で痛んでいるのだろうか。


「太陽くんの所に行こう! 早く診てもらわないと」

「太陽じゃ治せないって言われた」


 風花の手を引っ張って行こうとしていた美羽の動きが、ピタリと止まる。太陽は優秀な回復魔法の使い手だ。その彼が(さじ)を投げるほどの重病なのか。

 美羽がわたわたと慌てる中、会話を聞いていたうららが口を開く。


「風花さん、胸が痛くなるのはどんな時ですか?」

「相原くんのこと見ている時に多い」

「おおっと……」


 風花の答えに美羽が納得した。今この場に翼はいないが、先ほどみんなで彼の話をしていた。それに反応して、風花の恋心が疼きだしたのだろう。本人は全く分かっていないようで、キョトンとしている。すると、事情を理解した結愛が


「恋の、むぐもごむふ……」


『恋の病だぁぁ』と叫び出そうとした彼女の口を、うららが食い止める。風花には勘付かれていないようで、相変わらず首を傾げていた。


「おほほほほ。私と結愛さんは自室に戻りますわね。お休みなさい」


 結愛の口を塞いだまま、うららが部屋を出ていく。結愛がここに居たら『恋だ、恋だ』と騒ぎ出してしまっていたはずだ。『恋』『愛』のことをきちんと理解できていない風花が、先にその感情に名前をつけてしまうのは良くないだろう。彼らの関係をこじらせてしまう可能性がある。


「うららちゃん、ファインプレーだ」


 美羽が彼女の早業に感心の声を漏らしていた。流石はうらら様である。


「さて……」


 彼女たちが消えて、部屋には風花、美羽の二人。一呼吸おいて美羽が風花に質問を始めた。


「風ちゃんは、相原くんのこと好き?」

「好きー」


「太陽くんは?」

「太陽も好きー」


「成瀬くんは?」

「成瀬くんも好きー」


 風花はニコニコ笑顔で答えてくれる。風花はみんなのことが大好きなのだろう。答える彼女は無邪気だ。そんな彼女を微笑ましく思いながら、美羽はさらに質問を続ける。


「じゃあ、相原くんを好きな気持ちと、太陽くんたちを好きな気持ちに違いはある?」

「んー」


 美羽の言葉を聞いて、風花が自分の胸に手を当てる。彼女の胸の中にもやっとした感覚が広がった。


「違うような、違わないような……」


 やはり風花はまだ恋を知らない。理解できない。心の欠けている影響なのだろう。今の彼女の心のしずくは半分程度。恋を理解できるようになるためにはまだまだ足りない。


「いつか、その違いが分かる時が来ると思うよ」


 美羽は相変わらずキョトンとしている風花の頭を撫でた。風花は気持ちよさそうにその手にすり寄る。そんな中……


「ただいまー」


『散歩』をしていた一葉が帰室。何やらほんのりと頬を染めているように見えなくもない。


「あれ、うららと結愛は?」

「もう寝るんだってー」


 一葉の疑問に風花が答えている。二人はそのまま仲良く会話を開始したのだが、美羽の目はさっきから一葉を捕らえて離さない。気のせいかとも思ったが、赤い。一葉の頬がほんのり赤い。そして、耳も赤い気がする。冬ならまだしも今季節は春。彼女の身体症状は明らかに不自然である。

 何かあった、確実に。『散歩』の最中に確実に何かあった。一葉の赤がそう告げている。


「一葉ちゃん」

「ん?」

「どうして、真っ赤で帰ってきたのかな?」

「う……」


 美羽の言葉に一葉から苦しそうな声が漏れた。予想でしかなかったが、一葉の態度を見て、確信へと変わった。美羽の目がキラーンと光る。もちろん、風花は彼女たちの会話を理解できない。


「あ、の……」

「んんー?」


 彬人とのことを思い出した一葉が、また赤く染まっていく。そして、そんな彼女を徐々に美羽が追い詰めていった。


「実は……」


 観念した一葉は事の顛末を二人に話し出す。

 素直になれず、彼を避けてしまっていたこと。でも、きちんと仲直りできたこと。そして……


「月が、綺麗だねって……あいつが」

「キャーーーー」

「本当だ、今日は満月なんだね」


 一葉の言葉に、意味の分かった美羽が黄色い悲鳴を漏らした。風花は異世界人。彼女がこの言葉の意味を知っているはずがない。楽しそうに窓から空を見上げている。風花もいずれこの意味を知る日が来るのだろうか。

 知ったとしても、理解できるのはまだまだ先の話だろう。


「で、なんて返したの?」

「……」


 興奮気味で美羽が一葉を質問攻めにしていた。綺麗な月に夢中の風花には二人の会話は届かない。


お読みいただきありがとうございます。感想、評価ありがとうございます!執筆の励みになっております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ