第六十四話 ~悪循環~
「それでは、次は、ゲイシー・ミナル君」
ゲイシーと呼ばれた、このクラスの中で唯一、一人だけ離れた席に座っていた少年は名前を呼ばれたかと思うと、突如椅子の上に立ち上がると、意気揚々と挨拶を始めた。
「やぁ、皆さん。僕はゲイシー・ミナル。帝国の端の領土を治めている小さな貴族の子供です。ですが、何と驚きこの度、娯楽神の加護を授かりこの学院に入学する運びとなりました。
夢は世界中の人々を笑顔にすることでございます。
皆さんどうぞよろしく」
ゲイシーの挨拶が終わると、ゲイシーの魔法なのだろう花吹雪が教室を埋めるほど出現する。
「すごっ」
その景色に教室にいた全員の声が漏れる。その言葉の意味はこの景色を言っているのかゲイシー本人に言っているのかはそれぞれだろうが、
「あれは、痛いな」
クシャルは小さな声で僕に陰口を言う。
「えっ?。僕は面白いけど」
「同類か」
僕の意外な反応にハリベルは冷たい言葉を発す。
ゲイシーの創り出した花吹雪が魔力切れで消滅すると、次はいよいよ僕達が挨拶をする番となった。
「次は、ハリベル・クレバスさん。お願いします」
(クレバス?)
僕はどこかで聞いたような家名であったが、思い出せなかったため、気にしないことにした。
「ハリベル・クレバス。加護は運神・下位。夢は、、、無い」
ハリベルはただそれだけ言うと座ってしまう。
「。。。あっ、じゃあ次は、クシャル君。お願いします」
「はい。俺はクシャル。加護は先見の神・下位。具体的な夢は今はないけど、この学院に入る前は帝都の情報屋の下働きをしていたから、情報収集はお手の物だ」
「ありがとう。クシャル君。最後はレオン・マルク君。お願いします」
「はい。始めまして。レオン・マルクです。マルク領出身です。加護は、、、戦神中位、滅神低位、運神中位の3つです」
「はぁっ!?。何でそんな奴がここに!」
僕の言葉にいの一番に反応したのは、ブロスト領出身といっていたマルスであった。
「マルス君。静かに。はぁ、予定とは違いますが仕方がないですね。先ほどは出し渋りましたが、もう一人の先生というのはそこにいるレオン・マルク君のことです。
先生も正直皆さんが加護まで言い合うようになるとは思っていなかったので、後で言おうと思っていましたが、レオン君は3つの加護を所持しており、本来であれば上のランクの生徒となるところを特別このクラスにいてもらっています」
「先生!。そうは言っても。こいつは俺達と年も同じだぜ。確かに加護が上かも知れないが、それだけだろ。
どうやって、俺達を強くできるんだよ」
「マルス君。確かにレオン君と君たちの年は同じですが、彼は既に君たちの遥か先にいます。まあ、今すぐに納得しろとは言いませんが、午後の授業で身に染みて理解することになると思いますよ」
「ちっ」
「ちょっとマルス。空気を悪くしないでよ」
マルスはエイナに注意されるが聞く耳を持たず、それから終始機嫌が悪い様子であった。
(うーん。僕はここにいるべきじゃないのかな?)
僕はそう思いながらも、挨拶を続けた。
「夢は3等級以上の冒険者になって、世界中を旅することです」
「はっ、何ともつまんねえ夢だな」
「マルスっ!」
何かに僕の夢にたいして文句を言ってきたマルスにたいして僕自身一瞬頭に血が上ったが、すぐにエイナの叱責がとんだことで冷静さを取り戻せた。
「ごめんなさい。レオン君。マルスはちょっと加護が優秀な人といろいろあってね」
「いえ、気にしてないですよ」
(いろいろ?)
僕はそのいろいろというのを詳しく知りたいと思ったが、ここは聞くタイミングではないとぐっと堪えた。
「はい。まぁ、最後はちょっと空気が悪くなってしまいましたけど、とりあえずは、この8人で3カ月以内にダンジョン攻略を目指しましょう。
とはいっても、当学院の学生の一人として、また、ダンジョンを攻略するものとして、様々な知識が当然必要になります。
今日の午前中は学院での過ごし方から話していこうと思います」
こうして、劣等生8人の自己紹介が終わり、僕は胸にもやもやが残った状態での学院生活の始まりとなった。




