第六十二話 ~蔑み~
「えっ?」
僕は突然の声に驚き、顔を上げると、そこには昨日のパーティ会場であったハリベルがいた。確かにハリベルは自分から最下位生だと言っていたから、劣等生の中に混じっているのは理解できるが、、、もう一人。
僕に入学式典の時に話しかけてきたクシャルと名乗った少年もそこにいた。
僕はどう反応すればいいのかわからず、とりあえず笑って挨拶をした。
「あぁ、おはよう」
「おはようって、呑気な。私はどうしてあなたがここにいるのかって聞いているの?」
「そうだよ。お前はあの、レオン・マルクなんだろ」
「どうしてっていわれても。。。どうしてだろう?」
「はぁ、何でわからないのよ。あなたの加護は?」
「僕の加護は、戦神中位、滅神低位、後は運神中位の3つだよ」
「高位はないにしても、加護は申し分ない、、、」
「な、なら、試験の時調子が悪かったとかか?」
「う~ん?。その試験っていうのを受けてないんだよね」
「「試験を受けてない?」」
僕の返答に2人の声がかぶる。
「なら、どうやったら学院に入れるんだよ。どんなルートであれ試験を受けないとクラス分けが出来ないだろう。別日に試験を受けたわけでもないのか?」
「うん。受けた記憶はないかな?。そもそも昨日久しぶりに帰ってきたばかりだし」
「なら、今日試験を受けてランクを決めるんじゃないのか?」
「なるほど、確かにそうなのかも知れないけど、、、」
「そもそもどうしてここに来たのよ。試験を受けてないなら自分のクラスを判断できないでしょ」
「それは、昨日テレサから、、、あれ?」
僕は昨日テレサから劣等生と言われたからここに来たと言おうとしたが、そういえば正式な書類のようなものを見ていないことを今になって気付いた。
僕の背筋に嫌な汗が流れ、体の血の気が引いていった。
(僕は何をもってここにいるんだろうか?。。。入学式典のところに名前はあったからここの学生になったのは確かだろうけど、いや、先生になったというテレサが僕が劣等生だといったのだからそれを信じよう)
「うん。やっぱり僕は劣等生だよ。そう言われたからね、ここの先生から」
「そうなの」
「ちぇっ、神の子と噂された人物が最下位生か。仲良くしておけば助けてもらえると思ったんだけどな」
「ごめんね。クシャルさん、、、であってるよね」
「呼び捨てでいいよ。何で敬語を使うんだよ」
「そうだよね。まぁ、でも頑張ろうよ。この世界は武力においては努力が必ず報われるから」
「それ、本気で言ってるの?。この世界は加護がすべてよ。あなたにはわからないだろうけど」
「その事なんだけどさ、」
〔ガチャッ〕
僕がハリベルに言葉を返そうとすると、勢いよく扉が開かれ、先生と思われる素顔どころか肌の色すらわからない黒装束の人物と、テレサが現れる。
「みんなぁ、好きな席に座って」
テレサがみんなに声を掛ける。すると、教室にいた8人は各々好きな場所に座る。とりあえず、ハリベルとクシャルは僕の両隣に、そのほかの生徒達は4人と1人といった具合に席が分かれている。
「私はこのクラスの副担当教員のテレサと言います。そしてこちらの怪しい見た目の先生が皆さんの担当教員のビスコッティ先生です」
「怪しいは余計だ」
黒装束のビスコッティ先生は静かにテレサに突っ込みを入れる。その声から男性であることが推測できるが、僕はそんなことよりも気になっていることがあった。
(魔力を感じない?)
僕は父との修行により少なくとも魔力を隠している人間でもない限り、生き物であれば何らか魔力を感じ取ることが出来るようになったのだが、このビスコッティ先生から魔力を感じ取ることが出来なかった。
(遠隔操作の魔法か何かを使っていて、これはただの人形か?)
僕のそんな疑問はすぐに解決した。
ビスコッティ先生が話始める。
「因みに君たちにはわからないだろうが、私のこの体は人形で、本体はここにはない」
「えっ!?」
その言葉に場にいた生徒達が驚きの声をあげた。
「君たちを指導するのは隣にいるテレサ君であり、私は形だけの担当教員だ」
「どういう意味ですか?」
4人組の一人の女子生徒が質問した。
「君たちが今年やることは単純だ。この屋敷のダンジョンを攻略することそれだけだ」
「ダンジョンを攻略?。知識を学んだりは?」
「歴史や魔法の基礎はテレサ君から学ぶといいが、基本的に教科書を読めばわかることだ」
「はぁ?。それって、最下位生にまともな教育をするつもりはないということでしょうか?」
「うむ。その通りだな」
「そんな!」
「なんだ?。少しは希望でも持っていたのか?。最下位生でも、頑張って学べば劣等生と蔑まれる状況から脱出できると。
残念だったな。この学院は才能のない者のために時間を割くほど余裕があるわけで無くてね。
あぁ、因みにだが、ここの地下にあるダンジョンを最下位生で攻略することができた者達はまだ1パーティも現れていない」
「な、難易度は?」
「第九等級。最低ランクのダンジョンだ。下位にランク付けされた生徒でも攻略できる難易度だ」
「でも、それって、ちゃんと鍛えてもらうことが最低条件なんじゃ」
「ふっ。君たちは鍛えようがないと判断されたのだよ。君の加護は?」
「わ、私は、先見神の加護の、、、最下位です」
この場で言う最下位とは加護が弱すぎで何度も確認をしたという意味だ。本来は高位、中位、下位の3分類しかされていない。
「つまりは、商人御用達の契約魔法の才能も乏しいうえに、戦闘に使える加護もない。なぜそんな状況でこの学院に来ようと思ったか、全く理解に苦しむね」
「うっ」
担当教員からの痛烈な言葉に若干言葉が震えているのがわかった。
「で、でも、もしかしたら、才能が開花するかも」
「ふん。所詮は乏しい才能だ。開花したところでたかが知れている」
「。。。」
「もう私は人形とリンクを切る。まぁ、もう話すことはないと思うが2つ教えておこう。一つはお前たちと同ランクの先輩達は皆この学院を去っている。そしてもう一つは、今年から最下位には新たなルールが追加された。『全闘血戦』の開催される半年後までにダンジョンを攻略できなければ即刻退学だ。頑張りたまえ」
その言葉を最後にビスコッティ先生の人形が崩れ落ちる。
教室も静まり返り非常に暗い雰囲気に包まれている。そんな中テレサが手を叩きながら皆に言葉を駆ける。
「はい。みんな。私も正直に言います。先程ビスコッティ先生が言った言葉は、この学院のほとんどの先生たちの本音です」
その言葉をみんな無言で聞く。
「それとビスコッティ先生は普段は普通学舎で操作魔法を教えている先生です。私が新任なので形だけですが担当教員になってもらったという形になります。
また、ここの地下から繋がっているダンジョンは学院の様々な場所からも繋がっていて、全学生が最初に攻略に挑む場所です。
そしてそのダンジョンを3カ月以内に攻略すれば3か月後に優秀生徒として表彰されます。皆さんが見返す最大のチャンスでもあります。なので、みんなで力を合わせて頑張りましょう!」
テレサの掛け声に僕以外誰も反応することが出来ないほど暗かった。その為、僕だけでも反応してあげようと掛け声をあげる。
「。。。。っぉ、お~!」
静まり返る教室の中で掛け声を出した僕は嫌な汗を思いっきりかいた。
「テレサ先生」
ビスコッティ先生に質問した女子生徒が手を挙げる。
「どうしました?。エイナさん」
エイナと呼ばれた女子生徒が質問する。
「正直に言えばビスコッティ先生が言っていたことは事実です。私には才能はありません。とても3カ月以内にダンジョンを攻略することなんて、まだホーン・ラビットすら倒したこともないんです」
「それについては心配いりません。あなた達は非常に運がいい。実はここに一人とても優秀な先生がいるんですよ」
テレサはにこやかに笑いながら、僕の顔を見つめていた。




