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第五十七話 ~バルバトス~

(なぜ皇帝陛下がここに来ているんだ?。予定にはなかったはず)



 僕はひざまずきながら皇帝陛下の話を聞いていた。



「今も昔もあまり変わらんな。だが、少しだけ儂の頃より我慢強いようだ。儂が学生の時は、すぐに校舎を半壊させて、先生に叱られたものだ」



 皇帝陛下は高笑いしながら昔話をしているが、誰も笑わない。いや、笑えないため、ただひたすらに空気が重くなっていく。



(誰かこの重い空気を払ってくれ)



 僕は心の中で、誰かがこの空気を壊してくれるのを願った。


 すると、その願いが叶ったのか、皇帝陛下の現れた場所から一人の女性が、現れ真横に立ったかと思えば、皇帝陛下の許しを得ずに話始める。



「ウィル、貴方なにしに来たのかしら?」


「おや?。ラワー先生、いっておりませんでしたかな?。サプライズ登場すると?」


「ウィル、貴方のそういうところはお爺さんになっても治らないのね」



 その女性、ラワー・ハルメシア学院長は皇帝陛下に、微笑むと魔力探知をしてなくともわかるほどの強大な魔力を体から解き放った。


 それは、如何にこの学院でもっとも偉くとも、皇帝陛下に対して向ければ、次の瞬間には皇帝陛下の護衛達に、剣を突きつけられ囲まれてもおかしくないほど、禍々しい物に感じられた。


 しかし、現実のラワー学院長は囲まれておらず、皇帝陛下の護衛は一人も現れない。



「ウィル、護衛はどうしたの?」


「先生がおれば必要ないといって、おいてきましたわ」


「はぁ、まったく。マーカス君はどこかにいるのでしょうけど」



 ラワー学院長は皇帝陛下の言葉を聞くと呆れたように肩の力を抜く。それと同時に禍々しい魔力も消え去った。



(今の魔力は)


「貴方はもうこの国のトップなんですから、もっとちゃんとなさい。

 公の場に来るときは、事前に来る時間を知らせること」


「もちろんそうしましたとも。今朝『知らせ蝶』の目が四つになっていたでしょ?」


「ふぅ。。。そうね、あなた達が生徒の時は良くやってはわよね。『一つ目』は迷子。『二つ目』は戦闘。『三つ目』は発見。『四つ目』は急行。ダンジョン探索の基本ではあるけれど、、、はぁ

 まぁ良いわ。次からはちゃんとミカエラに連絡させなさい」



 ラワー学院長は深い深呼吸をしたのち皇帝陛下に注意をした。



「先生。残念ながらミカエラは今は南に行っておるのですよ」


「あら、そうなの、それは残念ね。それはそうと、ウィル。そろそろ皆に楽な姿勢をさせてあげなさい」


「おお、これは、私としたことが忘れていた。態勢をくずすことを許す。自由にいたせ」



 皇帝陛下の言により、その場にいる全員が立ち上がり、楽な姿勢を取ることを許される。



「それで、ウィル。わざわざ何しに来たのかしら?。目的を言いなさい」


(皇帝陛下に対する口調がだんだんきつくなっている)


「もちろんですとも。んっん~では。禁煙の大陸の情勢はここにいる皆は良く知っているかとは思う」



 皇帝陛下の顔が一瞬にして引き締まり話始めると皇帝陛下が現れた時とは違った意味の重い空気が流れ始める。



「そこで、この国の未来を担う若者達に、より一層の成長を促すため今年より、毎年開催される学院選抜対抗戦『闘大会(カイラス)』を取りやめ、『全闘血戦(バルバトス)』を行うことが決まった」


「『全闘血戦(バルバトス)』?。なんだそれは?」


「伝説は本当だったのか?」



 『全闘血戦(バルバトス)』という言葉を聞いて、中には何かを知っている者もいるようではあったが、ほとんどの者が、内容を理解していない様子であった。



「『全闘血戦(バルバトス)』を復活させるなんて、、、ウィル!」



 皇帝陛下が謎の大会の名を口にした途端、ラワー学院長が再び禍々しい魔力を開放する。それは、先ほどとは全くと言っていいほど比べ物にならない濃さであった。


 魔力に圧されたため、生徒だけではなく、大人の貴族ですら、気絶し倒れ始める。


 その魔力に耐え、立っている者は僕を含めもはや数えるほどしかいなくなっていた。



「先生の怒りはごもっともですがこれは国の決定です。この国の未来のためにラワー先生にもご協力を願いたい」


「私の教えが全く身になっていなかったのかしら?」


「もちろん、先生からは頭に焼き付くほど聞かされましたから知っております。ですが、先生も知っているでしょう。今この世界は時間をかけて若人の成長を待っている時間はないのです」


「くっ、ですが、あまりに早すぎる。せめて数年は鍛えてからでも」


「ミカエラが南に行ったとお伝えしたようにもう時間がないのです。自分の身は自分で守らなくては、厄災はすでにこちらを見ています。すこしでも多くが助かるためには必要なことなのです」


「もう、それほどに時間がないのね」


「はい」



 皇帝陛下の返事を聞くと再び禍々しい魔力が消え去る。



「それにラワー先生。どうやら、数人は見込みのある生徒が入ったようですな」



 ラワー先生の魔力に耐えれた生徒は、僕を含めわずか4人であった。

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