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第五十一話 ~帝都ハルメシア~

 神発暦3515年 秋




「ほら、だうだい?去年の新作の魔道具だよ。今なら安くしとくよ」


「よお、その恰好、お前さん剣士だろ。うちの武器見てかないか?」



 クラノス帝国の帝都ハルメシアは年数回の大賑わいを見せていた。この日は帝都にあるハルメシア学院の入学式典が開かれ、それに参加するため帝都近隣の都市から数多の新入生達、そしてその親達が訪れる日のため商人たちからすれば、年に数回の書き入れ時となっている。


 しかし、人がたくさん集まるということは同時に問題も種も集まるということになる。



「ここはお前みたいな田舎者が入るような店じゃねえんだよ」


「ドン!」



 男の大声が店の中からしたかと思えば、次の瞬間には扉勢いよく開き、中から汚れた布製のローブを着た少年が吹き飛ばされ出てきた。



「おいおい、どうした?。母ちゃんにでも泣きつくか?」



 店の中から、ローブを着た少年を吹き飛ばしたと思われる少年が姿を現す。その身に着けているのは、どれも誰が見ても一級品とわかる服を着ていた。恐らく貴族の子供であろう。



「この...」



 吹き飛ばされた少年はゆっくり立ち上がると、その腰に付けた剣を抜いた。



「おおッ」



 周囲の人々はそれを見てこれから始まることが頭によぎる。



「おお、いいね。おんぼろのローブに、安い銅の剣。いかにも田舎者だ」



 貴族風の少年はそういうと、腰の剣を抜く。両者が睨み合う。



「おりゃあ!」



 ローブを着た少年が初めに斬りかかった。貴族風の少年はその剣を正面から迎え撃つ。



「カンッ、キンッ」



 金属がぶつかり合う音が響く。



「ほらほら、そんな安い剣だから攻撃が軽いぞ」


「ドンッ」



 ローブを着た少年が貴族風の少年の足の払う。



「うぉ!」


「ドス」



 貴族風の少年は意表を突かれしりもちをつく。



「くそ......っ!?」



 貴族風の少年の目の前には銅製の剣が突き付けられていた。



「俺の勝ちだ。さっきの言葉を撤回しろ」


「田舎者っていったのをか?」


「この剣は父の形見だ」


「ああ、そっちね。悪かった.....よ!」



 貴族風の少年は無詠唱で土の放出魔法を放った。



「がはっ!。せこいぞ」



 腹部にもろに当たったため息も途切れ途切れなローブな少年に貴族風な少年はいった。



「おいおい、これだから田舎者は、いつ魔法が禁止だなんて言ったよ。それに先に剣を抜いたのはお前だろうが......。まぁいいや。これに懲りたら田舎に帰るんだな。ハハハハハ」



 貴族風の少年はそういうと、笑いながら背を抜け去っていこうとすると、ローブを着た少年は最後の意地とばかりに唾を吐きかけた。


 唾が貴族風の少年の衣服に当たると、歩みを止め振り返った。



「貴様!。これは今日母上が特別に用意してくれた服だぞ!」



 貴族風の少年はそう言うと怒りのままにローブを着た少年を蹴り始める。



「このッ、このッ、お前のような者には一生掛かっても買えないものだぞ。それを良くも汚してくれたな」


「グハッ....ガハッ...ゴホッ....」



 周囲にいた観衆たちは早く衛兵がやってこないかと、他人任せにその状況をただ見ているだけだった。



「殺してやる」



 貴族風の少年はそういうと、無詠唱で先ほど不意打ちで作った土の放出魔法よりも威力の高い、岩の放出魔法を作り出す。



「死ね」



 貴族風の少年がそう言うと、ローブを着た少年に岩の放出魔法を放つ。



「ドォオン!」



 岩が勢いよく地面に放たれたためその場には土煙が立ち込め、その様子をただ見ていた観衆達もローブを着た少年の安否を思った。


 そして、土煙が晴れると、貴族風の少年とローブを着た少年の間に、一人の新しい少年が剣を抜いて立っていた。岩の放出魔法は綺麗に真っ二つに斬られローブを着た少年には当たらなかった。



「なんだ。お前は」


「僕の事はどうでもいいじゃないか。それよりもさすがにやりすぎだよ。たかが服じゃないか。それとも形見だったかい?」


「貴様!」



 貴族風の少年はその言葉に馬鹿にされたと思い、突然現れた少年に岩の放出魔法を放とうとした時、一瞬にしてその少年が姿を消す。



「ッ....!?」



 次の瞬間にはその少年は貴族風の少年の背後から首筋に剣を当てていた。



「続けるかい?」



 少年がそう言うと、ようやく衛兵達が来たのか、観衆の人混みの奥の方から声が聞こえてきた。



「くそっ。覚えてろ」



 貴族風の少年はそう吐き捨てると人混みの中に紛れていった。



「大丈夫だったかい?」


「すまない」


「ううん。別にどうってことはないよ。でも一つだけ聞かせてよ。どうしてわざとやられたの?」


「今のがわざとに見えたのか?」


「ああ」


「それは、かいかぶりだ。お前は誰だ?。俺はウリエ・キリジスタン」


「ぼくは、レオン・マルク。よろしくね」



 レオンの差し伸べた手をウリエは掴んだ。



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