第五十話 ~出会い~
神発暦3512年 秋
僕は父さんにすべてを打ち明けた。自分が別の世界からの転生者であること、そして、霊魂の神ジーラから魔法を授かっていることを。
父さんはそれをただ黙って聞いてくれた。そして、僕の話が終わると、父さんは静かに話し始めた。
「そうか、そう言うことだったのか。お前がオラクルを初めて退けた後のあれは、私に気を使っての事か?」
「父上が最初に僕に聞いた時は、本当に記憶はありませんでした。強大すぎる神の力を使った後遺症で直前の記憶が抜け落ちていました」
「つまり、その魔法を使えば、記憶をなくすということか?」
「いえ、そう言うことではないです。正直自分自身この魔法の本来の力を理解しているかと言えばそうでないと思っています」
「と言うと?」
「今僕にできるのは、英雄の霊魂を呼び出して、その力を借りることです。ですが、そもそも神様がこの魔法を使う時、果たして英雄や同じ神の力を借りる程度なのかと、自分は思っています」
「つまり、まだ、なにか隠された力があると?」
「はい」
「そうか、その英雄の力を借りる魔法は、十分に使えるのか?」
「いえ、満足には程遠いと思います。それに英雄の力が強ければ強いほど自分自身の負荷が重くなって、戦いの最中には全くと言っていいほど使い物になりません。
正直、宝の持ち腐れ状態です」
「そうか。レオン。よく聞きなさい」
「はい」
「お前が一体、防衛戦の時何を見て、何を知ったか。それは聞かないでおく。恐らく私のようにただの英雄崩れ程度では到底お前の助けにはならないのだろう。
だがな、たとえお前が、異世界の人間だったとしても、神の子だとしても、私の子でもあるのだ。可愛い大事な息子の一人だ。だから、決して一人で抱え込むな、お前からすれば私は心もとない存在かもしれない」
「そんなことは...」
僕が父さんの言葉を否定しようとすると、父さんは僕の言葉を止める。
「いいから聞きなさい。神と比べてしまえば私など、指一つで倒されてしまうほど弱いだろう。だがな、少なくとも今のお前を鍛えることはできると思っている」
「えっ!?」
「正直、私はマルク領の領主として働くことに必死で、お前だけでなく、兄達の修行もウルフリックに任せきりだった。
お前の兄達はすでに成長し、私の元を離れている。だがな、レオンお前はまだ私の元にいる。どうだろうか、レオン。ここ父にお前が強くなるための手助けをさせてはもらえぬか?」
「え!?、でも」
「こう見えてもな。お前のお爺ちゃんが天に召されてなければ、第一等級の冒険者となれてたんだぞ。それにマルク領は案ずるな、皇帝陛下と話して、三年間だけホークが治めることになった」
「兄さまが?」
「ああ、本人にはこれから言うつもりだが、恐らく、可愛い弟ためだ快く受け入れてくれるだろう。それに私の後マルク領を統治するさいの練習にもなる」
「それは、マルク領から離れるということですか?」
「お前も知っているだろうが、かつて私達の先祖、ゲビィター様は戦神の神から絶大なる加護を授かりある場所で修行をしたそうだ」
「ある場所」
「ああ、そこで私も今の強さ手に入れた。本来であれば、ホークが騎士として行き詰った時、その場所を教えるつもりだったが、お前の話を聞いて考えを変えた。レオンお前は神に選ばれた、これには必ず何か意味があるはずだ。
どうするレオン?。父と修行をするつもりはあるか?」
父さんからの思いがけない提案に僕は
「よろしくお願いします。お父様。僕は今よりもずっと強くならないといけないんです」
「そうか、来週には向かうことになる。友達にも別れを告げに行くと言い」
「はい、ありがとうございます」
*
「必ず、また会おうねレオン君」
「次会う時は俺もお前を守れるくらい強くなってやるからな」
「ともに冒険者となって会う日を楽しみにしてる」
「うん。ありがとう。みんな。僕もみんなをちゃんと守れるくらい強くなって見せるから」
僕はマルコ、エミリー、ショーンの三人と暫くの別れを告げた。そして、僕は父と修行に出るまでの間の最後の日。ある場所に場所に向かった。
「ここが聖堂」
僕はマルク領の教会の神父様から言われた通り、聖堂にいる司教に会いに来ていた。その外装はとても豪華で華やかであった。
少し緊張しながら聖堂の中へと入る。聖堂の中はとても静かで、何人かの人が、十三柱の神を模した石像に祈りを捧げている。
僕は聖堂の真ん中を歩いて、教壇の上にいた神父さんを訪ねた。
「どうされましたか?」
「これを」
僕は神父様からもらった手紙を渡した。すると、神父様はその手紙にある模様を見て、中身を見ずに、ぼくにここにいるようにいった後、どこかへ行ってしまった。
しばらくして、数人の神父様が現れると、僕を聖堂の上階へと案内した。そして、たどり着いたのは大きく立派な装飾の施された重厚な扉だった。
その扉が開くと、奥には一人の仮面をかぶった女性がいた。
「あなたは!」
僕は思わず声を出してしまう。
「ええ、お会いすることになると思っていましたよ。レオン・マルク」
「どうして、僕の名を?」
すると、仮面をかぶった女性がお面を外して挨拶をした。
「私がこの聖堂を任されている司教のクリスタ・グレースです」
僕は司教様の顔を見て呟いた。
「ジーラ様?」
*
神発暦3512年の秋、いずれ英雄となる少年レオン・マルク。その余りにも険しい運命はまだ、始まったばかり。




