第四十四話 ~マルク領防衛戦・神の眼~
神発暦3512年
マルクの町は防衛戦を引いたのものの、魔物の襲撃を防ぎきることは出来ず家屋が倒壊していた。だが、その家屋を壊したであろう魔物たちで動いている者は一匹もいなかった。
「父さんとウル爺は勝てるかな。確率は50%、二回に一回は死ぬ未来が見えてしまった。でも僕があの場に行けばみんな殺された。だから、僕はここでお前と戦う未来を選んだ」
「そうか、やはり貴様が我を殺した存在か。【黒】が行けばわかると言った理由がわかった。記憶はなくとも本能が叫んでいる。本気でやれとな」
ゼストの前には仮面をかぶった少年が立っていた。その少年の周りにはまだ魔素へと返る前の魔物の死骸が倒れている。
「変身魔法・鬼神化【隠形鬼】」
オラクル・オーガであるゼストの体は人に近い姿から魔物のオーガに近い姿へと変わってゆく。その色は黒く、角は伸び、その手には黒い二本の短刀を携えている。
「殺されたときの我がどのように戦ったのかは覚えていないが、これが我の四鬼としての本気の姿だ。ゆくぞ」
ゼストの姿が黒い煙に変わると少年へと向かう。
*
「タレス先生。ありがとうございました」
ぼくはタレス先生との最後の特訓を終えた。
「レオン君。体は大丈夫なのかい?」
「はい!。このとおり」
ぼくは体を動かし、自分が健康だとアピールする。
「それならいいが。今回の戦いは必ず勝って帰ってくるからね。帝都に帰ったら私の行きつけの飯屋を紹介してあげよう」
「はい、期待して待ってます」
ぼくはそういって家路へと向かう。その道中にぼくは自身の神の魔法。霊魂魔法についての記憶を呼び起こしていた。
あの時ぼくが頭の中で理解した霊魂魔法という魔法は霊魂を自身に取り入れその魔法や魔力を一時的に手にする魔法であった。
ぼくがゼストという魔物を倒したときは神卸。すなわち神の霊魂を自身に取り入れたことになる。正直今のぼくにそれをもう一度やれと言っても恐らく無理だろう。神様も言っていたがあれはあの時の特別な状態でのみ使えた最初で最後の切り札なのだから。
そもそも記憶を失っていたのも恐らく身の丈に合わない力を無理矢理に使えるようにした後遺症だったのだろう。
そして今のぼくがどれほどの英雄の霊魂を取り入れることが出来るのかは正直試してみないと分からないし、もう一つこの魔法の発動には条件がある。ぼくがその英雄の事を知っていないといけないということだ。
それはそうだよな。とぼくは思った。呼び出すときにだれを呼び出すのか当然指定しないといけないだろうと、そしてぼくが知っている英雄は今のところそんなに多くない。死んだ英雄で言えばぼくのご先祖様であるゲビィター様。後はまだ生きているだろうけどパレス先生の言っていた神の魔法を使える人たち。
(よし帰ったら、まずは今一番必要な魔法を知って良そうな霊魂を卸そう)
僕は決心して家へと返った。
*
そして自室でぼくは魔法を発動する。
「霊魂魔法・英霊卸【オネ】」
ぼくが魔法を唱えるとぼくの体には見たことのない模様が浮き出てくる。そして光の柱が立ち感じた。
(くる!)
ぼくがそう思った時、ぼくの意識の中にもう一つの意識と言えばいいのか、この場合は霊魂というのが正しいだろう。が入ってくる。
「がぁ、あぁ!」
ぼくはその力の大きさに思わず声を荒げてしまう。
(神様の助力がなければこれほどに辛いものなのか)
ぼくが卸した英雄の名は【オネ】。パレス先生が説明してくれた未来を見る力を持った魔族の女性だ。当然卸されている本人は自身が卸されていることは知らないだろうが、ぼくには【オネ】という女性の持つ魔力、そして魔法を感じ取れた。
(先見魔法・神眼!)
ぼくは何とか意識を保ちながら魔法を唱えることに成功する。そしてぼくの眼に未来の映像が流れ込む、それは未来を知らずに動いたぼくであったり、知った後に行動を変えたぼくでもあった。
そして、次の瞬間には魔法の効果が解けぼくは床に倒れ伏していた。
「はははっ。できた。けど、これじゃあ戦闘には使えないや」
これほどまでに体力を消費してしまう魔法ではあのゼストのような最強の魔物とであったとき太刀打ちできるとは思えない。そして、
「おかしいな。きっとぼくの力が足りないだけだろうけど、確実に起こる未来を見ることが出来なかった。それにゼストにとどめを刺せた未来を見れなかった」
そう、ぼくが見た未来ではゼストはなぜか復活しいて、見たこともない黒い霧となりぼくは何度も殺されていた。一度、父さんたちと合流する方法も取ったがなぜか合流した瞬間未来が途絶えてしまった。また、ただ単にいうことを聞いて帝都に帰ればマルク領防衛戦の失敗の方を聞く未来しかなかった。そしてもっともゼストを追い詰めることに成功する未来でもとどめの一撃を刺そうとすると未来が見えなくなった。
なぜそれ以降の未来をみることが出来ないのかは分からなかったが、ぼくが取るべき手段はもっともゼストを追い詰めた未来を実行することだけだった。
*
そのあとのぼくの行動は単純であった。姿を隠し総司令であるキオッジャ伯爵と接触し、町が破壊されることを告げ驚くなというだけ、また、町から出る馬車が最後に出るときぼくがいないせいで出遅れ死人が出てしまったためパレス先生に頼み嘘を従者に告げてもうこと、
そして、パレス先生の役目はそれだけでなくこの戦いで最も重要な二つの仕事があった。一つは父さんたちの体力を完全に戻しキオッジャ伯爵を救ってもらい決して油断しないこと。二つ目は......
*
ぼくは黒い霧となったゼストに対し剣を振るうが霧が試算しぼくの視界は完全な闇となった。そして視覚からゼストの短刀がぼくの首を狙う。ぼくはそれを剣を盾にして防ぐ。高い金属音が鳴り響く。
「やはり、一度、我を殺しただけはある。いったい何が見えているんだ?」




