第三十九話 ~マルク領防衛戦・転換~
神発暦3512年 秋
時は少し遡り戦いの喧騒の中、ミラ・ベルンとヴォルカンオーガが戦っている。
「ベルン流・爪の舞、放出操作魔法・水爪」
ミラは自身の剣に水をまとわせ、剣自体が獣の腕のようになり先端は獣の手の形をし鋭い爪が生えている。そして、まるで踊るように剣を振る。そして、その剣の先端から水の刃が飛んでいく。
ヴォルカンオーガはそれをマグマで全身を覆った状態の両腕で殴りにいく。2発の水の刃は高温のマグマにぶつかったことにより蒸発し水蒸気へと変わる。しかし、ミラからさらに水の刃の追従がヴォルカンオーガを襲う。その猛攻を何度も弾いていくうちにヴォルカンオーガの体に纏わりついているマグマの温度が冷え固まり始める。そして、水を蒸発させる温度が消えた状態のヴォルカンオーガにさらなる水の刃が襲う。
「がぁああああ!」
ヴォルカンオーガの叫びがこだまする。ヴォルカンオーガの腕は水の刃によって切断され地面に落ちる。両腕を失った。ヴォルカンオーガは最後の力とばかりにミラに突進し始める。体を再度高温状態にしようとするが、ミラの水の刃により温度を上げることもできず、体を切り刻まれていく。そして、ついにミラとあと3メートルといった距離までたどり膝をつく。そして、
「ぐるぅうあああああ」
ヴォルカンオーガの最後の叫びとともに、ミラの水の刃がヴォルカンオーガの首を狩った。
「お見事です」
「今は賛辞を受けている暇はない。戦況は?」
戦闘が終わりすぐにミラに話しかけてきたのは、第二旅団の副団長のルークであった。
「見渡していた限りですと、副師団長のカール様の戦況は良好。もう間もなく殲滅がお...わ...る」
「どうした?」
報告をしていたルークの言葉が詰まり、ミラが問いただす。しかし、ルークのミラの背に目線を向けたまま動かずにいる。
「なんだ?」
ミラはルークの見ている方向に目線をやると、森の中から巨大な大樹が突如出現した。
「なんだあれは」
さすがのミラもその状況に驚きを隠せずにいた。
(あそこは別働隊のルート上)
ミラは部下がなにか強大な敵と交戦しているのだと思った。
(どうする?救援に向かうべきか?)
ミラが判断を迷っていると、一人の騎士がミラの元にやってくる。
「ご顕在でなりよりです。ミラ殿。本軍のキオッジャ様より伝言です。あの巨大な樹海が発生している場所にドナー様率いる遊撃部隊が向かったとのこと」
「そうか、では我らは」
「はい、右翼の戦況が整い次第、左翼の援護をと仰せつかりました。本軍は先に左翼の援護に向かっております」
「そうか、あいわかった」
騎士はミラに伝言を告げると左翼へと駆け出す。
「すぐさま、右翼の敵を殲滅する。カールのもとに向かうぞ」
「はっ」
*
「どうすれば、いいんだ。このままじゃ全滅だ」
左翼では一人キオッジャ伯爵の長男であるホルンが一人絶望の淵にいた。
「いつまでたっても遊撃隊がやってこないせいで、戦況が......」
そんな思考を丸投げしてしまっているホルンに声がかけられる。
「情けない、それでもキオッジャの男か貴様は」
突然の声に体をビクつかせたホルンは恐る恐る後ろを振り向く。
「父上」
「お前にはまだ早かったようだ。これなら弟のガランを連れてくるんだった」
「ち、違うのです。父上、オラクルがこちらに出たのです。なのに遊撃隊が来ず」
「だからどうした?」
「なっ」
思わぬ父の言葉に固まるホルン。
「ドナー殿も今まさにあの大樹のもとで戦っていらっしゃる。貴様は時間稼ぎもできないのか」
「ひっ」
父のオーガを連想される剣幕に思わず悲鳴をあげる。
「貴様は下がっていろ、ここからは私が指揮をとる」
キオッジャ伯爵がそういうと、声を上げる。
「左翼の騎士たちよ、よくぞ持ちこたえた。我、防衛戦大将キオッジャが応援に駆けつけたぁああ」
そういうと、後ろから総勢一千の軍隊が左翼へと流れ込む。
「オラクルオーガは狩ろうとせず、時間稼ぎに専念せよ」
「はっ」
キオッジャ伯爵の横に使えていた騎士が命令され、現在オラクルオーガと戦っている各旅団の長たちに伝令を告げに行く。
*
戦いの上で戦況を見守る黒い影が動きを見せる
「うむ、敵の本体もやってきたか、...ゼスト聞こえているか。...あぁ、そうだ。そろそろ弟の援護に来い、もう魔力は十分溜まっただろ」




