第三十五話 ~マルク領防衛戦・ベルンの狼~
大変長らくお待たせしました。ごめんなさいm(_ _)m
小説を書き始めてすぐにスランプみたいなものになってしまいましたが、なんとか脱出しました。
明日より、最低でも週に一回は必ず更新していきますので今後ともよろしくお願いいたします
神発暦3512年 秋
「ふむ、この群れは右側が弱点か」
魔物の群れ後方の上空にて戦いの様子を伺う影が一つ。その影が指を振るうと、群れの後方で待機しているおよそ五千の群れがそれぞれ分かれて進軍を開始する。
「はぁ、それにしても元々知能の低い魔物がオラクルとなっても頭の悪いままなのか?」
影は眼下で暴れているオーガ種のオラクル体を見ながらあきれた様子で語る。
「他の奴等も勝手にどこに行ったものか。全く進軍を許可されても自由行動を許可されたわけではないのだがな。しかし、ことのほか強者が少ないな。複数で囲んでさえシュテンをやれないとは」
*
「くそ、くそ」
ホルンは崩壊しかけている左翼をどうにか立て直すため奮闘してはいた。
しかし、第一師団からの救援と第二師団の精鋭を持ってしても流石と言うべきかオラクルオーガを討伐できずにいた。
「なんなんだあの魔物の強さは、このままでは他の上位個体をやれないではないか。オラクル体と言うことなのか。くそ」
第二師団に迫っている魔物の群れは現在およそ二千と数では第二師団が勝ってはいるが、上位の魔物を単独で倒せる実力を持つ各旅団の団長及び副団長は単独で大暴れしているオラクル体と思われるオーガの足留めに精一杯で、他の上位個体を相手にする余裕がない。
そのため、戦線が崩壊するのも時間の問題であった。
「マルク殿は何をしているのだ!ここにオラクルがいるんだぞ!どこで道草をくって……まさか!逃げたのか…あの田舎貴族!」
*
ホルン率いる左翼が壊滅寸前の中、右翼ではミラ・ベルンが合流した第二旅団が、ヴォルカン・オーガ率いる凡そ三千の群れと交戦していた。
「あれが噂のベルン家の狼」
そう言葉を発したのは、第二旅団の副団長のルークだった。彼の旅団内での役割は戦闘ではなく、付与魔法による自軍の強化であったため、この場にいる誰よりもその戦いを見ることができていた。
ルークが見入ってしまっているのはヴォルカン・オーガとその側近と思われる5体のフレイム・オーガと戦う師団長のミラの姿だった。
ミラの側には、水で作られた狼、言うなれば水狼達が10匹存在している。
これは放出操作魔法と言われる。放出魔法と操作魔法の混合魔法で作り出されたもので、放出魔法で水を生成し操作魔法で狼の姿に変化させたものである。
ミラの家系である、ベルン家では代々神話に語られる神狼が家紋となっているため、狼という生き物に対する知見が深い、また、戦闘における姿勢もミラの使っている水狼のように狼とともに戦うものであった。
「グゥオオオ!」
「ガルゥゥ!」×2
フレイム・オーガと2体の水狼がにらみ合い、互いに攻撃のタイミングを伺っているように見える。
フレイム・オーガの特性はその名前にもあるように火炎を使うオーガで、口から火炎を吐き出す他に、フレイム・オーガの手そのものが常に発火性能を持っているため、常時二千度を超える炎の拳を持っている。
そのため、冒険者の基本方針としては近寄らずに放出魔法などを駆使して倒すことが定石であった。
「ダン!」
少しの間のにらみ合いの末、一体の水狼がフレイム・オーガに対し突進した。
「ブォオオオ」
フレイム・オーガは水狼に対して火炎を放つ。
「プシュゥゥ」
火炎が水狼に当たると、フレイム・オーガの視界は水蒸気に包まれた。
「ガルゥゥ」
そこにもう一体の水狼が、不意をつきフレイム・オーガに噛み付く
「グゥア?」
すると、たちまち水狼はその狼の姿を崩し出し、水の塊がフレイム・オーガを飲み込む
「グッ、ガッ!」
そして、フレイム・オーガは水球に閉じ込められた。
「すごい……」
ルークはミラによる混合魔法である<放出操作魔法・水牢>の性能に驚愕していた。
ただでさえ混合魔法はその操作が難しいと言われている中で10匹もの狼たちに命令を下すことができるのは、強力な神の加護を得ている証拠だった。
ミラの作り出した水狼達により5体のフレイム・オーガ達は皆水球に閉じ込められ、必死にそこから抜け出そうともがいている。
「後はお前だけだな、ヴォルカン」
ミラはそう言うと、4体の水狼を作り出すと、ヴォルカン・オーガに突進させた。
「ガゥ!」×2
二体の水狼が先陣を切って、両サイドから突進する。
「グオ」
ヴォルカンオーガがそう声を出すと、たちまち体の表皮が赤く光だした。
「ドゴォオオ」
すると、一瞬にしてヴォルカンオーガを中心に爆発が起きる。
その爆発は先陣を切った2体の水狼だけでなく、後方で隙をついて噛みつこうとしていた水狼達をも巻き込んだ。
「やっぱり、そう簡単には殺らせてもらえないわね」
ミラがそう言うと、前方のヴォルカンオーガがミラに対して怒号をあげる
「ガァアアア!」
第三等騎士ミラベルンと第四等級ヴォルカンオーガとの戦いが始まった。
*
「あらあら、この程度なのかしら」
「黙りなさい、この蛇女!」
蛇の髪を持った魔物がマーシャに対して、挑発的な言葉を発する。
《ナーガとも違う、こいつはなんの魔物なの》
マーシャは心のなかで目の前の魔物の正体を推測する。
《蛇の髪の毛を持つ珍しい姿の魔物の情報が世間に広まってない訳がない》
これまでこの世界で広まっている蛇の様相をした魔物は2種類であった。
一つは、下半身が蛇で上半身は人に近いナーガと呼ばれる魔物。
もうひとつが、腕と頭が蛇になっているベバンダという魔物であった。
つまり、今マーシャが対峙している魔物は未知の魔物であった。
《急いで、二人を戻さないと》
マーシャは自身の左側で石のように固まったドナーとウルフリックの二人を確認した。