第三十二話 ~マルク領防衛戦・前日~
神発暦3512年 秋
≪今の状態だと、目で追うことすらできない≫
ぼくは目の前のオラクル・オーガにどうにか一太刀入れる方法を考えていた。
「うぁああ!」
〔ドン、ダン〕
オラクル・オーガに吹き飛ばされながら必死に打開策を考える。
≪どうすればいい、何が足りない、、、そんなの決まってる力が魔力が今のぼくには何もかもが足りてない≫
「ぐはぁ!」
≪どうやって、ぼくはこんな強敵と戦ったんだ。思い出せ、どうすればいいのかを≫
「はぁ、もういい期待外れだった。これで終われ」
オラクル・オーガはそういうと、魔法を唱えた。
「ぐっ!」
すると、胸に痛みが走る。
「これはっ!」
あの時、オラクル・オーガにされた魔法。そして、ぼくは一瞬意識を失いかける。
≪よし、何とか耐えきった≫
ぼくは何とかあの時と同じくして、魔法を耐えきった。すると、
「おや?、珍しい耐えて見せるか?」
≪? あの時もそんなことを言われたような≫
ぼくは記憶の隅に同じことを言われてような気がした。
「俺は弟と違ってできるだけ苦しまないようにやるのが信条なのだがな。まぁいい、どうした? 逃がすべき仲間はもういないぞ、貴様だけでも逃げないのか幼き人間、貴様だけでも逃げればよいものを」
≪ぼくは幻と戦っているんじゃないのか?≫
レオンは目の前で、自分に語り掛けてくるオラクル・オーガに疑念を持った。
「そうか、立派な心掛けだな。だが、残念でもある。その崇高な志は貴様の死によって無に帰すのだから」
≪これは、ぼくの記憶?≫
*
「おぉ、隷属魔法の防御はなかなかうまいのだな、レオン」
かつて自身の戦かったことのあるオラクル・オーガに化けていたタレスは、レオンに対して軽い隷属魔法をかけた瞬間、魔法がはじかれたことに驚いていた。
≪どうした?≫
先ほどまで、剣を構えていたレオンがぼうっと立ち尽くして動かなくなった。
「っ? 大丈夫か? レオン」
目の前のレオンは立ち尽くして動く気配のなくなったレオンが心配になり声をかけると、
「えっ!何が?」
レオンの体に見たことのない模様が浮き出始めたことにタレスは驚いた。すると、
〔パチッ〕
〔ビクッ!〕
タレスは突然目が大きく開いたレオンに驚いた。
「ありがとうございます。タレス先生、おかげで思い出せました」
「何を?」
「魔法の使い方を、そして、誓約の内容を」
「そ、そうか、それはよかった。で?」
「このままお願いします。今度はこちらから行きます」
*数日後
「じゃあな、レオ。帝都で会おうぜ」
「帝都で待っている。レオン」
「一緒に行けばいいのにレオン君」
「あぁ、まだ貴族と男子としてやることが残っているんだごめん、それに、明日にはぼくも馬車で向かうよ」
「待ってるからね」
そういうと、ぼくの友たちが乗る馬車は帝都に向かって出発した。
「良かったのかい? 友達と一緒に避難しなくて」
「パレス先生、ぼくにはまだ準備が必要なので」
「そうかい」
「はい、パレス先生には教えても大丈夫だと思ったので言いました。それに、今日ぼくが町を出ていくわけにはいかないので」
「昨日私に話してくれたことかい?」
「はい」
「別に私がその事さえ知っていれば、領民が逃げるまで守ることはできるが? 私は信用されていないのかな?」
「信用していますよ、ですが」
「君が何を見たのかは君しかわからないからね。私は信じるとするよレオン君」
「ありがとうございます」
*
「レオよ、お前も知っての通りもうすぐ雷龍の湖に出現したダンジョンマスターの討伐戦が始まる。私はマルクの森での防衛戦に参加することになっている」
「はい」
「お前のことだから、本心では参加したいと思っているかもしれないが、これは命を賭けた戦いになる。子供であるお前を戦いの場に送ることはできない分かってくれるか?」
「もちろんです」
「もしもの時のために領民にはすでに避難してもらっている。お前も母さんと妹が先に避難している帝都に明日、避難してもらうことになる」
「わかりました」
ぼくは父の言葉に頷き部屋から出た。そして
「ごめんさない。父さん」
ぼくは小さな声でそう言った。
タレス先生との模擬戦のおかげでぼくはあの時の記憶を思い出していたが、それを父に言わなかったことを謝った。
≪この力の事を教えるかは、まずは聖堂の司教と会ってから決めよう≫
ぼくは【神の子】のことをこの国の教会がどこまで知っているかを知ってから皆に伝えても遅くはないと考えた。
よくある物語だと、教会が暗躍していることがあり、ぼくの転生した世界でその可能性を否定できなかったからだ。
「とりあえずは、父とウル爺の無事を祈っておこう」
いよいよ明日、討伐作戦が開始される。すでに、町の領民はほぼほぼ非難し終わっていて、明日の朝の馬車が最後の領民を載せて帝都に向かう。ぼくは父に何とか頼み込んで、討伐作戦ぎりぎりまでこのマルク領に入れるようお願いしていたため、母と妹が非難するときに同伴していなかった。
「神眼魔法の通りなら、作戦は前倒しになるはず。そして、この町が戦場に変わる」
ぼくはそういうと、自室の窓から空を見上げた。
*森の中
森の一角に、魔物と魔獣の軍勢を後ろに控えて、二人の男女が会話をしていた。一人は青い肌に渦巻き状の角を生やした魔物で、もう一人は黒い肌に蛇の髪を生やした魔物であった。
「エヴァ、約束通り。もし雷魔法の使い手がいたら俺によこせ、新しく手に入れた力で今度は俺が奴を殺す」
「はぁ、どうぞご自由に、どうしてお前は血の気が多いのだろうか? あそこにいるお前の兄を見てみろ」
そういうと、目線の先にはもう一人の青い肌に渦巻き状の角を生やした魔物が腕組みをして立っていた。
「兄貴は兄貴、俺は俺さ」
「そうかい。まぁ、主様からはいつでも初めて良いってさ」
「しゃぁああ、速くぶち殺してぇぇええ」
マルクの森に声が響き渡った。
雷龍の湖に誕生せし魔帝より生み出されし魔軍その数総勢1万と、マルク領を守るべく集められた伯爵軍およそ5千による戦いが始まる。




