第十六話 ~救援~
感想・評価・ブックマークよろしくお願いします。
神発暦3512年 夏
ぼくは今10匹のゴブリンとそれに支持を出しているホブゴブリンに囲まれている。ゴブリンの等級は9で十分に倒せる強さだが、ホブゴブリンの等級は8。正直どうなるか予測がつかない状況だ。いやむしろかなりまずい状況である。
相手が一体ずつやってくるならば問題はないし、8等級の魔物でも勝機はあるかもしれない。しかし、相手は統率の取れた集団で、今のぼくに集団を率いているホブゴブリンを一瞬にして倒す技量はない。
そもそも、今日森に来たのは新しく学んだ付与魔法を9等級の兎魔獣で試そうとしたからで全く使いこなせていない。
≪すぐにもう一度足に付与魔法をかければ、後ろのゴブリンの間を抜けて逃げれるだろうか?良し≫
ぼくはそう思考するとすぐに行動に移した。
≪未だに完ぺきとは言えないけど、ゴブリンなら≫
〈付与魔法・雷足〉
ぼくはゴブリンの間を通り過ぎようと足に付与魔法をかけて走った。
「ぐびゃ」
「ぐびゃ」
しかし間を抜けようとした両脇のゴブリンが体を呈してぼくの行く手を阻んだ。
≪くそ≫
今のぼくは確かに【雷足】とは名ばかりの高速移動の付与魔法をかけているに過ぎないが、ゴブリン程度ならついてこれない速度だと思っていた。予想とは違う展開に苦言をしたが、まだ終わっていない。
〈付与魔法・雷剣〉
ぼくは持っている剣に雷の付与魔法をかけた。効果としてはまだ速度の上昇と少しだけ相手を痺れさせるくらいしかできないだろうが十分だった。
〈ゲビィター流・剣技・双靭〉
「やぁっ!」
「ぎゃっ!」
「ぎゃっ!」
ぼくが2匹のゴブリンを斬りつけることでゴブリンの動きが止まり、そのすきに包囲から抜け駆けだす。その時だった。
〔ぼん!〕
ぼくの目の前で火が爆発した。範囲はさほど大きくなかったがぼくの足を止めるには十分だった。
≪まだいたのか!≫
すぐに火が放たれた方向を確認すると、
≪ゴブリン・ウィッチに、ゴブリン・グラントまで!≫
それは予想外の展開であったが、さきほどの2匹のゴブリンが動きについてこれていたのも理解できた。
ゴブリン・ウィッチとゴブリン・グラント。それはホブゴブリンと同じくゴブリンの進化体でウィッチは放出魔法を、グラントは付与魔法を使うことのできる魔物だ。
さきほどの2匹のゴブリンの動きはゴブリン・グラントによる付与魔法の効果なのだろう。そして今僕の足を止めた爆発はゴブリン・ウィッチの放出魔法だろう。
この時、ぼくは新たに表れたゴブリン種に気を取られてしまっていた。
「グガァ!」
≪しまった!≫
ぼくは後ろに迫っていたホブゴブリンに気付かなかった。
〔ヒュン!〕
≪当たる≫
ぼくは剣を盾にするように構えたが死を覚悟した。
*数刻前
〔パキッ〕
ドナー男爵のティーカップの取っ手が割れた。≪不吉だな≫そう男爵が思った時だった。
「旦那様、大変でございます!」
普段冷静なメイドが大慌てで部屋に入ってきたためドナーは一大事であることを悟った。
「どうした!」
「坊ちゃんが、坊ちゃんが!」
「!?」
「森に!」
「そんな、何かの間違えではないのか?」
「私、今日は早めに坊ちゃんを迎えに、いつも仲良くしている子供たちの所にいったら、今日は来ていないと聞いて、町の人たちに見なかったか尋ねたら、森の方へ向かっていったという人が、、、!?」
メイドがそう言って言葉を続けようとしたとき、目の前にいたはずのドナー男爵の姿が消え開いていた窓から、風が吹き入った。
それから少しして、書状を持ってきた冒険者たちがやってきた。あまりのメイドの慌てぶりに気になってしまったのだ。
「どうかしましたか?」
リーダーの若い男・ハントが尋ねた。
「それが坊ちゃんが、ご子息のレオン様が森に入ってしまったらしく。今、旦那様が探しに」
「!それは大変だ。ぼく達もすぐに探しに向かいましょう」
「お願いいたします。冒険者様」
「なに困ったときはお互い様です。それに、困っている人放っておけない質でして」
そう言って、すぐにパーティメンバーを集めて森に駆けていった。
*そして現在
死を覚悟したぼくにホブゴブリンの棍棒が叩き落されることはなく。不可視の壁に阻まれていた。
「大丈夫か、レオ」
「マルコ!? どうしてここに」
「俺だけじゃないぜ」
「えっ?」
マルコがそう言うと後ろから火球が放たれ、ホブゴブリンの顔に命中した。
「ギャァァァ」
そう悲鳴を上げて、ホブゴブリンは顔を抑えて後退した。
「助けにきたぞ、レオン」
「助けに来たよ、レオ君」
「ショー!、それにエミリーまで」
「お前の家のメイドさんが俺たちの所にお前を探しに来てさ、一人で森に行ったって大慌てで帰っていくのを見てさ。おまえは知らないかも知れないが今、森は立ち入り禁止なんだぜ。
だから、もしかしたらお前が危ないかもってエミリーがいってさみんなで様子を見に来たら案の定ってわけさ」
「ありがとう。助かった」
「良いってことよ」
ぼくは素直に危険を顧みず心配して来てくれたみんなに感謝した。
「それじゃぁ、レオ。俺たちのチームワーク見せてやろうぜ」
「あぁ」
マルコがそう言って、ぼく達がいつも練習していた陣形にエミリーが加わると、顔を焼かれたホブゴブリンの周りにゴブリンたちが集まり、再び陣形を取った。先ほど斬りつけた2匹のゴブリンも傷は癒えてはいないが痺れは取れたようだった。
そして、ホブゴブリンが怒り狂った叫び声をあげた。
「ガァアアア!」
ぼく達とゴブリンの戦いが始まった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。