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まぁ、櫻井も頑張ったんだし、このぐらいのご褒美をやるのもやぶさかではない

おまけです。

「さくらちゃーん!!見て見て!!あの映画に出てきそうな旅館!!」


隣でそんな風にはしゃぐ愛里と僕の目の前には年季の入った立派な佇まいのいかにも映画に出てきそうな旅館が立ちはだかっていた。


…とうとうたどり着いてしまったか。


山奥にひっそりと佇む古ぼけた旅館を前に、僕は思わず固唾を飲んだ。


それは僕らを待ち構える旅館の年季に気圧されたわけでもなく、初めての場所に思わず困惑していたからとか、そんなチンケな理由ではない。


僕が思わず固唾を飲んでしまったのは…この場所でこれから繰り広げられるであろう…人生最大の試練が僕を待ち構えているからだ。







事の発端は愛里の一言だった。


「さくらちゃん、卒業旅行に行こう」


僕はもちろん、二つ返事で承諾した。…だってボッチに断る理由なんてないでしょ?。


まぁ、春休みの予定が空白で埋まっていたこともあるが、卒業旅行などというフレーズに僕は憧れを抱けずにはいられなかったという理由もある。


しかもそれが愛里となら…なにが問題だというのか。


「またディスティニーランドにでも行こうか?」


そんな僕の提案に愛里は悩ましげな顔をしながらこう答えた。


「うーん…ディスティニーランドはクラスの卒業旅行で行くからちょっと…」


話を聞けば愛里は僕の他にもクラスのみんなと、クラスの特に仲の良い人と、茶道部のみんなと、親友の槇原と体育祭の応援団関係の人とあと他にもいくつかの卒業旅行をこの春休み中に予定しているらしい。


こ、これがリア充ってやつか…。


予定の一つもないボッチの僕との格の違いを見せつけられ、自分という存在意義を問いたくなる衝動に駆られた。


…っていうか、僕のクラスって卒業旅行しないのかな?。…もしかして僕が誘われてないだけ?。ははは、あり得るから怖い。


そんな風に考えつつも一年半前くらいまでは同じボッチだったはずの愛里を恨めしそうに見つめた。


でも、きっとこの結果の違いは愛里の努力の証なのだろう。


この卒業旅行の差は青春に追いつこうと必死に戦った愛里が高校生活で掴み取ったものなのだ。


うーん…でもおかしいなぁ、僕もそれなりに頑張ったつもりなんだけどなぁ…努力の方向を間違えたかなぁ?。


そんなことを一人で考えていると愛里が僕にこんなことを言って来てくれた。


「ディスティニーランドでも良いんだけど、せっかくのさくらちゃんとの卒業旅行なんだから、もっと特別なものにしたいの!」


僕なんかとの卒業旅行をそんな風に特別扱いしてくれる愛里の強い意志に涙がちょちょぎれそうになりながらも僕は平然を装って返事をした。


「特別っていうと?」


「なんか…こう…ほかの卒業旅行とは被らないようなというか…何か一線を画すようなものが…」


「僕にとっては卒業旅行そのものが一線を画す何かなんですけどね」


「でも、私とさくらちゃんの卒業旅行なんだよ!?それなのに普通で終わっていいわけないじゃん!!」


「いやぁ、そう言われてもねぇ…」


口ではそうは言いつつも、僕なんかとの卒業旅行にそこまで熱く語ってくれる愛里に涙腺は決壊しかけていた。


「でも、愛里さんとはいろんなところ行ったし、まだ二人で行ったことない所とかが良いよね」


「そうだね、二人でまだ行ったことなくて旅行っぽい所となると…」


「えっと…温泉とか?」


「温泉!?いいね!!温泉行こう!!」


愛里は温泉が好きなのか、僕の発言に乗り気だった。…ちなみにだが、僕は温泉はそんなに好きではない。退屈だし、すぐ逆上せてしまうし…でも温泉を提案したのは、愛里が行きたいなら別にどこでも良いというのが本音だ。


「温泉ってなるとこの辺だとどこがいいかなぁ?」


よほど温泉が好きなのか、愛里はウキウキしながら僕にそんなことを尋ねてきた。


別に僕も温泉に詳しいわけではないので、それなりに近場で有名な温泉地の名前を提案し、二人で調べながら二人で和気藹々と計画を立てていた。


極めて順調に進んで行った卒業旅行計画に、暗雲が立ち込めたのは愛里のふとした発言がきっかけであった。


「あ…温泉じゃさくらちゃんと一緒に入れないじゃん…」


愛里がそんな当たり前のことに気がついたのは、話し合いが始まって1時間が経とうとした時だ。


「…え?いまさら?」


僕らの間に一応、性別という垣根がある以上、『一緒に温泉には入れない』というのは常識中の常識、原始時代から性を授かった際に本能に叩き込まれる当たり前の世の理である。


小学生でもわかる一般常識にいまさら気がついた愛里に僕は思わず困惑してしまった。


「わあああ!!!どうしよおおおおおお!!!!せっかくの温泉なのにさくらちゃんと一緒に入れないよぉぉおぉぉ!!!」


そんな当たり前のことを嘆きながら愛里は子供のように泣き喚いていた。


「ま、まぁ、別に一緒に入らなくたって温泉は一人で楽しめるし…」


「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だよぉぉぉぉぉ!!!!!!」


ジタバタとその場で子供のように転げ回る愛里を僕がなんとか宥めようと色々声をかけていたその時…愛里の口から思わぬ言葉が飛び出して来た。


「そうだ………混浴に行こう」


「…は?」


僕的には愛里の言葉があまりにも浮世離れしたものであったために、僕は一瞬彼女がなにを言っているのかが分からなかった。


「混浴に、行こう!」


「こん…よく?」


「そう、混浴」


未だに愛里の言葉を理解出来ていない僕は『混浴』というワードを頭の中の検索エンジンにかけて必死こいて検索結果を探したが、ヒットするのに数十秒の時間を要した。


「混浴っていうと…もしかして男女が分け隔てなく湯に入ることができる温泉ってこと?」


「そうです、その混浴です」


「混浴って…都市伝説じゃないの?」


「どうやら都市伝説ではないようです」


愛里は混浴と書かれた温泉情報が載っているスマホを僕に見せながらそう言って来た。


…混浴って実在するの?。え?マジで?。いかがわしい店とかじゃなくて?。紳士淑女が分け隔てなく温泉を楽しむ空間が存在するの?。え?そんなの温泉楽しめるの?。もう温泉どころじゃなくない?。


「調べてみると水着着用で入れる混浴とかあるんだってぇ」


僕が混浴というカルチャーショックに固まっていると愛里がスマホで調べながらそんなことを言ってきた。


「え?あぁ、水着で?。そ、そうだよね、水着だよね。水着なら問題ないよね」


ほっと胸を撫で下ろしつつも夢を壊された僕の心は複雑なままであった。


そんな僕を尻目に、愛里がなにか物思いに耽るように手を額に当てながら唸っていた。


「…どうかしたの?愛里さん」


「水着で温泉って…邪道じゃない?」


「いや、まぁ、分からなくはないけど…」


「だって、水着で温泉入ったらさぁ、温泉よりもプール感が強くなっちゃうよ。さくらちゃんとの卒業旅行をプールで終わらせるなんて勿体無いよ!!」


「いや、僕的には水着でもうすでにお腹いっぱいだよ?」


「でも水着じゃあ海水浴に行った時の下位互換になっちゃうよ!?私はさくらちゃんとの卒業旅行を今までで一番のものにしたいの!!」


「いやぁ…あの時の海以上かぁ…」


たしかに2年生の夏休み、僕らはさりげなく二人で海に行ったことがある(ほとんど描写は無いが)。


その時でもすでに愛里の水着姿に目のやり場が困っていたというのに…それ以上ってなると…もう鼻の下伸びるじゃ済まないかもしれない。


僕のそんな危惧を尻目に愛里は険しい目つきでスマホを見ながらこんなことを呟いた。


「タオル禁止の混浴もあるのか…」


「…タオル禁止ってことは…防御力0ってことですか?」


僕は愛里に恐る恐るそう質問した。


「そういうことですね。…でも温泉ってそうあるべきだと思いませんか?」


「その気持ちはわからないでもないけど、防御力0は流石に死んでしまいます」


「そうだね、流石に私もタオル禁止まで行く勇気はないなぁ」


少々残念そうににそんな言葉を漏らす愛里に僕が口惜しながらも安堵の息を吐いた。


「ということで、折半案でタオルをつけて入れる混浴に行きませんか?」


「う、うん、まぁ、それなら…」


喜びと悲しみと興奮と性欲が渦巻いた複雑な心境で僕はそう返事をした。


そういうわけで、僕らは混浴温泉に卒業旅行に行くことになったのだが…僕に課せられた試練はなにも混浴だけではなかった。


タオルで混浴ができる温泉となると、そんなに数も多くなく、割と秘境に近い山奥となってしまうわけで…。


「調べた結果、電車とバスと歩きで片道4時間半以上かかることが判明しました」


堂々とそんな報告をする愛里に僕はため息混じりにこう言った。


「往復9時間かぁ…これは日帰りじゃ無理そうだな」


そんな僕の言葉に愛里はキョトンとしながら、平然とこんなことを言ってきた。


「日帰り?なに言ってるの?さくらちゃん。もちろん泊まりだよ?」


「…はい?」








そういうわけで…僕らの卒業旅行は一泊二日の混浴温泉旅行となったのだ。


「温泉楽しみだねぇ!さくらちゃん!」


「い、いや、ほ、ほほほほほ、ほんと楽しみだよねぇ…」


期待と不安が混ざり合って僕の心はグッチャグチャになっていた。


お、おおおおおお落ち着くんだ、僕。


い、いくら混浴とはいえど、タオルは付けるんだ、水着と大差ない。


そうだ、水着ってことは海水浴みたいなもので、海水浴ってことは言ってみればカキ氷みたいなもので……ん?なに言ってんだ?僕。


ダメだ、思考がショートしかけてる!!。


気がつけばチョックインも終わり、今日宿泊する部屋へとたどり着いたが、部屋の内装や窓から見える景色にはしゃぐ愛里とは裏腹に僕は今か今かと迫りくる大いなる試練を前に緊張のあまり部屋の片隅で正座しながら震えていた。


「見て見て!!さくらちゃん!!窓の外に大自然が広がってるよ!!」


「うん、緑だね」


「見て見て!!あっちの方から湯気が立ってる!!もしかして天然の温泉があるのかな!?」


「うん、白いね」


「見て見て!!夕焼けも綺麗な茜色してるよ!!さくらちゃん!!」


「うん、赤いね」


…ダメだ、緊張のせいで僕の語彙力死んでる。


IQが三分の一くらいまで低下したまま、しばらく経ってから温泉に行くことになり、僕らは準備を整えて温泉へと向かった。


混浴とはいえど、流石に脱衣所は別々なようで、僕と愛里はそこで一度袂を分かち、決戦の地で再会することを誓い合った。


僕が大いなる試練を目前に心臓の鼓動を暴走させながら脱衣所に入ると、古びた旅館らしいみすぼらしい脱衣所が広がっていた。


ロッカーはおろか、棚というものすらなく、カゴがいくつか散らかっているだけの簡易的な脱衣所で、おまけに温泉と脱衣所を隔てる敷居と呼べるほどの壁という壁もなく、入浴者から脱衣所は丸見えだった。


…え?脱衣所とはなんぞや?。


服を脱ぐための最低限の環境すら整っていないただの見窄らしい空間を前に僕は思わず哲学してしまった。


服を脱ぐ場面から…すでに大いなる試練は始まっているというのか…。いや、それでもタオルさえ巻いてしまえば後は水着で温水プールに浸かるのと変わらないだろう。


そう考えた僕は素早く服を脱ぎさり、腰に巻くハンドタオルを手に取った。


このハンドタオルは宿が用意したものであったため、僕はこの時まで分からなかったのだが、ハンドタオルを腰にあてがった時…残酷な真実を知ってしまった。


唯一の防具であるハンドタオルが…思ったより小さい…。


その長さはギリギリ腰に巻けるか巻けないかほどしかなく、横幅は20センチほどしかなかった。


それ故に腰に巻いてギリギリで大事なところは隠せても、防具の心許なさは尋常ではなかった。


…うそ、私の防御力、低すぎ?。


僕は僕の尊厳を守る唯一の鎧の脆弱さのあまり両手を口に当ててそのことを嘆いた。


…え?マジでこれで戦地に赴くの?。


これスライム相手ですら惨殺されるレベルの弱さだよ?。


マジでこれで行くんですか?。


今はギリッギリで隠せていても、ふとした拍子に僕の息子が起き上がっちゃったら見えちゃいますよ?。


『へい、大将、今日もやってる?』みたいな感じで店に入る常連客のごとく当然のように暖簾かき分けて出てきちゃいますよ?。


…えっと、つまりこれはあれですね。


これは…如何に息子を寝かせたまま混浴を乗り越えるかっていう試練ですね。


血気盛んなお年頃の男子にそれはちとキツいんじゃないですかね?。


だが…しかし…ここで退くことは出来ない。


例え危険がつきものでも、死と隣り合わせでも…ここでなんの成果もあげられることなくひいてしまったら…僕は…一生後悔する自信がある。


撤退の二文字はない。


あるのは…死か、栄光か…。


いざ行かん、決戦の地へ…。


こうして、僕の社会的な生死を賭けた戦いが、今幕を開け…。


「さくらちゃ〜ん!!!!」


決戦の地へ足を踏み入れた僕の目に真っ先に飛び込んで来たのは…ラップタオルだけを身につけ、髪を縛って頸から胸元まで肌を露わにした防御力1の愛里の姿だった。


防御力1故に普段は決して見ることが叶わないその姿は僕に対する攻撃力には長けており、一瞬で僕の視線を奪い去り、頭の中まで支配して、僕の妄想をかき乱した。


いかんいかんいかんいかんいかん!!!!!!!


フィールドに出た最初の一歩めからエクスカリバーで殴りつけられたような強襲にあった僕はすぐさま愛里から視線を逸らし、大きく深呼吸をして心に薬草を塗りたくって煩悩を沈めた。


…ふぅ、危ない危ない、いきなり即死するところだった。


最初の不意打ちを逃れた僕は露骨に愛里から視線を逸らしながら僕は迫り来る愛里に手を振って応えた。


「…どうかしたの?さくらちゃん」


「いや、なんでもないです」


僕の視線があらぬ方向に向いていることが気になったのか、愛里は不思議そうに僕の顔を見ていた。


そして僕の視線の先にある男子更衣室へと視線を移し、驚き混じりにこう言った。


「あれ、男子更衣室丸見えだね。…女子更衣室はそうでもなかったけど…」


「へぇ、そうなんだ」


着替えシーンを直接見てしまうなどという一発即死のデスエンカは免れたようだが、素直に喜べない複雑な心が僕の中で渦巻いていた。


その後、かけ湯をしながら心頭滅却して煩悩を一旦消し去った後、僕らは温泉に浸かった。


温泉特有の硫黄の匂いが鼻を刺激する少し熱めのお湯に肩までどっぷり浸かり、愛里の口から思わず言葉が零れ落ちた。


「あぁ…気持ちイィ…」


僕も心許ない股間あたりをカバーするために体育座りで温泉に浸かりつつ、空を見上げながらぼやくように呟いた。


「あぁ…生き返るわぁ…」


そして少し温泉に浸かったことへの余韻に浸った後、愛里が僕へ話しかけてきた。


「意外と人がいるね、さくらちゃん」


「そうだね」


僕は空を見上げながら愛里へと生返事を返した。


「カップルとか夫婦とかが多いみたいだね」


「そうだね」


「一人だとなんか目立ちそうだね、さくらちゃんと一緒でよかったよ」


「そうだね」


僕は愛里の言葉を終始空を見上げながら返事していた。


そんな僕の視線に気がついたのか、愛里がこう尋ねてきた。


「ねぇ、さくらちゃん…なんで空ばっかり見てるの?」


「それはね…」


目のやり場が上くらいしないからだよ…と、言いたいところなのだが…それをいうのも憚れるわけで…。


「空だけが…青いからさ」


「…え?」


「いや、なんでもないよ」


そんなことを言い張って、僕は決して空から視線を逸らすような自殺行為はしなかった。


「…ねぇ、さくらちゃん」


「…なに?」


「ねえってば…」


「だからなに?」


どう話しかけられても空から視線を逸らさない僕に痺れを切らしたのか、愛里が少し寂しそうにこう言ってきた。


「空ばっかり見てないでこっち見てよ、さくらちゃん」


「…愛里さん、それは僕に死ねって言ってるのかな?」


「え?さくらちゃん空見てなきゃ死ぬの?」


「正確に言えば空以外見たら死ぬ」


「私が知らぬ間にそんな大病を患ってたんだね、さくらちゃん」


愛里は哀れんだ声で体育座りで温泉に浸りながら空を見上げる僕にそう言ってきた。


そして少しの間会話が途切れた後、空以外の何物も視界は入れまいと頑なに空を見上げていた僕の目の前に、突然ニュルッと愛里の顔が姿を現した。


体育座りで空を見上げる僕の顔を上から覗き込むように愛里が僕を見つめてきたのだ。


空を見上げて安心しきっていた時に突然視界に現れたことと、思ってたよりも顔が近かったことに僕は驚き、後ろに倒れて温泉へと体を沈めた。


「お、驚かすのはやめてよ、愛里さん」


「いやぁ、そこまで頑なに無視させるといたずらしたくなっちゃうというか…。っていうか、なんで体育座りなの?せっかくの温泉なんだから足伸ばせばいいじゃん?」


「それは出来ない!」


ただでさえ防御力1なのに、足を伸ばしてしまえば万が一の時に厄災を免れない。


それ故に体育座りによる防御壁に頼らざるを得ないのだ。


「さくらちゃん、もしかして混浴だからって遠慮してるの?」


「え?…ま、まぁそりゃあ…遠慮というか…どうしたらいいのかわからないというか…」


「どうしたらいいって…もちろん温泉を楽しんだらいいんだよ。もっとリラックスしていいと思うよ、温泉なんだからさ」


「で、でも…見えちゃうかもしれないし…」


「そりゃあ多少見えちゃうことくらいあると思うよ、でも温泉なんだから少しくらい見えたって誰も気にしないよ」


僕は愛里さんの見えたらめっちゃ気にしますけど?…と、言いたいところだが、彼女のいうことも一理あって、誰も僕の股間のことなんか気にも止めてないだろう。


だったら、せっかくの卒業旅行なんだし、もう少し羽根を伸ばしてもいいのでは…。


愛里の甘言に誘われるまま、僕は体育座りからゆっくりと足を伸ばして、肩までどっぷり温泉へと浸かった。


あぁ…生き返るわぁ…やっぱり温泉はこうでないと…。


そんな僕の緩んだ顔を見て満足したのか、愛里も肩までどっぷり浸かって温泉を楽しんだ。


「来てよかったね、混浴」


「うん、来てよかった」


そんな緩いトークをしながら、僕らはしばらく温泉を堪能した。








「あぁ…名残惜しいけど、そろそろあがるね、さくらちゃん」


温泉を堪能してしばらくすると、逆上せて来たのか、愛里がそう言って来た。


「あ、それなら僕もあがるよ」


流石に長時間いれば適応力というものが機能するのか、いくら混浴の場でも流石の僕も落ち着いていられるようになっていた。


…だから、僕は予期できなかったのだ。魔王城から帰還する道のりのその最後に、とんでもない隠し球が潜んでいたことに…。


愛里につられて温泉を後にしようと二人で温泉から立ち上がった時、そいつは姿を現した。


思わぬ伏兵の出現に、僕は思わず愛里の姿から目が離せなくなった。


なぜならば…僅かながらに彼女の防御力を保っていたラップタオルが水分を吸い込んだことにより、重さと密着性が爆上がりしたために、彼女を包み込むタオルが彼女の肌にピタリと張り付き、彼女の肉体の曲線を如実に表していたのだ。


露わになった曲線美はタオルに隠されているとはいえ…いや、むしろタオルで隠されているからこそ、より一層想像力を煽り立て、僕のリビドーを駆り立てた。


彼女もタオルが張り付き、体の曲線が露わになっていることに気が付いたのか、少し恥ずかしそうに両腕で体を隠しながら僕に『先に行くね』と一声かけてからいそいそと女子脱衣所へと消えていった。


一人固まった僕はゆっくりと再び温泉へと座り込み、煩悩を消し去ってから脱衣所へと向かった。


こうして、僕と愛里の卒業旅行に新たな思い出が加わったのだとさ。

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