8.お兄ちゃん?
「さて、これで1回戦が終了いたしました。
準決勝に勝ち残った選手達を、改めて紹介いたします!」
「優勝候補の一人、メルナ選手の猛攻を避け続け、最終的には運良く不戦勝に!
幸運に恵まれ続ける彼は、一体何物なのか!? マルク選手!」
「はは……がんばります……」
「彼と対決するのは、あの前回優勝者、伊勢海点睛・蝦選手を打ち破った謎の少女!!
人形遣いミーナ選手!! ……えっと、なにかコメントが欲しかったのですが……反応がありません!!
まあいいでしょう!!」
「続いて、準決勝第二試合を戦うのは!! ズィールド六剣客の一人!!
白剣のアレイアス選手!!」
「ほんとなんなんでしょうね、ズィールド六剣客って……」
「彼は1回戦において、圧倒的強さで妖拳士レイズ選手を打ち破りましたね。
なにか意気込みはあるでしょうか?」
「……私は、自らの腕を試したい。それだけだ」
「はい、ありがとうございます……」
「あのアレイアスって人、コミュニケーションをとるのが苦手なんですかね?」
「寡黙なのがかっこいいと思ってるんじゃない?」
「そして彼と対戦するウェイン選手! 彼もクールな佇まいで、なんだか強そうな雰囲気を放っておりますが……
なにせ1回戦で闘ったのがプリム選手だったので、その実力はまったくの未知数です!!」
「マルクさん、ああいう人を馬鹿にするような事で笑いを取ってはいけませんよ!」
「う、うん、そうだね」
「さて、私が話している間に、両選手準備が整ったようですね。
それでは、早速参りましょう! 準決勝第1試合!!
マルク選手対、ミーナ選手!!」
「……お兄ちゃん?」
ミーナは目を輝かせて言った。その肩の上では二体の人形がなにやら話し合っている。
「おい、あいつもしかして……」
「そうかもしれない……」
「え? なに?」
二体はマルクの顔をじっと観察しながら言う。
そして、ケタケタと笑い始めた。
「お兄ちゃん、やっと見つけた。
私、先に帰ってるから……早く帰ってきて。それじゃ」
そう言い残し、ミーナは一瞬でその姿を消した。
「……ど、どういうことでしょう? ミーナ選手、消えてしまいました!!
こ、これは一応、場外と言う事になるのでしょうか!? えっと1、2、3、4……」
ミーナが戻ってくる気配は無い……
だが……
「ケケケッ! ミーナの奴、肝心なモノを忘れてるぜ!! ほらよ!!」
「えっ、なにこれ?」
一つ目の子鬼人形だけが戻ってきて、マルクになにやら巻物を投げ渡した。
そして、彼がそれを受け取った事を確認するとすぐにまた消えてしまった……
「ええっと、今現れたのは人形だけなので、ミーナ選手のカウントは中断しておりません!!
9、10!! 試合終了!! なんと!! またしても、マルク選手闘わずして勝利してしまった!!」
「よかった……」
マルクは内心では、あの凶悪な人形と闘うのが怖かったのでほっとしていた。
「わっはっは!! よくやりましたマルク!! もう優勝したようなもんですね!!」
「うーん、でもなんか今回は運のおかげってわけじゃないような気がする……」
「何を言っているんですか!! 運のお陰です!! 引いては私のお陰!!」
「その通りだ」
突如、二人の背後に現れたのは、前回プリムと対戦したウェインだ。
「貴様のような奴が勝ち残るとは……はっきり言って興ざめだな。
いいか、決勝に上がるのはこの俺だ。死にたくなければ棄権を勧めるぜ」
それだけ言って、ウェインは去っていった。
「なんなんでしょうあいつは!! 棄権棄権棄権棄権……それしか言葉知らないんですかね!?
ほんとムカつくやつですよね!! だいたい、もう勝った気でいるなんて、調子に乗ってますよ!!
あれ? マルク?」
マルクは何も言わず、ただその場に佇んでいる。
プリムはもしや彼が怯えているのではないか、と思ったのだが、
その表情に一切の恐怖は感じられず、先程までは感じられなかった異様な存在感を放っていた。
「マルク……さん? もしかして、怒ってる? もしもし?」
「…………」
その様子を、観客席から何者かがじっと観察していた。
「やはりあいつ、普通ではありませんわね……」
一体何者なのだろうか……