6.ただの伊勢海老だった俺が異世界転生して異世海老ハーレムを構築している件についてwww
「えー、強力無双ゴルド、怪力超人ジルバ両選手ですが、メルナ選手によって負傷させられてしまった為、両者とも棄権という事です! その結果、出場者が八人に満たない為、大会規定によりリザーバー選手を加え、新たなトーナメント表を用意する運びとなりました! そして、そのリザーバー選手とは……いいですか? 皆さん、驚かないでくださいね!」
実況はやたらともったいぶった言い方だ。観客たちが固唾を呑んで見守る中、背の高い一つの影が見えた。そして、その姿が明らかになると、観客は大いに沸きあがった。
「あ、あれは!?」
「え、蝦だ!!」
「ええ!? あの蝦が!! 今回は出ないんじゃなかったのか!?」
その男は、海老のような頭に、筋骨隆々な人間の肉体を持った、不気味な生物だった。
彼が両手を天に掲げると、観客はさらに湧いた。
「うおおおおおおおおお!!」
「蝦だ!! 本物の伊勢海点睛・蝦だ!!」
「ええー、観客の皆さん大いに興奮しておりますね!
それも当然、彼は前回大会優勝者の、伊勢海点睛・蝦選手!
決勝戦での、衝節蟹・那狼選手との試合は、まさに過去最高の決戦として、今も語り継がれております!」
「えー、今更語るまでもないと思いますが、一応解説させていただきます。
前回大会優勝者の、伊勢海点睛・蝦選手! 彼は異世界の海、伊勢海に住むごく普通の海老でしたが、不幸にもマッコウクジラに轢き殺されてしまい、この世界に海老人間として転生いたしました!
それからは、メスエビ共を次々誘惑し、異世海老ハーレムを構築し! さらに闘いにおいても破竹の快進撃!
そして! 皆さんご存知、前回のマサユキ武闘大会で、衝節蟹・那狼選手との激闘の末に勝利! 優勝を果たしました!
惜しくも破れた衝節蟹・那狼選手も、この闘いで一躍有名になりましたね!」
「あの……プリムさん、皆なんであんなに興奮してるの?」
「さぁ……でも、安心してください、私もよくわかりませんから」
「そんな蝦選手、今回は参戦する予定は無いとの事でしたが、なんと!
もし欠場者が出た場合、リザーバーとしてなら出場しても良い、というありがたいお言葉を我々頂いておりました!
うーん、これは、結果的には暴力行為を働いたメルナ選手に感謝しなければならないかもしれません!」
「おい、失言だぞー!」
「おっと、これは失礼致しました!」
「わははー!」
会場は笑いに包まれた。
「く、くだらねぇ……マルクさん、控え室に戻ってましょうか?」
「いや、一応前回の優勝者らしいし、見ておこうよ……」
「では、蝦選手にお言葉を頂きましょう!」
「えーっと、俺はもうこの大会に出るつもりはなかったんだけど、一応世話になったからな!
欠場者が出たって事で、また出場する事になったぜ! まぁ、よろしく頼むよ!」
「蝦ー!」
「サインくれー!」
「こっちみてー!」
「おお、素晴らしいコメントどうもありがとうございます。
会場は大いに盛り上がっております! ですが! これからさらに盛り上がる事になるでしょう!
なぜなら、このトーナメント表をご覧ください!」
第1試合 メルナ 対 マルク
第2試合 伊勢海点睛・蝦 対 ミーナ
第3試合 レイズ 対 アレイアス
第4試合 プリム 対 ウェイン
「そう、次は第2試合! なんと! 蝦選手の試合がいきなり見られるのです!」
観客は大盛り上がり、興奮のあまり嘔吐している者までいるようだ。
「うう、もう待ちきれません! 両選手、武舞台へ上がってください!」
「まったく……皆そんなに俺の試合が見たいのかよ……」
「……………………」
会場の熱気とは裏腹に、蝦と向き合った対戦相手の少女はまったくの無表情であった。
「なんだよ、女の子が相手なのか……まいったな」
「おいしそう……」
「ん?」
「あなた、おいしそう……」
少女は消え入るような声で言った。
「ははは! お嬢ちゃん、俺を普通の海老と勘違いしているのか?」
「違う……グルマンがそう言ってるの……」
「グルマン?」
すると、少女の肩の上に掴まっていたミイラ人形がケタケタと笑いながら言った。
「なぁぁミ~ナ~、オレ、あいつ喰いたいなァ~」
「おじさん、いい?」
蝦は首をかしげている。聞こえていないと思ったのか、少女は自分にとって出来るだけ大きな声で、もう一度問いかける。
「グルマンが、貴方の事食べたいって言ってるの……いい?」
「悪いなお嬢ちゃん、駄目だね!」
蝦は拳を突き出し、衝撃波を放った。
「で、出たー! 伊勢海ショットだぁーっ!」
伊勢海点睛・蝦の代名詞、伊勢海ショット。
体液を超高密度で圧縮し、拳から放つ大技である。
この技を耐えた者は衝節蟹・那狼だけだ。
それ故、誰もが勝負は決したと思った。だが……
「クケケケケ!!!!」
突如ミイラ人形、グルマンが狂ったように笑い始め、口を大きく開いた。
いや、それだけではない。何時の間にか、ミーナの肩に乗っていた筈の小さな人形が、2mはあろうかと言う巨体の蝦よりもさらに大きくなり、彼の前に立ちふさがっている。
そしてなんと、蝦の放った衝撃波を丸ごと飲み込んだ。
「ば、馬鹿な、俺の伊勢海ショットが!?」
「な、な、なんと、あの伊勢海ショットが破られた!
鮮度ステータス∞の蝦選手が、よもや無名の少女に敗れてしまうのか!?」
「ふ、ふざけるな! 俺は負けるわけにはいかない……俺を信頼してくれるメスエビ達のためにも!」
そう言って、蝦は気を昂ぶらせた。
会場を生臭さが包み込む。
「くっ、くさい……」
「やっぱり控え室に戻ればよかった……」
「だから言ったじゃないですか!」
「情報によると、蝦選手はメスエビ達の想いでパワーアップするらしいです!
きっとどこかで蝦選手の愛するメスエビ達が彼の勝利を祈っているのでしょう!」
「うおおおお、伊勢海ショットォ!」
気合とともに、蝦は伊勢海ショットを連発する。
だが、グルマンはむしろ喜んだ様子で、さらに口を大きく開く。
「ケケケケケケケッ!!!!」
「そ、そんな……」
「ああっと!! 伊勢海ショット、またしても喰われてしまった!!」
「おじさん、疲れてる……」
「そんなことはない! というか俺はおじさんじゃない!
こうなったら見せてやる! スゥゥゥパァァァ!! 伊勢海!! ショットォオォォ!!」
「それしかないのかな……」
「生臭いですね……」
凄まじい気迫で、かつてない威力の伊勢海ショットを放つ蝦。
だが……
「くっ……くそ……」
「あぁ、うまかったぜぇお前の技! そろそろおまえ自身を食いてぇなぁ~」
グルマンは既に、体長4mはあろうかという巨体になっていた。
そして、徐々に全身を包み込む包帯が解けていき、その本来の姿が明らかになった。
「グヘヘヘヘ……」
どうやらグルマンの正体は熊のぬいぐるみのようだ。だが、両耳が無く、全身は縫い目だらけで片目が半分飛び出している。
「いただきますは言わないぜ! オレは行儀が悪いからなァ!」
グルマンの体から解けた包帯が、何時の間にか蝦の両手両足を縛り付けている。
蝦はなんとか逃れようともがくが、その度により強く締め付けられ、遂には身動きをとることすら出来なくなってしまった。
力なく地面に転がる彼がふと見上げると、そこに空は無く、代わりに目の前にはどこまでも暗い巨大な穴が広がっている。そして、その奥底から聞こえる不気味な音が笑い声だと理解した時、蝦の全身は恐怖に支配された。
「ケケけけけけケけケケケけケケケけケケケケけけけ」
「エビィィィィッッ!!!!」
……会場を沈黙と生臭さが包み込んだ。
武舞台に立って居るのは、少女ミーナと巨大な人形グルマンだけだった。
蝦の姿は無い……
「……なななな、なんと! 蝦選手、食べられてしまったぁ!
前回大会優勝者がなんともあっけない幕切れだーっ!」
そして、マルクは思った。
(どうでもいいけど生臭い……)