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5.メルナの必殺剣

「マルク、私が教えたようにやれば大丈夫ですよ!」


「う、うん……」


 プリムから手渡された幾つかの品をポケットにしまいこみ、いよいよマルクは武舞台に上がろうとしていた。


「武器は本当にそれでいいのですか?」


「うん。これが一番使えそうだから」


 そう言って彼が手にしたのは斧。片手でも振るえそうな大きさだが、先端に鋭く幅広の両刃を持ち、明らかに伐採用ではなく戦闘用に作られたものだ。マルクは自らが選んだ得物を両手で強く握り締め、対戦相手の待つ武舞台へ昇る。彼の対戦相手……剣士メルナはその様子を見下ろしながら余裕の笑みを浮かべていた。


「ぷっ、貴方そんな玩具で私とやるつもりなの?」


「や、やってやる!」


「マルクー! 私が優勝するから負けても大丈夫ですよ!」


 それを聞くと余計不安になる。やはりマルク自身の手でなんとか勝利をもぎ取らなければならないようだ。だが、今の彼にはメルナに勝利するほどの力はないだろう。となれば、やはり自らの幸運を信ずる他ない。マルクは覚悟を決めた。


「それでは、改めてこの武闘大会のルールを説明いたします!

 時間制限無しの一本勝負! どちらかが降参するか、気絶するか、死亡するまで闘うデスマッチです! 場外に出て10秒が経過した場合も負けになります。また、武器の使用制限は一切ありません。」


「う……」


「怖かったら降参してもよろしくてよ?

 まぁ、寿命が少し延びるだけですけどね」


「……降参は、しない!」


 メルナはニヤリと笑った。彼が明らかに無理をしているのが見て取れたからだ。

 いや、恐らく会場に居る殆どの者がそう感じただろう。


「それでは、いきますよ! 試合開始!」


 開始の宣言に、会場は沸き立つ。だが、それとほぼ同時に、メルナは跳躍していた。

 観客も、他の出場選手でさえも気付かぬ程の速さで間合いは詰められ、既にメルナの刃はマルクの額を貫こうとしていた。


「うっ!?」


「は、速い! もう勝負が決まってしまうのかー!?」


 だが、不意にマルクがバランスを崩し、その場に倒れこんだ事で彼は九死に一生を得たようだ。

 ……観戦者は誰もがそう思ったが、勿論、これは幸運の力のお陰だ。そして、メルナにとってもそのくらいは想定内であった。


「この理不尽さ、やはり貴方は転生者!」


 渾身の突きを外したにも拘らず、一瞬にして態勢を立て直したメルナは、倒れている敵に向かいさらに剣を振るう。マルクはなんとか転がって回避するも、追撃の手が緩む気配は無い。


「マルク! あれです! あれを使って!」


「そ、そうか! でも、こんなの使って大丈夫かな……?」


 そう考えている間にも、メルナは迫って来ている。最早猶予は無い。

 マルクは咄嗟にポケットから何かを取り出し、なおも迫り来るメルナに対してそれを投げた。


「飛び道具!?」


 投げつけたのは、先程買い集めた火薬を使用し、この世界には存在しない技術を用いて作られた、プリム特製の爆弾だった。危険を察知したメルナは咄嗟に爆弾を指差し、叫ぶ。


炎熱魔術(フレア)!」


 メルナの行使した火炎の魔術により爆弾は引火し、空中で凄まじい爆発を巻き起こした。

 その衝撃と音、そして砂埃でメルナは周囲が確認できない状態になってしまう。


「おっと、マルク選手、爆弾を使用したようです! 皆さんご存知の通り、この大会はあらゆる武器の使用が認められます! メルナ選手は無事のようですが、かなりの牽制になったようです!」


「くっ、小癪な……」


 その隙を見逃さず、マルクは斧を構えて突進する。

 そして、斧の腹の部分で彼女を叩きつけようとした。


「悪いけど、これで気絶してくれ!」


「やりました!?」


 その時、メルナが目を閉じたまま笑った。


「うふふふふ……まったく、お馬鹿さんね」


 そして彼女は目を見開くと、姿勢を低くしてマルクの攻撃を回避し、そのまま斧を持つ彼の腕を蹴り上げた。


「っっ!?」


 右腕に鈍い痛みが響き、マルクは斧を手放してしまう。

 そして、メルナは彼が武器を手放した隙を見逃さなかった。素早く斧を拾い上げ、場外に投げ捨てる。


「おーっほっほっほっほ!! 策が上手くいったと思ったのでしょうけど、ハメられたのは貴方の方だったようね。視界と音が遮られたのは驚いたけれど、止めを刺そうと貴方から近寄ってくるまで待てばいいだけのこと。それに、私は気配で相手の位置がわかるのですわ。とにかく! これで貴方はもう丸腰ですわね!」


「うう……」


「ああ……まずいです……」


 マルクの心には恐怖が走った。たとえ使いこなせなくとも、武器を持っているということが幾らか心の支えになっていたのだ。

 それを失った今、最早彼が頼れるものは一つだけだった……


「さあ! 止めよ!」


 メルナは恐るべき速さで突きを繰り出すも、全て回避されてしまう。

 それどころか、剣がすっぽぬけて場外に落下してしまった。


「どうしたのでしょう!? メルナ選手、攻撃が全く当たりません!」


「そ、そうでした! マルクにはまだ幸運がついている!」


「クッ……やはり一筋縄ではいきませんわね!」


 メルナは怯まず、攻撃の手を休めようとはしない。構えを取り、鋭い蹴りを何度も繰り出す。

 だが、当たらない。


「ハァ……ハァ……」


「ヒャハハハハハハァ! 馬鹿め! 転生者にそんなものが通用するかァ!

 さぁ、マルク、まだ行けます! 今こそ、もう一つの切り札を使うのです!」


 プリムは安心のせいか、物凄い勢いで悪態をつき始める。だが、それがメルナの心に火をつけてしまった。


「わかりましたわ。お遊びはお仕舞いに致しましょうか」


 メルナが手をかざすと、場外に吹き飛んだ剣が自ら彼女の手元に戻ってきた。


「えっ!?」


「ふ、ふん! 剣が戻ったところで何ができると言うのですか!」


「……最初に言いましわね? 私には、転生者狩りの必殺剣があると……」


 周囲の空気が重い……会場に居る誰もがそう感じていた。

 魔術の心得が無い者でさえ威圧されるほどの異常な魔力の渦。

 それは、間違いなくメルナの持つ剣から放たれていた。


「さあ、覚悟なさい……」


「あ、あれは……地獄の炎!?」


 メルナの剣には、青白い炎が渦巻いている。

 それを見たプリムは恐怖の篭った声で絶叫した。


「ま、まずい! マルク! 早く棄権してください!!」


(えっ!? あのプリムさんがそんな事を言うなんて……!?)


「もう遅いですわ! くたばりなさい!! 必殺! 輪廻……」


 その時、実況の声が周囲の沈黙を破る。

 余程重大な知らせがあるようだ。


「申し訳ありませんが、両選手試合を中断してください! ただいま、報告がありました! えーっと、メルナ選手は試合開始前に、強力無双ゴルド、怪力超人ジルバ両選手に対して暴行を働き、さらに応援に来ていた彼らの仲間に対しても攻撃魔術を行使したとして、失格処分が大会運営委員会から下されました! よってこの試合、マルク選手の不戦勝となります!」


「……マ、マジですの?」


「マジです」


「何かの間違いですわよね?」


「いいえ、失格です。早く舞台から降りてください」


 マルクは完全に呆気に取られていた。そして、緊張から解放され、その場にへたり込んでしまった。闘っていた二人だけではなく、全員が動揺する中、ただ一人だけが大喜びでマルクに駆け寄ってきた。


「イェーイw やりましたね! やっぱりラッキー勝ちできましたね!」


「うーん……でも、これでよかったのかな……」


 どうやら、マルク自身は納得が言ってない様子だった。

 自分の実力だけでは決して勝てない相手だっただろう。

 それなのに、このような形で自分が勝ってしまっていいのだろうか?

 マルクがそう思っていると、がっくりと肩を落としたメルナが武舞台から降りていくのが見えた。


「あ、あの……」


 つい声をかけてしまい、怒られるのでは無いかと思ったマルクだったが、返ってきた言葉は意外なものだった。


「ふっ、貴方なかなかやりますわね……」


「え……」


「動きは素人にしては悪くなかったし、もう少し鍛錬を重ねれば、もっと強くなるんじゃないかしら? それにまぁ、運も実力の内って言えるかもしれないですわね」


「あ、ありがとうございます……」


 余りにも予想外な言葉に、マルクはつい感謝の言葉を述べてしまう。


「戦いを終えた後は、健闘を讃えあうのが私の流儀ですわ。

 今回は私の自業自得ですしね……でも……」


「で、でも?」


「次は絶対殺す……」


 メルナは悪魔のような形相でそう呟き、その場を後にした。

 マルクは恐怖と尊敬が入り混じり、やはり良く分からない人だと思った。


 かくして、マルクはなんとか一回戦を勝ち残った。

 だが、次の闘いを前にして、運営委員会から発表があるようだ。

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