2.転生者(産地偽装)
「だ、大丈夫だって……」
「でも私、このタブレットが無いと何も殆ど何も出来ないんです……えいっ」
マルクのステータスが上がった!
HP65
攻撃25
防御33
以下略
「ほら、序盤でちょっと頑張ってレベル上げしたくらいのステータスにしかならないでしょ……
私自身の力なんてこんなもんなんですよ……」
「ええっと……よくわからないけど、でも元よりは強くなってるんだよね!
う、うん! なんかすごい力が湧いてきたよ!」
「ははっ……」
プリムの乾いた笑いに、マルクは思わず真顔になってしまった。
なんと声をかけるべきか、それともそっとしておくべきか……
それ以前に、このままこっそりとその場を立ち去っても、プリムは気付かないかもしれない。
……そんな事を考えていると、プリムが突然立ち上がり、マルクの方を見た。
「ちょ、ちょっといいですか!?」
「え?」
プリムは何を思ったのかマルクに殴りかかろうとした。
が、足を滑らせて転んだ。
「えっ?」
戸惑うマルクを無視し、今度は回し蹴りを仕掛けるも、バランスを崩し倒れてしまう。
「な、なにを……?」
「やっぱりだ!」
マルクは、ついにプリムがおかしくなってしまったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「もう一度、ステータスを見てください!」
プリムは空中にステータスを表示した。
そして、一番下の文字を指し示した。
「これは……」
幸運∞
「どうやら私の力も捨てた物じゃなかったようですね!
奇跡的に、幸運のステータスだけはチート化することに成功したようです!」
「あ、あの……ごめん、今更なんだけど、ステータスって何?
というかこれなんて書いてあるの……?」
「ステータスって言うのは、貴方の能力を可視化したものです。
つまりですね、貴方は大して強くはないですが、運だけは凄まじく良い状態になったのですよ!
運だけは!!」
「運だけ……それってすごいの?」
「ええ! とりあえず、もっと実験してみましょう!」
戸惑うマルクを引き連れ、プリムは大急ぎで近くの町へ向かった。
「それじゃ、まずはあれを買ってきてください」
「え、お金持ってないんだけど……」
「大丈夫大丈夫」
マルクはかなり不安だったが、通貨を持たずに指定された店へ向かった。
すると、驚くべき事が起こった。
「ああ、これかい。余ってるからあげるよ」
「ほ、本当ですか!?」
その後マルクは幾つかの店を周ったが、どこへ行っても目的の物を無料で手に入れることが出来た。
「プリムさん、すごいよこれ!」
「そうでしょう? なんだかこの調子なら問題無さそうですね!
まったく、心配して損しちゃいましたよ!」
「そうだね。これならなんとか……いてっ」
「!?」
マルクは石に蹴躓いて転んでしまった。
ただそれだけのことなのだが、今の彼らにとっては異常事態だった。
「ば、バカな!? 彼は今幸運∞のはずじゃ……
まさか……」
そう言うと、プリムは大急ぎで小石を何個も拾い集めてきた。
「マルク、ちょっとそこに立っててください!」
「な、なにを?」
プリムは石をマルクに投げつけた。何度も何度も……
そして、その殆どはかすりもせず、マルク自身も安心しきっていたが、やがて一つの石が彼の股間を直撃した。
「うっうぐ……!?」
「あ、ああごめんなさい! でも、これでわかりました……」
「な、なにがわかったって……?」
「いいですか……? 確かに貴方は幸運∞の超ラッキー状態……
ですが、所詮運は運……絶対ではないのです! 良いときがあれば、悪いときもある……
つまり、普通の人が宝くじに当たる、いや、えーっと……
幸運に恵まれる位の確率で、貴方にも不運が起こる可能性がある、ということ!」
プリムは絶望的な表情で述べるが、マルクには彼女の言葉が良く理解できなかった。
「で、でも殆どの場合は大丈夫なんじゃ……」
「確かに、普通に考えればそうですが、転生者というのはそれだけでは務まらないのです!
貴方のステータスは幸運以外一般人に毛が生えた程度……
そして、その幸運も絶対ではない……全てが中途半端! これでは、無双が出来ない!」
「んー、考えすぎじゃないかな……」
プリムが神経質なのか、マルクが楽観的すぎるのか、それは後にはっきりする事だろう。