1.出会い
「うぇぇぇえええええん!!!」
新米女神プリムは泣き崩れていた。
焼け焦げた地面からはまだ煙が燻っている。
「うぅ……ナオユキさん……
確かに少しウザかったけどこんな酷い目に合うなんて……
本当にごめんなさい……はっ!?」
プリムは突然泣きやみ、がたがたと震えだした。
何かを思い出したようだ。
「も、もしこの事が上位の神様達にばれたら……!
あ、あああ…………」
転生者は神の力によって異世界へ転生している。それを手違いで爆死させるというのは、間違いなく重罪だ。プリムは震えた……自らを待つ未来に。
彼女が膝から崩れ落ちorz←このような状態になっていると、一人の少年が現れ彼女に声をかけた。プリムの大声を聞きつけたのだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「ぎゃああああああ!! あ、ああ……よかった……普通の人か……」
少年はこの世界の住人のようだ。彼は心配そうにプリムの様子を伺っている。
……プリムは少し悩んだが、藁にもすがる思いで少年に事情を話した。
「そ、そんな事が……」
「信じてくれなくてもいいですよ……」
「いや……信じるよ……あまりに突拍子も無い話だけど、それが本当だったらあの尋常じゃない泣き声も納得だし……」
プリムは涙を流した。しかし、感激の涙では無い。恐怖と絶望によるものだ。
「ありがとう少年……でも……お、お終いだ……転生者をミスで死なせてしまった事が私より上の神様にばれたら……もうお終いだ……」
「ばれたらどうなるの?」
「裁かれる……地獄の業火で裁かれる……!」
「そ、そうなんだ……」
「うううう……」
プリムがまた泣き出しそうだったので、少年は急いで耳をふさいだ。
だが、予想に反し、プリムは急に笑い始めた。
おかしくなってしまったのではないか、と少年は思ったが、どうやらプリムは何かを思いついたらしい。
「そうだ! 貴方に転生者のふりをしてもらえばいいんじゃないですか!?
そうすれば誤魔化せるかもしれない!」
「ええ!? 僕が!?」
「そう! 私がここで貴方と会ったのは、運命です! その名も!
『転生者が爆死したので代わりに異世界人を最強主人公として仕立て上げる計画』!!」
プリムはそのままの文章を作戦名として高らかに宣言する。
「最強って……そんな無茶な。なんで僕なの?」
「頼みやすそうだったから」
平然と答えるプリム。
マルクは彼女に話しかけたことを、少しばかり後悔した。
「でも無理があると思うんだけど……僕、そのナオユキさんの事も、転生者の事も、何も知らないし……代わりなんて……」
「大丈夫! 私もほとんど知りません!」
「そんな自信満々に言われても……」
「うう……お、お願いします……本当に」
プリムは土下座の姿勢をとった。
その動きは恐ろしく素早い。慣れた動作である事を感じさせた。
(な、なにやってるんだろうこの人……)
異世界人のマルクには土下座の意味は伝わらなかったが、とにかく必死なのは理解できたようだ。
余りに見苦しいので、マルクは渋々だが了承することにした。
「わかったよ……」
「よっしゃあ!!」
プリムは素早く立ち上がり、両拳を天に突き上げ叫ぶ。
マルクは彼女に話しかけたことを深く後悔した。
「でも、転生者の代わりって言っても、何をすればいいのさ?」
「簡単です! 行く先々でなんか問題解決したり、適当に美少女といちゃついてればいいんですよ!」
「そんな簡単に言われても……」
先程までの事がまるで嘘の様に楽観的な口調に変わるプリム。
そう、彼女には秘密兵器があるのだ。
「フッフッフ……大丈夫! 言ったでしょう!? 私にはこのタブレットが……
あれ? おかしいな……」
プリムはタブレットを操作してみるが、何一つ反応しない。
軽く叩いてみたり、息を吹きかけてみるが、何も効果が無いようだ。
「えーっと、困ったときの説明書を……あっ」
「どうしたの?」
「これ、最初に設定した転生者にしか使えないんだって……」
「えっ」
二人の間にしばし沈黙が流れたが、やがてプリムは膝から崩れ落ち、消え入るような声で言った。
「詰んだ……」