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12.たたずむよろい

 二人は地図を眺め、目的の魔王城を目指す。

 新たな旅が、今始まる。山を越え、谷を越え、森を抜け……長い道程になるだろう。


 と、思われたのだが、なんと魔王城は彼らが居た闘技場から徒歩5分の距離にあった。


「あれですね」


「……あれだね」


「これじゃ、ちょっとコンビニに行くくらいの感覚ですね」


 場所はかなり近いものの、魔王城というだけあり、外観は荘厳で巨大だ。

 また、刺々しい外装が施され、人間の城とは明らかに異なった威容を誇る。

 その門前には、漆黒の鎧が立ちふさがっているが、仁王立ちしたまま一切微動だにしない。

 中に人が入っている様子は無さそうだ。


「なんでしょう、この鎧は……邪魔ですね」


 プリムは鎧を軽く小突いた。すると……


「おい……貴様……」


「えっ……!?」


 突然、何者かの声が聞こえてきた。地の底から聞こえてくるかのような重々しく、威厳を感じる声だ。


「貴様だ、小娘。ワシに喧嘩を売っているのか!?」


「いいいい、いえ、滅相も無い!!」


 声の主は、どうやら鎧のようだ。中身は空なので、鎧そのものが喋っているという事だ。

 彼は怯えるプリムを全く意に介さず、その巨体に見合う威圧的な声で、言葉を続ける。


「貴様等、この城に用か……」


「そ、そうです」


「それは……ここが魔王城と知って、か?」


「はい……」


 少し恐怖はあったが、プリムでは話になりそうも無いので、マルクは事情を説明する事にした。


「あの、僕、マルクって言います。武闘大会でミーナっていう子に地図を貰って、それでここに来たんですけど……」


「なにっ!?」


 鎧は驚愕したように声を上げた。その名前に心当たりがあるようだ。


「……ちょっと待ってろ」


 そう言い残し、鎧はドタドタと足音を立てて城の中へ駆けて行った。

 その動きは意外にも軽やかで、二人は驚いた。


「おーい!! ミーナ!! 地図……なに!? 本当か!?」


 暫くして、城の中から鎧の話声が聞こえてきた。

 かなり広そうな城なので、相当な大声で話しているのだろう……

 そして、それが聞こえなってすぐに、再び騒がしい足音を立てながら鎧が戻ってきた。


「小僧……貴様がマルドだとはとても信じられんが……ミーナとモノが言うのだから間違いは無いのだろう……」


 鎧は、なにやら合点が言ったというような感じで言う。


「来い。ミーナの元に案内してやる」


 鎧は手で、"来い"という仕草をし、再び城の中へ入っていった。

 マルクとプリムは呆気に取られ、その場に立ち尽くしていると、途轍もない大声が響き渡る。


「何をしている!!!! 早く来い!!!!」


「ひーっ!? すみません!」


「耳が痛い……」


 仕方なく、二人は鎧に付いて行き、城へ入る事にした。

 ……城の中は予想以上に広く、途方も無く長い通路を歩き、階段を上り、道を曲がり……

 とにかく延々と歩かされた。間違いなく城へ向かうまでよりも長く険しい道程だ。

 鎧の案内が無ければすぐに迷ってしまうだろう。


 やがて、鎧が一つの部屋の前で立ち止まった。


「ここだ」


 彼は一言だけ言い、二人に道を譲った。

 部屋の中はかなり広い。そして、その中央には玉座があり、そこには見覚えのある少女が座っていた。


「おかえり……お兄ちゃん……」


 そう、彼女は、マルクとプリムが武闘大会で出会った、人形遣いミーナだ。

 こうした場所で出会うと、以前とはまるで違った印象を受ける。

 彼女は、まるで一国一城の姫君の様に、気品ある佇まいでマルクに微笑を向けた。


「あの、ずっと気になってたんだけど、お兄ちゃんってどういうこと?」


「それは、ワシが説明しよう」


 鎧が二人の間に割って入る。ミーナはそれが不満だったようで、不満そうな顔で静かに抗議する。


「ガラン……私が話すの。邪魔しないで」


「うるさいわい。ワシの方が先にマルドと話す権利がある」


「ちぇ……」


(二人で一人の取り合いですか……ちょっとそれっぽいけど、片方がゴツい鎧じゃなぁ……)


 などと、プリムがくだらない事を考えていると、ガランと呼ばれた鎧は、軽く咳払いをして話を始めた。


「小僧、お前マルクと言ったな? お前、生まれた時の記憶はあるか?」


 その問いに、マルクはかなり驚いた様子で、困惑しながらも答える。


「それが……実は、僕、昔の記憶が殆ど無くって……」


「え!? そんな大事な主人公属性、なんで黙ってたんですか!?」


 どうやらマルクは、幼い頃の記憶が無く、いつの頃からか森に建てられた小屋で日々を過ごしていたという。

 かつては、彼の親代わりになってくれたという男がそこに居て、共に暮らしていたのだが、彼はある日突然行方を晦まし、以降、マルクは一人で生活していた。

 それを聞いたガランは、納得いった、と言う様子で鋼鉄の拳を叩いた。


「成る程な……やはり、お前こそがマルドで間違いないようだな」


「マルドって一体……」


「よいか、教えてやろう。お前は私の友、大魔王マルドクルスの生まれ変わりなのだ!」


「大魔王!?」


「だだだだだだ大魔王!! ……ええ、知ってましたとも」


 マルクの出生の秘密は、再びこの世界に波乱を巻き起こさんとする物であった。

 彼の中に潜む魔王は今、静かにその時を待ち構えている……

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