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18話 なんとかそいつ殺し隊

『こちら本部。ただちに突入を開始せよ』


「渡瀬了解。これより突入する」


 裕司はヘッドセットにそう答えると低い姿勢でビルの中へ進入した。

 リノリウムの廊下を無骨なブーツで駆けながらドアの陰に取りつく。

 ドアをバタンッと開けて中の部屋に飛び込むと、裕司はファイブ・セブン・ピストルを部屋の隅から隅に素早く向けて敵の存在を探った。


「1階クリア。これより2階に向かう」


『本部了解』


 廊下に出て奥の階段を駆け上がると、裕司はロッドの付いた鏡を取り出した。

 鏡で2階の廊下に敵影がないことを確認した裕司は、先ほどと同じように廊下のドアに取りつき一気に室内に突入した。


 居た!


 入った瞬間に裕司はターゲットを視認した。

 部屋の奥にいた若いOL風の女性がサッと裕司の方に振り向く。目にはなぜかごついゴーグルをしており、まるで待ち構えていたかのように素早く何かの構えを取ってきた。

 裕司は距離をつめようと走った。

 だが、女性がポケットから何かを取り出す方が速かった。

 裕司はサイドステップで嫌な感じがする範囲を避ける。

 女性が何かを叫び、裕司の元居たところを衝撃が走り抜けたが裕司は構わず突入を続けた。

 少し距離を詰めると裕司の感覚は突然クリアになる。裕司はそこで銃の引き金を引いた。

 すぐに女性の体が真っ赤に染まる。

 ヘッドセットから『状況終了』の声がかかったのは、その直後だった。




 外に設営されたテントの下で、何人もの人間が設置されたモニターなどを眺めていた。

 裕司と、ペイント弾で服が赤く染まった皐月が近づくと、目つきの鋭い男が裕司たちに気付いて顔を上げた。


「ご苦労だったな」


 以前、皐月と歩く姿をファミレスのガラス越しに裕司が見たその男は、部隊長の川崎だった。


「早速だが、確認したいことがある」


 ぶっきらぼうにそう言うと、川崎はパソコンを操作して先ほどの模擬戦の映像を再生した。


「ここで既に反応しているな。なぜだ?」


 映像は皐月が銅鏡を取り出したところで止まっていた。


「嫌な感じがするのを感じたからです」


 裕司の答えに川崎は映像を先に進めた。


「ではここは?」


 それに答えたのは皐月だった。


「その時には既に審神者さにわの影響圏内に完全に捉えられていましたので、もう術が発動しませんでしたわ。川崎隊長」


 それは普段冷静な皐月とは思えぬほど柔らかな声だった。

 だが、川崎の返事は「そうか」と素っ気なかった。

 川崎が裕司に向き直る。


「ひとまずこちらでいうところのパウリ効果の確認はできた。これなら、鍛えればものになるだろう」


 それは事実上の入隊許可だった。


「なら、俺はいつ真冬を殺せますか?」


 裕司の言葉に川崎がわずかに顔をしかめた。

 皐月が何か言おうとするのを川崎は手を上げてそれを止めた。


「我々は警察だ。一般人への勝手な制圧行動など許可できない」


「あいつは俺の妹を殺した人殺しだ!」


 裕司の怒声にも川崎は動じなかった。


「その件については、現在事実確認中だ」


「し、死体も証人もそろってるのに、何が確認中だよ!」


 それでも川崎の強面こわもては崩れない。


「この件は政治が絡む。ことは慎重を要求されるのだ」


 そう言うと川崎は裕司をジッとにらんだ。


「軽挙妄動はつつしめ。それが嫌なら、放り出す」


 その有無を言わさぬ圧力に、裕司は引き下がるしかなかった。ここを追い出されては真冬への復讐が遠のく。


「ここはもういい。とりあえず装備を外してこい。お前も、服を着替えろ」


 しぶしぶ引き下がった裕司は、川崎に服装を気づかわれて嬉しそうな皐月の後に続くしかなかった。

 二人を見送った川崎が小さくつぶやいた。


「だが、この結果があれば上も動くかもしれんな」


 モニターには、光る勾玉を無視してペイント弾を叩き込む裕司の姿が映っていた。






 裕司はサブマシンガンを抱えて連射した。

 マンターゲットの胸部、やや左よりの位置にある同心円の中に次々と命中する。

 ここは警察の特殊部隊、SOGの屋内射撃訓練場だった。


 SOGは、既存のSATが人質の安全を最優先としつつ犯人制圧においては射殺も辞さないのに対して、最初から鬼の射殺のみを目的とし、時には民間人の犠牲すらやむを得ないものとして許容する。従来の警察風土にはそぐわない、まさに『鬼子』と呼ばれるにふさわしい部隊だった。

 それゆえにSATのような固有名称すら与えられず、特殊部隊の一般名称である「Special Operation Group」の略称であるSOGとだけ呼称されていた。

 もっとも、隊員たちの間では鬼(O)を掃討(S)する部隊(Group)なんだからちゃんとその頭文字が入ってるじゃないか、という意見が大半を占めるのだが……。


 裕司は腕の中のサブマシンガンを見つめた。

 FN社のモデルP90。

 ファイブ・セブン・ピストルと同じ特殊弾を採用した最初の銃で、室内での取り回しが容易なサブマシンガンにもかかわらずアサルトライフルに近い威力を実現していた。半透明な特殊弾倉には50発もの装弾が可能で、俊敏で筋肉の鎧に守られた鬼との近接戦を余儀なくされる部隊のメインアームだった。

 皐月との訓練という下地もあり、わずか数日で裕司は反動の少ないP90を自在に扱えるようになっていた。


「これさえあれば、あいつを……」


 襲い来る術は審神者の力で無効化できるし、大量の弾は立ちふさがる本家の人間を威嚇または制圧するのに役立つことだろう。裕司の目下の課題はどうやってこっそりとP90を持ち出し、真冬の居場所をつかむかだった。

 そのことに悩みながら裕司が射撃訓練を続けていると、不意にスピーカーから放送が流れた。


『全隊員は至急ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す。全隊員は至急ブリーフィングルームに集合せよ』


 裕司は銃を片付けると集合場所に急いだ。




「里において一般人の殺害が確認された。容疑者は、以前から里の『自治活動』でその残虐な制圧手段が問題視されていた『鮮血姫』だ」


 隊長である川崎の説明に変わり、プロジェクターに一人の少女の姿が映し出された。

 望遠レンズで撮影された写真を更に引き伸ばしたと思しき、粒子の荒いその画像を見て裕司はうめいた。


「真冬……」


「対象は数日前に『自治活動』とは関係なく一般人の少女を殺害している。これによって対象の精神状態は非常に危ういものであると判断される。このまま対象を放置することは、治安維持上の深刻なリスクになると上層部は判断した。よって我々は、そのリスクが致命的な結果を招く前に対象を無力化する」


 すると一人の隊員がおずおずと手を上げた。


「でも隊長。それじゃ里の連中と対立することになるんじゃ……」


「対象の存在は連中の切り札だ。それが我らに敗れたと知って、なおも国家に逆らうほど彼らも愚かではないはずだ。そして本作戦以降、里と警察とのパワーバランスは逆転することになる」


 川崎の言葉にブリーフィングルームがどよめいた。


「これは国家の治安を預かる我々警察にとって悲願の達成だ。これまでは超法規的措置によって里の『自治活動』を容認し、あまつさえその後方支援に回るという屈辱に我々は甘んじてきた。だが、今後はそれが逆となる。我々が主戦力で、奴らが補助だ」


 警察の上層部は当然その機会をずっと以前からうかがっていたはずだが、審神者たる裕司が転がり込んできた今、まさに千載一遇のチャンスが到来したと言えた。しかもこちらから仕掛ける理由付きでだ。


「本日深夜、運送会社のトラックに偽装した車両3台で里の奥にある屋敷を奇襲する」


 裕司にとって見慣れた平面図が映し出された。どうやら元の屋敷に戻っているようだった。


「対象は現在この屋敷に一人で住んでいる。昼間はお手伝いさんが通っているが、夜間はそれもない」


 因縁の場所で対峙できることに裕司はほくそ笑んだ。


「突入は第一小隊。バックアップは第二小隊が行う」


 そこで川崎が裕司の方を見た。


「渡瀬。お前は本部付きとする。指揮車の中で待機だ」


「ふ、ふざけるな!」


 裕司は椅子を蹴立てて立ち上がった。


「俺以外の誰があいつを殺せるっていうんですか! 俺はあいつを殺すためにここに来たんだ! そもそもこの作戦だって、俺が来たから可能になったはずじゃないですか。なのにどうして!」


 裕司は川崎の鋭い目でにらまれた。


「簡単に取り乱して感情的になるような奴に、突入は危なくて任せられん。一人の勝手な行動がチーム全体を危機に追いやることもある」


「だ、だけど!」


「それにこれは、本来の部隊の力で遂行してこそ意義があると上は考えている」


 つまり部隊の通常戦力で作戦を実行できなければ、今後もし里の協力無しに強力なクラスの鬼の制圧が必要となった場合、その対応がおぼつかないということだった。

 裕司の存在が作戦決行の大きな要因にはなっても、それはあくまで万が一の保険であって、組織の主戦力として個人の特殊な能力に頼りきるわけにはいかないという事情がそこにはあった。


「そんな……」


 裕司は呆然と立ち尽くした。

 そんな裕司をよそに川崎が隊員たちに告げた。


「なお、作戦中は上空で空自による夜間飛行訓練が行われる予定だ。各自気を引き締めていけ」


 その言葉に、室内に強い緊張がはしった。


「以上、解散!」


 各員があわただしくブリーフィングルームを飛び出していく。裕司だけを、除いて……。







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