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16話 お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない

「買物についてきていただけませんか。お米など少々重い物を、ふもとのスーパーで買い置きしておきたいので」


 皐月からそんな申し出があったのは、裕司が刈るべき庭草もそろそろなくなってきた頃だった。

 珍しい皐月の依頼に裕司は驚いたが、もちろんダメなわけがなかった。


「わ、分かりました」


「そうですか、ではすぐに出かけますので駐車場に回ってください」


 裕司は手早く昼食の残りを片付けるとあわてて立ち上がった。


「そういうことですので、少し家を空けます。お嬢様」


 真冬の反応はわずかにうなずいてみせるだけだった。






 裕司が皐月の車に乗り込み屋敷を離れてからしばらく、玄関には呼び鈴を押す人影があった。

 何度何度もしつこく呼び鈴を押され、その音に耐えかねた真冬は仕方なく玄関まで出向いた。


「うるさいぞ! 誰だ一体。皐月なら今出かけている。用事なら後にするがいい」


 その不機嫌な声に、ようやく呼び鈴が鳴りやんだ。


「お兄ちゃんたちが留守なのは分かってる。だから来たの。じゃないとまた私たちの間でオロオロして、どいてくれそうにないんだもん。私一度、真冬さんと二人っきりで話がしたいなあって」


 聞き覚えのあるしゃくに障る声に真冬は顔をしかめた。


「ねえ、ここを開けて。病院を抜け出してここまで来るの、私的にはすごく大変だったんだよ。もう疲れちゃった。おまけに外は病院みたいに涼しくないし」


 それでも真冬が戸を開けるのをためらっていると、今度は駄々っ子ような声が聞こえてきた。


「え~、開けてくれないの~。開けてくれないとお兄ちゃんに言いつけてやるんだから。荒魂あらみたまのお姉ちゃんに意地悪されましたって」


 その瞬間、真冬は引き戸を開けていた。


「そなた……、どうしてそのことを知っている!」


 真冬の詰問きつもんに、裕司の妹の愛梨あいりが嬉しそうに笑った。


「やっと開けてくれた~。私ね、真冬さんと会ったらいろいろ聞きたかったんだ。例えば、お母さんをどうやって殺したのかとか」


 真冬の顔が引きつった。


「他にも私をダシにお兄ちゃんをいじめるのはどんな気分だったのか、とか。土下座したお兄ちゃんにどんな条件を突き付けてお手をさせたのか、とか。他にもい~っぱい」


「……見て、いたのか」


 真冬の声に苦いものがにじんだ。


「だけど、今はどんな汚い脅迫をしてるの? お母さんがあんたなんかになぶり殺されたっていうのに、お兄ちゃんがここを出て行かないなんておかしいよね」


「そなたに、言う必要はない……」


 真冬の計画は妹に秘密が露見した段階で既に瓦解しかけていたが、それでも素直に白旗を掲げるわけにはいかなかった。


「ふーん、そうなんだ。でもね、大体わかっちゃうかな。お兄ちゃんがあんたみたいな人の下から離れないなんて、私の手術のことくらいしかないから。ねえ、違う?」


「……だったら、どうだというのだ。タロ……裕司には、私の執事として仕え続けるのであればそなたの手術をしてやると言ってある」


「執事? さっきタロウって言いかけてたのが聞こえたけど、飼犬の間違いじゃないの?」


「ど、どちらでも同じことだ! 裕司にここでの生活に不自由させるつもりはない。私がちゃんと面倒を見るからな」


 そこで真冬は勝ち誇った笑みを浮かべた。


「それこそ、妹のそなたでは逆立ちしても出来ぬことまですべて、だ。分かったらそなたはとっとと手術を受けて、どこぞの全寮制の女学校にでも入っていろ!」


「わ、私のお兄ちゃんに何するつもり!?」


「さあて何だろうな。いやむしろ私が何かされてしまうのかな。裕司の激しい攻めを私が受け止めきれるかどうかが目下の悩みでな」


 わざとらしく自分の胸に片手を当てて悩む真冬に愛梨はよろめいた。


「せ、攻めだの受けだの、なんてことを……。お兄ちゃんをBLのアブノーマルな世界に引きずり込まないでよ、この男女!」


「わ、私はれっきとした女だ! 勝手に裕司との絡みをBL扱いするな!」


 貧乳という最大のコンプレックスを突かれて真冬がキレた。


「大体そなたの近親相姦願望の方がよほどアブノーマルではないか。この変態ブラコン娘が!」


「に、日本神話だってイザナギとイザナミが兄妹で結婚して神様生んでるじゃない! だからこの気持ちは純粋なの。いわば神話に祝福された関係なんだからね。あんた神社の娘のくせにそんなことも知らないの? バーカバーカ!」


「なんだと!?」


「なによ!」


 またしてもガルルルッといがみあう二人だったが、先に体を引いたのは愛梨の方だった。


「お兄ちゃんはあんたなんかに絶対渡さない。お兄ちゃんは私のものなの。ちゃんとそうなるように、小さい頃から苦労して刷り込んできたんだから。

 お母さんにほっとかれていじけてたらこの胸で抱きしめて甘えさせてあげたし、勉強を分からないフリして教わっては大げさに褒めてあげた。体を拭いてもらう時や添い寝してもらう時なんか、さりげないボディータッチをいつも欠かさなかったんだからね!」


「実の兄を相手にキャバクラ嬢並の営業努力とは。愛梨……恐ろしい奴!」


「だから、あんたみたいな泥棒猫には死んだって渡さないんだから!」


 そう言うと愛梨はぶつぶつと何事かをつぶやき始めた。それを聞いた真冬が血相を変える。


「バカな……。祝詞のりと……だと!?」


 あわてて真冬が眼帯を外すと、愛梨は抜き放った短刀を腰だめに構えていた。


「これで往生しろー! 震斬しんざん!!」


 愛梨の声で柄頭つかがしらの勾玉が光り、刀身がぶれたように見えづらくなる。そして愛梨が駆けた。


「っ!」


 真冬はとっさに後ろに飛びながら身を守るように両手を体の前でクロスさせる。と同時に指の軌道に沿って10本の真空波が勝手に生まれ、様々な角度から包み込むように愛梨を迎え撃った。


「しまっ…」


 真冬は自分のミスを瞬時に悟った。だが、すべては遅かった。

 愛梨はなすすべもなくかまいたちに切り刻まれて倒れ、短刀がカランと玄関に転がった。


「お母さん、ごめん……。やっぱり仇……討てなかったよ。だけどこれで、お兄ちゃんは永遠に……私の……もの」


 そう言うと愛梨の瞳から光が失われた。

 真冬は思わぬ展開に呆然とするしかなかった。

 だがその時、遠くから聞き覚えのあるエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきた。

 その瞬間、これまでにない恐怖に襲われた真冬は、その音からただ遠ざかるように……逃げた。







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