15話 エクストリーム給仕
真冬の振舞いに刺激されたのか、公園に出かけた日以降、皐月の外出が増えた。
真冬も特にそれを咎めなかった。
取り残された時の裕司は一人で訓練の続きをするか、庭の伸びた夏草を鎌で刈ることでなんとか時間を潰したが、昼食だけは真冬と2人きりにならざるを得ない。
「食べさせろ、タロウ」
食卓には皐月の作り置いたアジの一夜干しと里芋の煮っ転がしに、裕司がよそったご飯と味噌汁が並んでいた。
確かに魚と里芋は箸で食べにくく、以前のように眼帯を付けていればそれはなおさらだったに違いないが、
「……見えてるんだから、自分で食べれるだろ」
「では、見えていなければいいのだな」
そう言うと真冬は一度外した眼帯をカチャリと付けなおした。
裕司はうんざりとため息をついた。
「いやそうじゃなくて。それでも今まで何とか自分で食べてただろ」
「魚はほぐしたり小骨を取るのが難しいのだ。今までは切り身やほぐし身が多かったのだがな。ここにきてまさか一尾丸ごととは皐月もなかなか考える。里芋もすべるからと箸で刺して食べたら無作法だとよく注意されたものだ。最近はとんと見なかったのだがなあ」
皐月の無言の抗議が食卓に現れているようで、裕司は皐月に対して申し訳ない気持ちになった。
「それが分かってるなら、せめて自分で食べろ」
すると真冬は「う~む、そうだな」と言ってしばし考え込むと、
「ならば、私の体をヒモで縛るというのはどうだ? そうすれば食べさせてもらうしかなかろう。皐月も私が下僕にみじめに縛られながら食事を与えられていると思えば、少しは溜飲が下がるというものではないか」
妙案だといわんばかりにいい笑顔をした真冬に裕司は唖然とした。
「正気か、お前……」
「さあ、そこはあまり自信がないが、貴様も私を縛り上げられるのだから異存あるまい?」
「……どうなっても、文句言うなよ」
説得をあきらめた裕司は仕方なく台所から荷造り用の細いロープを持ってきたものの、人を縛った経験など当然ないので真冬を前に途方に暮れるしかなかった。
結局、ほぼ真冬の指示通り縛る羽目になった。
「うむ、これでいいだろう」
手は後ろ手に縛られ、胸の周りを上下斜めに回されたロープを使って腕も体にガッチリと固定されていた。足も足首だけでなく膝まで縛られて、首輪代わりのロープと短く繋がれたので満足に立ち上がることすらできない。
そんな真冬が眼帯を付けて正座している姿は、何というかすごくクルものがあった。
胸がもう少しあれば完璧だったかもしれないが、それでもロープでいくらかは強調されており、和装とあいまって致命的な弱点にはなっていない。それにどうしても裕司の私怨が混じるため、かなりきつく縛られているのも幸いしていた。
縛っている最中もロープが真冬の白い肌に容赦なく食い込んだが、真冬はそれには一切文句を言わなかった。ただし、縛り方には細かく注文をつけていたが……。
「さあ、早く私にご飯を食べさせろ」
真冬の嗜虐性をあおる姿にしばし目を奪われていた裕司だったが、その言葉で我に返るとあわてて箸を手に取った。
「本当は石でも抱かせたいのではないか?」
真冬のからかうような声に、裕司の脳裏で時代劇の拷問風景がよみがえる。
「それとも、悪代官に力尽くで手籠めにされてしまう方か? 皐月が帰ってくるまでまだ4時間ほどあるな。当初の想定よりはだいぶ短くなってしまうが、私はそれでも構わないぞ」
妥協とも誘いとも取れる真冬の言葉に裕司の心がグラリと揺れる。
しばし逡巡した裕司は、やがて意を決して動いた。
「いいから黙って食え!」
裕司は真冬の口へ里芋を乱暴に押し込むと、モゴモゴと文句を言う真冬の声を無視した。
そうやって強引に食事を進めていくのだが、背を丸めて顔を前に突き出している真冬の口に味噌汁の椀を当てて飲ませてやっている時などは、まるで水責めをしているような妖しい気持ちに裕司はなった。コクコクと動く真冬の白い喉から目が離せない。
「つ、次は魚だ。ほら、口を開けろ!」
緊縛姿の真冬が自分の言いなりになって食事させられている姿に、裕司の声もつい大きくなる。普段生意気な真冬が自分の思い通りに動いていると思うと、これはこれでなかなか高揚した気分が味わえた。
「ああ、こぼすな。ちゃんと食べろ」
乱暴な指図にも真冬は大して口答えもせず、最後まで割合大人しく裕司の『給仕』を受けていた。
しかしそれが緊縛の効果なのか、据え膳を前にした裕司のヘタレ具合に失望したからなのかは定かではない。
そうして真冬の食事が終わったところで、我に返った裕司が途方に暮れた。
何かをやらかしてしまった感がとてもある。いや、それとも犯らなかったからか。
だが、あのまま真冬の誘いに乗るのも何かが違うのではないかという懸念が裕司にはあった。壊れかけの真冬に、ただ憎しみと欲望をぶつけて果たして本当に妹は救われるのだろうか。真冬の暴走とまき散らされる悲劇はやむのだろうか。裕司には自信が持てなかった。
とはいえこのまま虚脱していても仕方ない。裕司はノロノロと真冬の拘束を解こうとしたが、それは当の真冬からあっさりと拒否された。
「せっかく苦労して縛られたのだ。もう少しこのままこの不自由を味わいたい」
そう言われると仕方ないので、裕司は遅ればせながら自分の食事を開始したのだがすぐに問題にぶつかった。
「……俺が落ち着かないんだが」
緊縛姿の真冬を見ながらだと食欲よりも別のものが裕司は刺激された。
「文句の多い奴だな。では私を自室まで運べ。そこが牢屋替わりだ。後でちゃんとこの拘束を解きに来るのだぞ」
だが、そこにも違う問題があった。
「私は立てないのだから抱えていけ。腕を下から回すのだ。ああ、違う。私は腕を使えないのだぞ。もっと抱き寄せるようにして落とさないようにしろ」
真冬の指示通りにした結果、なぜか変形のお姫様抱っこになっていた。しかも真冬の手首が後ろ手に縛られて不自由なため、真冬の上体が裕司にもたれかかるようになって吐息が裕司の首筋をくすぐる。
ロープで強調された胸もピッタリと裕司に当たっていた。不安定な姿勢の真冬は体の力を抜いて裕司に体を密着させることで安定を保っていたので、いやむしろ当てていた。
「ああいいぞ。この体勢だ。さあゆっくりと動け。いきなり激しい動きだと私の体が悲鳴を上げてしまうからな。まだ慣れてないから、強くこすられるとさすがに痛い」
日頃の訓練のせいでよろつくことはまったく無かったが、密着した耳元で意味深に聞こえる言葉を聞かされると裕司は別の意味でふらつきそうだった。
それでも何とか真冬の部屋にたどりついた裕司は、去り際に更にとんでもない言葉をもらった。
「もしうっかり私の拘束を解きに来るのを忘れたら、私は用を足すこともできずにもだえるしかないのだから気を付けるのだぞ」
放置プレイの可能性に思い至った裕司はドキリとした。緊縛姿の真冬が情けなく畳の上でおもらしして屈辱に身を震わせている姿が思い浮かぶ。
「その場合の後始末はすべて貴様にさせるからな。畳も、それ以外も、すべて舌で舐めてきれいにしてもらおうか」
畳以外に何を舐めさせられるのかは分からなかったが、裕司はなるべく早く戻ってこようと思いなおした。




