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7話 『昔ヤンチャしてました』

この話、なんでもないように見えて、実は後々につながる伏線が2つほどあります。・・・といっても、それを見抜くとかめんどくさいという方は、そんなの気にせずぽけ〜っと見ていただければ幸いです。

6月20日 金曜日


愉快な夢を見ていた。

いつも例の悪夢ばかり見る僕にはとても珍しいことだ。

こう、笑いが心から込み上げてくるような。

こう、体がフワッとして気持ちいいような・・・。

ジリリリリリッ

けたたましい音が僕を現実世界に引き戻そうとする。情け容赦も無く。

「う・・・うるさい・・・うるさい・・・うるせぇわっ!」

バキッ!

僕は安眠を阻害する邪魔物にパンチを入れた。

邪魔物は沈黙した。

あ・・・頭が痛い。

目蓋が重い・・・。

眠い・・・。

おやすみなさい・・・。

Zzz・・・。









僕はとんでもなく焦っていた。

ヤバい・・・ヤバい・・・ヤバすぎる・・・!

7時に目覚ましをセットしたはずなのに起きたのは何故か8時。

・・・おかしいなぁ。

目覚まし時計も何故か原形をとどめていないほどぶっ壊されていたし。

僕を遅刻させるための何かの陰謀・・・?

・・・ってそんなことを考えてる場合じゃない!

慌ただしくリビングに出ると朝食が用意されていた。ありがたい!

僕はトーストにかぶりつくと、牛乳で流し込んだ。

「ごちそうさん!」

着替えて歯を磨き、髪を直した。

よし、準備完了!

時計を見ると8時20分。

集合は9時!間に合うか・・・?

カバンを持ち、玄関へと走る。

玄関にあった大きな黒いカバンをホイと飛び越え、靴を履いた。

「行ってきまぁす!」

「行ってらっしゃい・・・職体ってどこ行くのかしら?聞きそびれてたんだけど」

母が見送りがてらそんなことを言い出した。

んなこと話してる暇はない!

「あとで話す!」

僕はドアを勢いよくあけ、飛び出した。













家を出て比較的すぐの所にバス停がある。

ここ大峯は、智林と同じく都市部から離れた比較的田舎な場所なので、バスでないと行かれない所も多いのだ。

まあ、若い人は自転車を使うので問題はないのだが、今回の場合、原則として自転車移動は禁止となっていた。

ったく、頭の固い教員連中め。

僕は自転車を使いたい誘惑を振り払いつつ、バス停へ急いだ。






・・・悪いときには悪いことが重なるものである。

非情にも、1時間に4本のバスはついさっき行ってしまったばかりだったのだ。・・・なんてこった。

僕は愕然としながらも時計を見た。

8時45分。あと15分しかない!

僕は即座に決断した。

・・・走ろう。

次のバスは約15分後。天地がひっくり返ったって時間には間に合わない。

幸い遺伝研への行き方は把握している。

・・・もちろん僕が事前に体験先の場所をチェックしておくなんて殊勝なことをするはずがない。比較的近場だからもともと知ってただけだ。

というか僕があの場所を選んだのは近いからというところが結構あった。

まあ近いと言ってもバスで10分。普通に歩いたら30分以上かかるが。

・・・ん?それって、相当ヤバいんじゃないか・・・?

冷静に解釈してる場合じゃねーよ!僕!

僕は自分の状況が非常にマズイことを再認識して、慌てて駆け出したのだった。












・・・結論から言おう。僕は間に合った。奇跡に近い。もう拍手物だ。

集合場所にたどり着いた時の僕はもうバテバテだったが、24時間テレビで100キロマラソンを完走した人さながらの充実感で胸が一杯だった。

しかし、昨日の肉体的疲労、精神的疲労、眠気が襲いかかり、遺伝研まで全力で走ってきた僕は集合場所でぶっ倒れてしまったのだ。

昨夜美咲さんに関わりさえしなければ・・・。

薄れゆく意識の中僕はそんなことを思った。



目を開けると、そこは雪国・・・ではなかったが、まさに雪国のように白い天井と壁に囲まれており、僕はこれまた真っ白なベッドで寝ていた。

「・・・?ここは・・・?」

「ああ、ようやく気が付いたわね」

ふと見ると、隣には、もう『おばさん』と言われても仕方がないだろうといった程度の風貌のおばさんが座っていた。

「ここは研究所内の仮眠室よ。あなたは倒れたの。覚えてない?」

「まあ・・・急にクラッときてコテッといってしまったような気はしますが」

「まさにその通りよ。記憶状態は良好のようね。点滴うっといたから少しは楽になってるはずだけど」

「それはどうも・・・」

僕ははぁとため息をついた。

まさか皆の前でぶっ倒れるなんて・・・。

情けない。かつ恥ずかしい。

時計を見るともう12時。

僕はとりあえず皆のところへ戻ろうと思った。

「あの、すみません。ご迷惑をお掛けしちゃったみたいですけど、もう大丈夫そうなんで、体験に参加させてもらってもいいでしょうか?」

「そうねぇ・・・」

案の定おばさんは難色を示した。

「あなたが倒れた原因は過労とストレスによるものなのよ。医学部卒の身から言わせてもらうと安静にしてもらった方がありがたいんだけど・・・」

「ハハハ・・・そうですか。過労とストレスですか。フフフ」

僕は、あのアマどうしてくれよう、と残虐に笑った。いつか仕返ししてやる。

「でもこの通りもう元気なんで大丈夫です」

嘘だ。まだ頭は痛いし、何よりとても眠い。点滴のおかげで倒れることは無さそうだが。

「この通りって・・・私の見る限りくまはできてるし顔色も悪いし元気には見えないんだけど・・・」

やっぱり。

「のーぷろぶれむですよ。」

僕は強がった。ホントは極めてプロブレムありまくりなのだが、今の僕は1つのことしか頭になかった。

課題!

恨めしき課題!

あれさえ無ければここでグッスリ寝かせてもらうんだけどなぁ。

「・・・課題って何のこと?」

おばさんは怪訝そうに聞いた。

「へ?どうしてそれを?」

「どうしてって・・・、あなた、今までそれこそ気違いのようにぶつぶつ『課題課題課題』って呟いてたわよ」

し・・・しまった!感情が高ぶりすぎて口に出してしまっていたのか!

「いやぁ、ハハハ。課題っていうのは学校から指示されたレポートでしてね。いわば感想文みたいなもんなんです」

「なんだ、簡単じゃあないかい」

「でもここで寝てたら書けないでしょう?」

「なんだ、具合が悪くて寝てましたって書きゃあいいじゃないの」

・・・そういうわけにもいかないだろう。

「休んだ人とかもちゃんとレポート仕上げなくちゃいけないんですよ。だから先方の都合がいい限り自分1人でもう一度訪問しなくちゃいけないんです」

「あらぁ、そうなの。大変ねぇ近頃の学生は」

「そうです、大変なんです」

「私があんたくらい若い頃なんてねぇ」

「ええ」

「好き勝手に遊んで気に入らない先公はみんなでリンチしたものよ」

「・・・」

僕も中学のとき、少しだけヤンチャ者だったが、そこまで人様に迷惑をかけた覚えはないし、先生をリンチとか、そこまでひどいこともしてないつもりだ。

今の不良はだいぶ丸くなってるようで。

・・・うわあ、この人昔を思い出して笑ってる。

こ・・・怖い。

なんて残忍な笑み。うわ、今度は嘲笑?哄笑?

このおばさんの本性を見た僕はさっさとここから退避することにした。

しかしおばさんの話は終わらない。

「私が15の頃は盗んだバイクで走り出したものよ」

「尾崎豊!?」

思わずツッコんだ。

「あら、あなた尾崎豊知ってるの?」

「ええまあ」

「そう、そりゃあ知ってるわよねぇ、有名だもの。私の仲間内では尾崎豊が流行ってねぇ。カラオケ行っては歌って。みんな歌詞の真似して『16歳の誕生日を迎えるまでに盗んだバイクで走り出すぞ!』って張り切ったものよ」

「あ・・・ははは」

「あなたいくつ?」

「17です」

「なに、駄目ねぇ。男なら15でバイク乗んないと」

「もう『十五の夜』談議はいいですから・・・」

「あらそう」

おばさんはあっさりと引っ込んだ。

「それはそうと・・・」

・・・と思ったらまた出てきた。

「うちは大分暇だからまた後日来ても構わないわよ」・・・・・・?

ああ、体験のことね。オバサン武勇伝、十五の夜談議と来たもんだから話が飛びすぎて分からなかった。

「いえ、今日やります」

「無理はしない方が・・・」

「無理は承知です」

「じゃあなんで・・・」

「またここに来るなんてそんなめんどくさいことできません!」

きっぱり。

「はぁ・・・そこで『友達との思い出を作る機会に休んでなどいられません!』とか言ったらかっこいいシーンなのにねぇ」

「ほっといて下さい」

時刻は12時半。談笑してたら少し元気になった。・・・無論眠いが。

「じゃあすいません。お世話になりました」

「はいよ。無理しないことね」

おばさんは笑顔で僕を送り出してくれた。

「ありがとうございます・・・。じゃ、失礼します」

僕はゆっくり仮眠室を後にした。









・・・広いな。

仮眠室を出ると、そこはながーい廊下。

廊下の両脇には、部屋、部屋、また部屋。

よし、いこうか、みんなの所へ!

・・・。

みんなの所って・・・どこ?

僕は到着後、即おねんねだったので、当然皆が今どこで何をやってるかなど知らない。

「・・・おばさぁん!」

僕は回れ右して、慌てて仮眠室へと引き返したのだった。

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