28話 血染めの車 その3
警告出しました。前にも言った通り残酷描写は得意ではないので、あまり使わないつもりでいます。なのでこの警告が果たしてどれほどの意味があるのか・・・。とはいえ初志貫徹、有言実行という言葉を知らない僕のほざいたことですので、これが大いに意味を持つ可能性も捨てきれないわけですが・・・
なんとかロープにしがみつき、下まで降りていった僕だったが、まったく生きた心地はしない。
僕と村上はげっそりした顔で息をついた。
「寿命・・・縮んだ」
「俺も・・・」
下で飄々としている野沢さんはすごいと思う。
その野沢さんは須川たちの車を蹴っ飛ばしていた。
「おらおらぁ!そこにいんのはわかってんだ!出てこい!出てこないと石でボディに変なの落書きするぞコラ!」
反対側の窓が割れてるんだからそこから覗けばいいじゃないか。
僕は村上にそう言うと村上はハッと笑って言った。
「相手は拳銃構えて待ち構えてるかもしれねえだろ。あの人はあの人でちゃんと用心してんだよ」
そうなのか。
僕は注意深く車内を見た。
中に人影が見えるがスモークガラスでよく分からない。
村上は辺りを見回した。
隣接した車はスモークではなかった。
中には誰もいない。
「・・・なんか怪しいですね。この車。・・・ちょっと周り見てきます」
村上が立ち去る。
なおも車を蹴る野沢さんと僕が取り残された。
「・・・え、出てこないの?やるよ?ホントにやるよ?」
野沢さんはその辺から石を拾ってくる。
「え、マジでやるんですか?だってそれ数千万・・・」
「それガ〜リガ〜リ」
野沢さんによって数千万の車に得体のしれない生物が描かれていく。
「できた。ヘビウサギくん」
ヘビ?・・・どの辺が?
「いや知らねえよ。・・・でもなんで出てこないんだろう」
「つかさ、さっきから思ってたんだけどなんか生臭くねえか?」
「え・・・う。そういえば」
なんていうか、なんとも形容し難い臭いが漂っている。
野沢さんの顔が一瞬険しくなったような気がした。
「開けてみっか。ガチャリ」
「え!ちょっと!?」
用心はっ?
制止も聞かず野沢さんがドアを開けた。
生臭い臭いがいっそう強くなる。
「・・・なんだこりゃ」
野沢さんが今度ははっきりと顔をしかめた。初めて見る表情だ。
「どうしま・・・うっ」
見るんじゃなかった。
僕は口元を押さえながら激しく後悔した。
車内は赤でコーティングされていた。
もともと真っ赤な車のように。
入ってまず気が付いたことは、この車はスモークガラスでもなんでもなかったことだ。
ただ、車に執拗なまでに飛び散った血液でそう見えていただけ。
人影は窓に叩きつけられた人間の頭部。
一体どれだけの強さで叩かれたのか。防弾仕様のはずのフロントガラスはいくつもヒビが入り、頭部はパックリと割れ、オレンジ色の液体が漏れだしている。
もう1つの大男の死体は顔が変形するまで殴られたようだった。血塗れでどこがどの顔のパーツかよく分からない。
着ている服は赤じゃなく、どす黒い、もはや黒に近い赤で染まっている。
その陰惨な光景と匂いに僕は意識が飛ばないようにするのに必死だった。
「ひどいな。こりゃ戦場でもなかなかお目にかかれない虐殺死体だ」
「・・・」
戦場という意味がよく分からなかったが、今の僕にそれを追求する頭はなかった。
込み上げる酸っぱさに、耐え切れず僕は茂みへ走った。
胃のなかをぶちまけた苦しさが、皮肉にも僕の意識を保たせてくれた。
「・・・あっ!」
恐ろしい想像をして僕は慌てて死体を確認した。
1・・・
2・・・
2体しかいない。
もしやと思ったが大川内さんはいないようだ。
良かった・・・。
僕は脱力してへたりこんだ。
「・・・岡崎。死んでるな。こんなところで死んじまうとは不憫なやつだな」
「野沢さん、こっちには誰も・・・ゲッ」
戻ってきた村上が広がる光景を見て絶句する。
「誰がこんな・・・」
「あんたか」
「「えっ」」
僕と村上は声を上げた。
数秒後、それが自分に向けられた言葉でないと理解する。
「いつから気付いてた」
背後から声が聞こえた。
「俺が母親の胎内にいた時からさ」
野沢さんが笑みをみせる。その笑みにいつの間にか現れた初老の男が応える。
全く気付かなかった。
男の両隣には男がいる。1人は血の気の多そうなゴリラ。もう1人は冷血そうな若い男。
「貝塚・・・!」
村上が初老の男を睨み付けた。
貝塚?今日は知らない人がよく現れる日だ。
「やんのかコラァ!」
貝塚の右にいる男がお決まりの陳腐な台詞を怒鳴る。
「よせ、見苦しい」
貝塚というらしい男はそれを制した。
「・・・やはり貴様は逸材だな。今からでも遅くない。どうだ、野沢組なんてちっぽけな看板畳んで、俺のところで働かないか。お前ならNo.2間違いなしだ」
「ハッ、じょーだん。あ、じょーだんじょーだん、とぉ」
野沢さんは変な踊りを始める。
「てめえ!ふざけやがって!」
ゴリラが拳を振り上げた。
「いい加減にしたらどうです。見苦しいというのが分かりませんか」
今まで黙ってた左の男が言った。
静かだが殺意みたいな冷たさが籠もった声。
「・・・グ」
ゴリラは黙りこんだ。
怖いな、この人。
そのやりとりも野沢さんのへんてこな踊りも眉一つ動かさずに見ていた貝塚は静かに言った。
「俺は至って真面目だよ。ウチに来ないか」
「・・・」
野沢さんは黙り込むと踊るのをやめる。
「ふーん、ならこっちも真面目に答えてやる。嫌だね」
平然と、喧嘩を売るような事を言う。
僕はキレたこいつらが襲い掛かってこないかとヒヤヒヤしながら野沢さんを見た。
「・・・なぜかな。よければ教えてもらいたいものだが」
貝塚という男は笑みを絶やさないまま聞く。
それがかえって不気味だった。
「簡単だ。能力の低いものが高いものに従うのが摂理だ。高いものが低いものに従うなんて聞いたことがない」
つまりは俺はあんたより能力が高いっていいたい訳か。
・・・どんな自信だ。
「ハッハッハ。こいつは大物だな。まあそのくらい自信を持ってる奴の方が使えるかな」
「・・・まあ。俺が大物とかいう話はどうでもいい。話をすりかえないでもらおうか。俺は、これはあんたがやったのか、って聞いてんだ」
野沢さんは車を指して言った。
「フム・・・君は俺がやったと思うかね」
男が楽しそうに聞く。
野沢さんは黙りこくった。これはこの男がやったことではないのだろうか。だとしたら一体誰が・・・。
「ま、あんたらの仕業だったらもっとスマートに殺すだろうな。ナイフでひとつきとか。この惨状、まるで獣だ」
「獣か。確かに。分かってもらえて嬉しいよ。・・・岡崎はこちらとしてもまだまだ使える人材だったのだがな。残念だよ」
「で、あんたは結局何を?」
貝塚は顎に手をあてた。
「フム。須川を追ってたらこれを見つけてな。どうしたものかと思案してたところだよ」
僕は堪らず口を挟んだ。
「あなたが来た時、女の子を見ませんでしたか?」
貝塚は初めて僕を見た。
「女の子・・・さあ。ここで死んでるのは皆ウチの者だ。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・1人足りない」
それを言ったのは村上だった。
「あ」
と、同時に僕も思い出した。
大川内さんを連れ去った奴らは3人いたはずなのだ。
「何?」
野沢さんが眉をひそめた。貝塚がうなずく。
「須川の仲間は3人いた。ここで死んでるのは2人。つまり、そいつと、その女の子はどこか消えちまったってわけだ」・・・・・・。
僕らは押し黙った。
大川内さん。無事だろうか。
その時、野沢さんの携帯が鳴り響いた。
「俺だ。・・・」
野沢さんの顔が曇る。
「何だと・・・そうか、わかった」
ピッ
携帯をしまうと野沢さんは
「急用ができた。悪いがあんたとの話はこれまでだ」
「・・・」
すると、貝塚の隣の冷静そうな男が前に出てきた。
「おーおーこれまたかわいい顔したお坊ちゃんだねぇ。お前、大丈夫か?あの後ろのオジサンにケツ掘られてないか?」
「・・・」
男の目が細められる。
こ、怖い。
しかし野沢さんは飄々とそれを受けとめる。
「まーまーそう怒りなさんなって。じょーだんだよ、じょーだん」
「・・・あなたにこれを渡しておく」
男は野沢さんに一枚のディスクを渡した。
「ん?おお!ジョーカーじゃないか。よかった、これで相木も喜ぶ」
「な・・・」
村上は驚きを隠せないようだ。
それは僕も同じだった。
なぜディスクを返したのだろう・・・。
「それと・・・あまり私の前で貝塚さんを侮辱するな」
「おー怖い怖い。あ、まさかもうこのオジサンとはそういうかんけ・・・」
ヒュッ!
男がスーツのポケットから何かを取り出した。
キラリと光るもの。
ナイフだ!
そう気付いた時にはナイフは凄まじいスピードで振り抜かれていた。
「なっ!」
「野沢さん!」
僕と村上が同時に叫ぶ。
が・・・。
ナイフは野沢さんの手によって止められていた。
野沢さんはさっきと変わらない笑み。
男は力を込めているのか真っ赤になっている。
・・・。
僕はただ驚いていた。
「よおよお。短気は損気。そんなんじゃこの世界で長生きできないよ?」
「・・・!くそっ!」
「やめろ、王。お前じゃ適わん」
「・・・くっ!」
王と呼ばれた男は唇を噛んで下がった。
「んじゃ、俺らはいくんで」
何事もなかったかのように悠然と立ち去る野沢さん。この人ホントにすごかったんだ・・・。
僕たちは野沢さんの後を追った。
「す、すごかったですね野沢さん」
「はい!俺見直しました!」
「・・・」
「野沢さん?」
「ぬおおおおっ!」
野沢さんがいきなり雄叫びを上げた。
「・・・?」
「どうしました、野沢さん?」
「ヘリがなあぁぁい!」
「あ」
そういえばバリバリやかましい音が聞こえなかった。あの人帰ったのか?
「わ、ワンレイさん呼び戻しましょう」
村上が慌てて携帯を取り出した。
「・・・出ない」
「どうしましょう、ここどこですか」
「早くしないと警察来てめんどくさいことに」
「おお!」
今までじっと考えてた野沢さんが手を叩く。
「何かアイディアが?」
「そういえばワンレイ、今日見たいドラマがあるから定時に帰るって言ってたな」
「・・・」
沈黙。
「いや知らねーよ!今さらそんなこと気付いてもおせーんだよ!」
「てか定時ってなんだよ!今深夜だぞ!その前にヤクザに定時もクソもあるか!」
「彼女は夜勤だ」
「知るかぁっ!てかドラマくらいビデオに撮れえっ!」
「いや・・・俺に言われても」
小さくなった野沢さんがボソボソ言った。
そりゃそうかもしれないが言わないでいられようか。野沢さんは落書きに使った石でアスファルトにのの字を書いている。
「もういいですからとりあえずここから離れましょう」
村上の冷静な意見。
「だな。タクシーでも呼びましょう」
村上が携帯を取り出す。
「そういえば、さっきの電話、何だったんですか?」
僕は野沢さんに尋ねた。
「おお、忘れてた。・・・おい村上、敦司くん。警察に行くぞ」
「へ?・・・ああ。この事件を通報するんですか」
「いや。さっき相木から連絡があってな。柴咲が警察につれてかれたらしい」
「・・・へ?」
「・・・え」
「ええええっ!」
叫んだのは僕と村上だ。
「どういうことですか!柴咲さんが何をしたんですか!」
「さーなあ。ま、ヤる時はヤる奴だとは思ってたよ。うん」
「野沢さんっ!?」
「まあ冗談はさておき、それを知るためにも警察いっとこーか」
その時一台の車が止まった。
「お、迎えのタクシーだ」
「え、早いですね・・・え・・・」
村上が絶句する。
それはタクシーなどではなかった。
白と黒でコーティングされたやつだ。
彼らは慌ただしく車を降りると、車上の惨劇に騒然となって、何か通信したあと、僕らの方を向いた。
「・・・署までご同行願おうか。」
なんでこうなるかな。
僕たち3人は期せずして警察まで連れていかれることとなった。
ただし若干意図した物とは違う形になったわけだが・・・。