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4話 ほんのささやかな報復※良い子は真似しないでね

進みが遅いです。ごめんなさい。てか今『推理』の要素無いですね。その内出てくるんでどうか見捨てないで・・・。       ※くどいようですが、地名やらは筆者の創作です。実際にその地名があるわけではありません。(あったとしても偶然です。多分・・・)

永森と話してしばらくたった頃、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

到着が遅いような気がするが、まあ事件性がないから遅くても問題ないのだろう。・・・いや問題あるか。事件性とか勝手に判断してのんびり到着とか、大いに問題だろ。

「パトカーだね」

永森が呟いた。

「・・・あの事故の人、やっぱ死んじゃったのかな」

「そりゃあ電車にはねられたらな・・・」

「さっきは足止めなんてついてない、みたいなこと言っちゃったけど実は大変なことなんだよね」

「あぁ・・・」

さっき見た酔っぱらいサラリーマンはついに駅員につかみかかり、ちょっとした騒ぎになっていた。

「僕は、ああいう大人にはなりたくない・・・なんて言い方すると子供みたいだけど」

永森は少し照れたように笑ったが、言葉を続けたとき、こいつの顔は侮蔑と怒りの混ざった冷たい顔だった。

「人が一人死んでるのに自分の都合しか考えない。挙げ句の果てに騒動起こして人に迷惑かけてる。・・・駅員にいくらつかみかかったところでどうしようもないのにね」

永森は横目でリーマンを見つつ、一息でそう言いきった。

僕は少し驚いて、黙っていた。

永森はこんなに自分の感情を前に出す人じゃないと思っていたが。

永森はいつもの表情に戻ると、静かに笑った。   「あ、なにこいついきなりムキになってんだ?て思ったでしょ?」

図星。

僕は答えずに口元を緩めた。永森も微笑すると先を続けた。

「僕の兄がさ・・・刑事なんだ」

「へえ」

初耳だ。

「24でさ。年の離れた兄なんだけど、優しいんだよ。両親が離婚して母親に育てられてさ。母さんが、その、早死したあとは一人で僕を養ってくれた。11の時からだから7年になるね」

「・・・」

永森がかなりの苦労人であることを初めて知った。こいつはそういう苦労を積み重ね、ここまで成長してきたのだ。両親もいて家もそれなりの豊かさがある僕には、その苦労は計り知れなかった。

「あ、ごめん変な話して。こんなことが言いたかった訳じゃないんだよね」

僕は無言で続きを促した。

「兄さんは交番勤務だったんだけど、去年偶然麻薬ルートを挙げて警視庁捜査一課に大抜擢。階級も巡査部長になったんだ」

「へぇ、良かったじゃん」母を亡くし、弟を養い、頑張り続けた兄に天がご褒美をあげたのだろうか。微笑ましい。

「うん・・・だけどね、最近ちょっと・・・何ていうのかな。余裕がないっていうか。やっぱり本庁の刑事になるとさ、交番勤務と比べて事件と接する機会がとんでもなく多くなるんだよね。当然人が死ぬ事件にも多く関わるようになる。・・・まあ兄さんは優しすぎるんだろうね。起こる事件1つ1つにいちいち心を痛めてる。僕の前ではいつも明るいんだけど、最近はどうも陰りがあってさ。で、そういう兄を持ったからっていうのもあるのかな。ああいう人見ると余計・・・」

「余計ムカつくんだ?」

「そう。なんか腹立っちゃった」

永森は自嘲するように笑った。

「それこそそんなこと言ってもどうしようもないのに、ね」

僕は何も言えずに口を閉じたままでいた。

しばらくの沈黙を破ったのは荒い音質の構内アナウンスだった。

<現在横浜行き電車、人身事故のため大幅に遅れておりまして、お客様には大変ご迷惑をお掛けしております>

「ホントだよ!ったくふざけやがってよぉ!」

アナウンスの途中で酔っぱらいバカリーマンの雑音が入ったとき、さすがに僕もプチッときた。

・・・ふざけてんのはお前の方だよこの社会のゴミ♪

フフ、どうやらこの愚かなリーマンはよっぽど誅伐を欲しているらしいな。そういうことなら仕方がない。この僕がささやかながら誅してやろう。フフフ、アハハハハハッ!

ちょっとキすぎてテンションがおかしくなってしまったか。そもそも僕もああいう人種は大嫌いなんだってのに永森の話を聞いたから尚更キたんだな、多分。

これはちょっとギャフンといわせないと気が済まなくなってきた。

・・・えげつない、それでいて知的かつ陰湿な手法で、じっくりお仕置きをしてやる。

僕はあのリーマンを懲らしめるための策を、、普段の受験勉強でもあまり使わない脳みそを総動員して考え始めたのだった。


僕の思考をよそにアナウンスは続けられた。

まぁ八割方は謝罪の内容だったが、要約すると、もうまもなく電車が来るということだ。

大声で怒鳴っていたリーマンは、まだぶつくさ言っている。しかし、電車のヘッドライトが見えると、他の客を押し退けて当然のように最前線を陣取った。

「・・・・・・」

永森は無言で奴を睨み付ける。

そんなこと素知らぬ顔のリーマン。

・・・情状酌量の余地無し。

僕はニヤリと笑った。




・・・これはかの有名なある人の言葉・・・などではなく、某有名国立大学の医学部にいる4つ歳の離れた僕の従兄の言葉である。

「いいか、敦司。社会人というものは大体において世間体のことで頭がいっぱいなものだ。それが悪いとは言わない。そう気にするようになったプロセスが誰しもあるものだからな。気にしないのは・・・まあ、傑物か変人くらいかな」


・・・彼が中3の時に小6だった僕に言った言葉だ。

性格ひん曲がってやがる。中坊がそんな思考してていいのか・・・?

僕は聞きながら、きっと彼こそ将来世間体を気にしない『変人』になるんだろうなぁ、と思ったものだ。


そう、社会人は世間体を気にするもの。なら公共の場、衆前にてあのリーマンに赤っ恥をかかせるのがいい。

さて、どんなシチュエーションが効果的かな・・・・・・






ふと気が付くと、もう電車は到着していた。    「どうした?大丈夫?鳳君」

「ん?ああ、大丈夫だよ」僕は首を振って言った。

いかん、電車が来るのにも気付かないとは集中し過ぎたな。

「それよりもさ、永森、奴を公衆の面前で赤っ恥をかかせようと思うんだけど、興味ある?」

僕は永森に朗らかに笑いかけた。










電車に乗り込むと、なんとかあのリーマンの後ろの位置を陣取った。

電車には事故の時中にいて、電車が止まったのをひたすら待ちぼうけしていたらしい人が少なくなく、奴は最前線に陣取ったにもかかわらず、席に座ることはできなかった。ざまあみろ。

永森はちょっと離れた所で人にもまれながら、いきなりリーマンの背後へと回った僕を心配そうに見ていた。

暴力沙汰でも起こすとでも思ってるのだろうか。でも無論そんなことはしない。それじゃあ公衆の面前で皆に白い目で見られるのは奴でなく僕になる。僕がとるのはさっきも言ったようにもっと理知的かつ狡猾な策だ。

僕は

「心配ない」

と笑って返すとリーマンを見た。

・・・そろそろか。

ガタン、と音がして電車は傾いた。急カーブだ。乗客がよろよろと揺さぶられる。

次の瞬間。


「キャアアッ!」

リーマンは目の前に座っていた女性に頭から突っ込んでいた。っしゃあッ!

僕は膝を打って喜びたい衝動にかられたが、我慢する。僕の構想は見事に成ったのだった。それはもう見事に。

他の乗客の反応も上々だ。話し声はピタリと止み、みな一様に白い目をリーマンに向けている。

リーマンはようやく自分のおかれた状況を理解したのか、即座に顔を上げた。さっきまでのエゴで尊大な態度はどこへやら。青い顔で、しどろもどろになって弁解を始める。

「ち、違うんだ、これはぁっ・・・あ、あぁ、う、後ろから押されて」

「何言ったって無駄ですよ?変態さん」

「ち、ちが・・・」

僕がリーマンの痴漢行為を見かねた好青年を装い、ここぞと追い込みをかけると今度は赤い顔をして小さくなった。

「何が違うの?ならさっさと手を離してくれないかしら?」

女性が鋭くリーマンを睨んだ。

女性の視線の先を見ると、・・・愚かなりリーマン。奴は女性に頭から突っ込んだ状態から起き上がり、必死に弁解を続けていたのだが、奴の手はそのままで、思いっ切りその女性の胸を掴んでいたのだ。

「ウワッ」

「キモッ」

周りから声が上がる。

いや、僕も少し引いた。こいつ、どさくさ紛れの確信犯じゃないだろうな?

「いや・・・これは・・・」

「まだ言い訳?謝る気はさらさら無いわけね。この・・・変態野郎ッ!」


ガスッ


女性がリーマンの股間を思い切り蹴り上げた。

ウッ・・・!

うわぁ、やるなこの人・・・。僕は思わず股間を押さえた。痛い。ありゃ痛い。

「・・・・・・ッ!!」

リーマンは声にならない悲鳴をあげる。

そのとき電車が駅に着き、扉が開いた。

リーマンはよろめきながらホームへと降りていったのだった。

・・・なんと上手くいったことだろう。最後にはあのリーマン半泣きだった。

ちょっとやりすぎた感はあるな。うん。

僕が達成感に浸っていると、背中をポンと叩かれた。

「やることがえげつないね、鳳君」

声を潜めて永森が笑いかけてきた。        「モチ。当然の報いさね」僕は親指をグッと立て、ニヤリと笑った。

ぶっちゃけ笑いが止まらなかったが、いきなり電車の中で高らかと笑えば

「何この変質者」

「ママー、あのお兄ちゃんなんで笑ってるの?」

「シッ、見ちゃいけません」

・・・となること請け合いなので我慢する。

「しかし上手いことやったねぇ。バレても『肩がぶつかっただけです』とかいくらでも弁解できるし」

「そうそう。頭を使わなきゃね」

僕は自分の頭を指でツンとつつき、もう一度ニヤリと笑ってみせた。

そう。僕のしたことは至ってシンプル。ただ急カーブでみんながよろめくタイミングでリーマンの背中をそっと押しただけだ。そうっと、ね。

<次は〜緑町〜、緑町〜>

「あ、僕もう降りなくちゃ」永森が立ち上がった。

「おう、じゃあね」

「ふふ、なかなか楽しかったよ。久しぶりに鳳君と話せて。・・・ちょっとスカッとしたし」

永森は含み笑いを僕にむけ、去っていった。

ちょっと照れ臭かったので顔をそっぽにむけて手を振った。

・・・さて、僕もそろそろ降りる準備をしないとな。

<次は〜大峯〜大峯〜>

「さてと・・・」

僕は伸びをすると立ち上がった。

僕に向かっている視線には全く気付かずに・・・。

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