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26話 過去の誓い その3

人物紹介No.014 相木(下の名は不明) 「野沢商事」技術部門総責任者にして、ハッキングやプログラミングのスペシャリスト。もともとは普通の会社員だったが、裏の顔はハッカー。評判を聞きつけた野沢組が彼をヘッドハンティング?する。新参者だが野沢組の表の仕事での大半の収益を誇るソフト開発の責任者であり、裏の仕事の能力も高い彼は事実上野沢組のNo.3である。そんな彼を快く思わない者は多い。

これは洒落にならない。

その日の夕飯、そういう話になった。

僕と早紀、伯母さんはとても夕飯なんて食えるものではなかった。

大好物の鶏そぼろおにぎり、しばらく食えないな。

そんなことを思ったりした。

警察に連絡しよう。

伯父さんが言い出した。

善は急げ。

すぐさま僕と早紀、伯父さんは警察署の生活安全課へと向かった。

あとは警察がなんとかしてくれる。

しかし、相談窓口で聞いた言葉は、予想だにしない言葉だった。

「そりゃ無理ですよ」

「・・・は?」

僕らはあっけにとられた。無理?

「そのカラスの件ですが、別にお宅の玄関にあったんじゃなく、前の道路に捨てられていたわけでしょう?一応異臭などの被害から被害届けを出すことはできますがね。ストーカーにはなりませんよ」

「・・・」

「それに、無言電話に尾行でしたっけ?それもストーカー被害と関わりがあると言い切れません。はっきり言いますと、現状でストーカーの立件は不可能ですな」

「そんな!あいつがやったに決まってるんだ!あいつが!」

僕はわめいた。

「敦司。止めておけ」

「でも!」

「お役所仕事ってのはそういうもんだ」

「・・・ッ!」

「どうおっしゃってもらっても構いませんがね。こっちは法律にそって仕事してるだけです。・・・用が済んだならお引き取り願えますか?」

「ふざけんなっ!」

「よせ・・・行くぞ」

憤る僕を伯父さんが止めた。

僕らは怒りに肩を震わせ、警察署をあとにしたのだった。




帰り道。

僕らは来た時の勢いむなしく、肩を落としてとぼとぼ帰っていた。

無言。

僕の中にはなんとも言えない思いが広がっていた。

「・・・ねえ、お役所仕事ってどれもそういうものなのかな・・・父さんも・・・」

「すまん。そういうつもりで言った訳じゃないんだ。お前の父さんは立派な仕事をしてる。ただ、お役所仕事をしていると、必ずああいった輩が出てくる。そういうことだ」

伯父さんは僕に微笑んでみせた。

「父さんは・・・父さんは、違うよね」

「ああ、違うさ・・・さーてと、さっさと帰って、お子ちゃまはおねんねしろ!」

「お子ちゃまは、ってお父さんはどこに行くの?」

首を傾げる早紀。

「ん?パで始まって、コで終わる、大人のワンダーランド」

「・・・伯母さんに言いつけてやる」

「敦司ぃ!お前って奴はぁ!」

夜の帰り道に笑い声が響いた。







そして、あの日がやってきた。

忘れもしない、夏の日。前日に台風が過ぎ、台風一過でカラッカラに晴れた夏の日だった。

「いってきまぁす!」

「・・・いってきます」

今日は、昨日遊べなかった分も遊ぼうと、張り切る早紀と、毎日遊ぶのがいい加減めんどくさくなってきた僕。2人で元気よく(?)家を出た。

「あ!かわいい!」

途中、道路の隅で毛繕いしている黒猫を見つけた。

「ねぇ!かわいいよ!」

黒猫。

僕にはそれがただ不吉に思えてならなかった。

なんとなくの直感ってやつだが。










今日は野球だ。

といっても、18人もメンバーいないので、三角ベースのこじんまりとした野球だったが。

僕はポケーっとそれを眺めていた。

外野なんてほとんど球拾い。見てりゃいい。

あ、早紀がバッターだ。

「出ろよ〜!」

「かっ飛ばせぇ!」

声援に応え、ブルンと一回素振りしてみせる。

ピッチャー、第一投!

ガツン!真芯で捉えた!

僕はボールをぼんやり見送った。

初球からかっ飛んでいったボールはいつも遊んでいる広場を遠く超え、隣の敷地へと入っていった。

「あ〜あ・・・」

しかし早紀はすごい運動神経だな。

男子だってあんなホームランは・・・。

「ごめ〜ん!取ってくる!」

早紀は笑いながら走って隣の敷地へと入った。

隣の敷地は確か放置されっぱなしの工事現場だった。なにやら採算が合わなくなって中止になってそれっきりとか。

もしかしたら鉄鋼材かなんかが落ちてくるかもしれない。

大丈夫かな、とか思いつつ、

「おーい!チェンジだチェンジ!」

という声に、僕はすごすごと味方チームのもとに向かうのだった。









しばらく経った。早紀が戻って来ないことに気付いたのはそれから二回ほどゲームが進んだ頃だった。

だんだん早紀の遊び仲間たちも心配し出す。

「早紀、遅くね?」

「もうボールはいいから、戻ってくるように言ってこようか」

相手のピッチャーとボールの持ち主が話していた。

「じゃあ俺が行ってくるよ」

「あ、そう?じゃあよろしく」

軽く片手を挙げ、僕は隣の敷地を跨いだ。




「早紀?」

そこに早紀は見当たらなかった。

ガランとした敷地内に、僕の声だけが不気味に響き渡る。

「ニャア」

さっと振り向く。

「・・・黒猫」

いよいよ不安は増した。

・・・中か?

僕は放置されたままの建物を見上げた。

・・・ん?

足に何かが当たる。

ボールだった。

なんだよ、ボールちゃんとあるじゃん・・・。

その時だった。

「キャアアアアッ!」

悲鳴だった。

「早紀!」

早紀だった。

悲鳴は・・・中からだろうと見当をつけた。

とっさにその辺に転がってた鉄パイプをひっつかみ、その出来損なった建物へと踏み込んでいった。



もはや使われることのない金属製の見取り図が玄関にあった。

この建物は大熊ビルというらしい。三階建ての建物。一階か二階か三階か。

僕は辺りを見回した。

一階はほとんど完成していた。あとは塗装さえすれば普通の建物といったところ。

昼間だというのに薄暗い。窓に付いた大量の埃や砂のおかげで、光が遮られているらしかった。

いない・・・。

どこだ。早紀!

ふと目の前に毛布にくるまれた何かがあるのに気付いた。

なんだ?

僕はゆっくりそれに手を伸ばそうと・・・


ドンッ!


上かっ!

僕は一気に階段を駆け上がった。

二階もわりと完成している。どうやらちゃんと建物の形になっていないのは三階だけのようだった。

二階には一階ほど埃や砂がすごかったりはしなかったが、それにしても薄暗いには変わりない。

早紀はきっとこの階にいる!

僕は油断なく目を巡らせる。

「キャアッ!」

近かった。

僕は一番手前の仕切りの中へ飛び込んだ。

「早紀!」

早紀が、いた。

そしてその上にのし掛かっている太った男。

アイツだった。

奴は早紀の服に手をかけた。

「早紀に・・・早紀に触るんじゃねぇぇぇっ!」

僕は鉄パイプを床に置くと、持っていた野球ボールをヤツの頭めがけて投げつけた。

ガン!命中。

ヤツが一瞬動きを止める。その一瞬の間に僕はヤツの腹に拳を叩き込む・・・はずだった。

しかしその瞬間、ヤツの右手がギラリと光った。

銀色の何かが、迫ってきたのが見えた。

冷たい感触、そしてその一瞬後から激しい熱が右目を襲っていた。

「う・・・あああアァァァァっ!」

目が・・・!目が痛い!熱い!苦しい!

崩れ落ちてもがき苦しむ。右目を閉じ、左目だけでストーカーのツラを見た。

キラリと光るのは白銀のナイフ。

目を押さえる。

涙と一緒に、白いドロッとした何かも流れていた。

ナイフで目を潰された。

そう初めて気付いた。

何かわめいているが、激痛で耳鳴りがガンガンする耳には何を言っているのか認識出来なかった。

「ウ・・・ァァ・・・」

声は声にならず、ただうめきになるだけだった。

「・・・!」

早紀がこっちを見て何か叫んでいる。

なんだよ・・・。何言ってんのか分かんないよ・・・。

一歩。

一歩。

ヤツが早紀へと近付いていく。

だ・・・ダメだ!近寄るな!

僕は全身に力をこめ、ゆっくり立ち上がった。











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