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26話 過去の誓い その2

人物紹介No.13 柴咲(下の名は不明) 東海地域で最近力をつけている野沢組のNo.2。歳は30いくかいかないか。普段は割と温厚だが、怒ると怖い。とても怖い。武闘派なので理知的な相木とはあまり反りが合わない。組長がまったく働かないため、毎日あっちこっちに飛び回り、忙しい日々。敦司の父親と知り合いらしいが・・・。

私は思わず叫んでいた。

――何をやってるんだろう。

もう頼らないって決めたのに。

お兄ちゃん・・・あっちーはすぐ無茶をしてしまう。だからあの時決めたのだ。私は自分で自分の身を守る、と。

だから、諦めない。

あの時の悲劇を繰り返さないために――。












早紀がストーカー被害に逢っている。

その事を初めて知ったのは中学に上がって最初の夏だった。

僕は夏休みの一時期に、ボクシングジムの練習をしばらく休み、1人で早紀たちの家に遊びに来ていた。

当時青龍兄さんは高校2年生。

東京の一流高校に下宿して通っており、家にはいなかった。

あの人がいたらまだ話は変わって・・・なかったか。あの人に殴る蹴るのケンカを期待する方がバカってもんだからな。

朱音姉さんは中学3年生。まだ家にいた。

受験勉強に忙しいながらも、妹の早紀のことをいたく心配して、勉強も手がつかないようだった。

そりゃ当然だろう。たった1人の可愛い妹が、よりにもよってストーカーに逢うなんて。

当時から男勝りだった早紀は、小学6年にもなって、近所のガキ(といっても自分もガキだったかな)どもと一緒に近所の川原に繰りだし、野球だドッジだサッカーだと日々遊びまくっていた。

両親としては心配なのであまり出歩かせたくない。

しかし、そんな早紀を家から出さないというのも可哀想だ。

そこで僕の登場だった。

ボクシングが強かった僕は、当然の成り行きで早紀のボディーガードとなり、滞在中一緒にくっついて遊び、ついでにストーカー野郎が近寄ってこないか見張ることになった。

昨年、全日本小学生ボクシング大会で3位となっていた当時、僕は有頂天だった。

ボクサーでもない限り、自分に勝てる奴なんかいない、と。

ましてや、早紀みたいなガキを狙うような変態ストーカー野郎になんか負けるはずもない。

今思うと、そのおごりがあの事態を引き起こしたのだ。悔やんでも悔やみ切れない。




ストーカー被害は、つけられてる気がする、無言電話、といった程度であり、本人は気味は悪いがそこまで気にしておらず、毎日元気に遊びに行っていた。

「・・・にしてもさぁ」

いつものようにガキどもと遊んだ帰り、僕は早紀と話していた。

「お前をストーカーするなんて・・・どんな奴だよ、一体」

「うん・・・分かんないよ、そんなの」

「ロリコンか?」

「ろりこん・・・ってなに?」

「・・・い、いや、なんでもない」

いかんいかん、無垢な妹分に変な知識を吹き込むところだった・・・とかいっても自分も最近知った単語ではあったのだが。

「・・変なお兄ちゃん」

「う、うっせえな」

会話をしながら歩いていた僕らの足が止まった。

家の前に影があった。

家に来てから数日、姿を見せないストーカーにすっかり油断していた僕は、慌てて身構えた。

影がゆっくりと出てくる。大柄な影。

男はメガネをかけた巨漢だった。

鼻息荒く、えらく太っていて、突き刺すような体臭に僕は顔をしかめた。

「・・・誰だよ。こいつ誰だよぉ!誰だぁ!」

「・・・」

僕は無言で男を睨んだ。

中坊ごときの睨みで、男が怯むとは思えなかったが、なにもしないよりはマシだと思った。

しかし、反応は予想外のものだった。

「な、なんだよこのガキ!なに、に、にらんでんだよ!」

高い耳障りな声だった。

は、ハハ。こいつビビってやがる!

僕は男の予想外の情けない反応にすっかり自信をつけた。

「てめえ、早紀に手ぇ出してみろ!俺が許さねぇぞ!」

「さ、早紀。お前はこんな野蛮な奴と・・・。お前のフィアンセは僕のはずだろぉ!?」

フィアンセときた。

僕は吹き出した。

「な、何がおかしい!」

「バカなもーそーもいい加減にしろ!」

「お、お前・・・!」

「お兄ちゃんは野蛮なんかじゃないもん!バーカッ!」

怒る男に早紀のとどめの一撃が入った。

「・・・ッ!」

男はかなりショックを受けたようだった。しかし、やがて

「フフ、フフフフフフ」

男は不気味な笑い声を上げた。

「そうかい。そういうことかい。フフ、フフフフフフ」

男は笑いながらくるりと背中を向け帰っていった。

「ハッ!おととい来やがれ!」

僕は男の背中に中指を立てた。

今思う。

あの頃の僕は確かに野蛮だったな。







それから数日、尾行も電話もなくなり、ストーカー行為はすっかり鳴りを潜めていた。

「やっぱ俺の啖呵が効いたのかな!」

僕は得意気に胸を反らせていた。自意識過剰なただの馬鹿。

そんなある日だった。

帰り道、いつものように早紀と家の前の道路に差し掛かると、何やら血生臭い匂いがした。

道路が赤く染まっていた。中央にあるのは赤黒い物体。

「・・・ッ!」

早紀が声にならない悲鳴を上げる。

「・・・な、なんだ・・・?あれ」

僕は恐る恐る近づく。

原形をとどめておらず、それがカラスであったことに気付くまで少し時間がかかった。

羽はもがれ、目はくりぬかれている。

早紀は泣き出し、僕も吐き気を堪えるのに必死だった。

僕は、泣き声を聞き付けて慌てて家から出てきた伯母さんが、顔をしかめながら後始末をしているのを、ただぼんやり眺めていることしかできなかった。

酸っぱいものが、胃から込み上げ、僕は洗面所へ走った。








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