25話 ジョーカー争奪戦その6
携帯替わったので執筆ペースが落ちてます。変換しようと思ってもできなかったり・・・。慣れるにはまだ時間が かかりそうです(;^_^A
西岡は走っていた。
聡美にお土産であげようとご当地キティちゃんを漁っていたのが15分前。
すぐに敦司に電話を入れたあと自身も目的地に向かっていたのだ。
しっかし敦司のやつ、やたら喧嘩腰だったなぁ。
走りながら首をひねる。
問題のショッピングモールが見えてきた。
「・・・ん?」
正面の方に見るからに俺ヤンキーです的な金髪の男が走ってきた。
男はキョロキョロ辺りを見回したが、やがて裏路地へ入っていった。
怪しい。
西岡は男をつけて、路地へ入っていった。
路地裏に入った村上は1人佇むミドリの姿を見つけた。
1人。須川からよく逃げられたなと思いつつ、村上は声をかけた。
「ふぅ・・・大丈夫だったか?」
「あ・・・うん。でも、あなたは?」
「ハッ!楽勝楽勝!ノシて来たよ。・・・で、ディスクは?」
「俺が持ってるよ」
いきなり現れた男に村上は身構えた。
「あんたは?」
「俺?俺若葉。若葉慶太。よろしくね」
「お前・・・蓮武会か」
「まあね。・・・おっと、慌てんなよ」
若葉は村上のパンチをスイとかわし、楽しそうに笑った。
「人の話は最後まで聞くもんだ。いいか?俺はな、取引してんだ。このディスクを渡さないともう1人の女の子の命はねえんだ」
「・・・」
村上は辺りを見回した。
そういえばもう1人の女の子はどこにもいない。ただ単純に須川から逃げてきた訳ではなさそうだ。
村上は若葉を一瞥した。
「俺は野沢組だ。女の子なんざどうでもいい。ただお前からディスクを奪うだけだ」
「ハハハ」
「・・・何がおかしい」
「俺だって野沢組の組風くらい知ってるさ。お前、おれからディスク奪って、その結果女の子死んだらお前どうなる?なぁ。何より義理を重んじる野沢のルーキーさんよ」
村上は苦い顔になる。
――もっとも、野沢組のルーキーと言われたことに悪い気はしなかったが。
はぁ、と息をはく。
これで盃もお預けか。
「・・・分かったよ。ディスクはいい。あの女の子は俺が巻き込んだようなもんだからな・・・」
笑みを浮かべた若葉を村上はキッと睨む。
「ただし、ちゃんと彼女が帰ってくるか見届けさせてもらう。蓮武会は信用できねえからな」
若葉は苦笑した。
「構わないよ。ただ、隠れてることだ。君がいると話がややこしくなる。あと――」
若葉はチラリと村上の後ろを見た。
「その後ろのは、お仲間かい?」
「え」
「西岡くんっ!」
碧が声を上げた。
まさか気付かれてはいないだろうと思っていた西岡は焦ったが、結局素直に出ていくことにした。
「なるほど、彼女のお仲間ってワケね」
「あんた、今の話は本当だろうな」
「嘘はつかない」
若葉はニンマリして西岡たち3人に下がっているよう命じた。
エンジン音とともに車がやってくる。
しかし、その車から降りた人物を見て、若葉の笑みは凍りついた。
「な・・・貝塚さん?」
降りてきたのは誰あろう、若葉たちにディスクを探せと命じた張本人、関東蓮武会東海支部長の貝塚その人だった。
サッと後ろにはワン(王)が控える。
「おお、ディスクは見つかったようだな。ご苦労だった」
貝塚は若葉の手にあるディスクを見て言った。
「ち、違うんです、これは・・・」
「違う?何が違うんだ」
なんてことだ。なんで貝塚さんが直々に?
若葉にもはやいつもの余裕の笑みはなかった。
貝塚が自ら現場に来る。それからしてすでに計算が狂っている。
「これを見つけたのは・・・その、須川さん、で」
「意味がわからない。じゃあ須川はどこにいるんだ?」
「それは・・・」
ブロロロロッ
最悪のタイミングだった。車がもう1台走ってくる。若葉は思わず目を覆った。須川だった。
「や、やっぱりてめえ騙しやがったなっ!」
助手席から顔を出した須川がわめき散らした。
「ち、違う!これは・・・」
「うるせえっ!とうとう本性を現しやがったわけか、アァ?」
「誤解だ!これは――」
「何をわめいている。早く降りてこないか、須川」
貝塚が須川を睨み付けた。須川はすくむ。
チクショウ、全てはこいつのせいなのに・・・!
須川の中でプツリと何かが切れた。
「貝塚さん・・・こんな奴に騙されてはいけませんっ!」
須川が何かを取り出した。その瞬間。
乾いた破裂音の後、体を捻るように若葉が倒れた。
車はそのまま走り去る。
「なっ・・・」
一瞬の沈黙の後、動いたのはワンだった。
拳銃を懐から取り出し車のタイヤを撃ち抜こうとする。
しかし引き金を引く前に、車はものすごいスピードで交差点を曲がっていった。タイヤの擦れる音が響いた。
ワンは貝塚に深々と頭を下げた。
「・・・申し訳ありません。仕留められませんでした」
「フン、気にすることはない。奴は我々を裏切った。それだけだ」
貝塚はそう言い捨て、若葉の方を見た。
「大丈夫か。・・・ワン、車を手配しろ。病院へ向かえ。この車には俺が乗って奴を追いかける」
「グ・・・ッ」
咄嗟に体を捻って急所から弾を外した若葉だったが、肩からは血を流している。しかし、その顔にはいつもの笑みが浮かんでいた。
「貝塚さん、大丈夫ですよ俺は。・・・これは誤解なんです。考えてもみてください。あの須川さんが、どうして組を裏切るんですか?理由がないでしょう」
「・・・」
「ウッ・・・ク・・・。こ、これは、誤解から生じたものです。この一件、俺がまとめてみせます。・・・俺に任せて、くれませんか・・・」
若葉は痛みを堪えながらも貝塚を見据えた。
「・・・ダメだ」
「貝塚さんっ!」
「これは命令だ。お前は病院へ行け。ワン、若葉を連れていけ」
「了解しました」
「・・・はい」
命令と言われれば、若葉は何も言えなかった。
曲がり角からヘッドライトが見えた。
手配した車が到着する。
ワンは若葉の前に回り、ドアを開けた。
下を向いて、車に乗り込む。
車のステップに足をかけた時、貝塚は口を開いた。
「・・・須川は生かして連れて戻す。一緒の子供は逃がす。それでいいんだな?」
「は、はいっ」
若葉の顔がパッと明るくなった。
若葉が深々と頭を下げるのを後ろに、貝塚は考えていた。
面倒なことになった。
ディスクは手に入ったが・・・。
車に乗り込もうとするワンを呼び止める。
「なんでしょう」
貝塚はディスクを手渡した。
「渡しておく」
それだけで通じたのか、ワンは一礼し、車に乗り込んだ。
それを見届け、貝塚は携帯を開いた。
「俺だ。ディスクは手に入った。手筈通り、進めろ。いいな」