3話 借金ばかりでなく合コンも計画的に!
まだ話が全然進んでませんね。てかこの1章自体がプロローグみたいなもんですので。気長に見てもらえると嬉しいです
僕は激しく後悔しながら夜道を歩いていた。
ったく一体誰だよ!隣町の御嬢様女子高生なら気品溢れる清楚な娘だって言った奴!
・・・はい、誰も言ってませんね。勝手な僕の思い込みだったね。はいはい僕がバカだったよ。
ただし一言言わせてもらうと悪いのは全面的に西岡。あの馬鹿が
「お嬢様」というだけで顔写真も見ずに合コン取り決めやがったせいでこんな目に・・・。普通顔チェックくらいするだろうよ・・・。
「はぁ・・・」
それにしてもあれはない。お嬢様だってあまり好みじゃないけど、あれに比べたら土下座してでも来てもらう価値はあったと思う。
あれはない。あれはないよ西岡君よぉ。
おかめみたいな奴が複数名下手くそな歌歌って甲高い声で
「マジヤバ〜い!」とか騒ぎまくって。
マジヤバいのはてめーらだ!と言いたい。
しかし今思うと奴らが入ってきた後の西岡の顔。結構笑えた。
まああのときは僕の顔もかなり引きつった笑みを浮かべていただろうから西岡の顔を笑うどころじゃなかったけど。
そうして僕と西岡、西岡に引っ張ってこられた哀れなる男子2人の計4人はずっとジャパニーズスマイルを続け、2時間半堪え忍んだのだ。嫌ならさっさと帰ればいいのに、という人がいるだろう。勿論その通りだ。しかし帰らないのには理由があった。
あのおかめ集団に結構可愛い子が1人混じっていたのだ。話から察するにどうやらおかめどもに無理矢理連れて来られたそうで。嫌々西岡についてきた僕は妙に同士的感覚を覚え、よく話しかけたのだが、西岡はそれを僕がその子を狙ってると勘違いしたらしく、とはいえストライクゾーンにあるのはその子だけなので、
「俺あの子狙うぜ」と敵対心むき出しで僕に宣言したのである。
知らねーよ。勝手にしてくれ。
んでもって、愚かな西岡は張り切ってこの救いようのない合コンを盛り上げ始め、『さあお開きにしましょう』とはいえない空気を作り出してしまったのだ。
僕はというと、興味が全くないなんてワケではなかったが、僕はそれより家に帰りたかった。あの騒がしい甲高い声から逃げ出したかった。あったかい我が家が待っている。
・・・ということで、僕は頃合いを見計らいあんまり遅くなると親が心配云々、と言ってそそくさと逃げてきたのだ。
・・・親には前に休んだ分の補講を受けると言っておいたので、遅くなっても問題ないはずなんだけどね。
ま、今度西岡にはきっちり落とし前をつけてもらおうかな♪フフフ、フフフフフフ。
時刻は11時40分頃。
空を見上げると上弦の月と星、虫たちの声がより静かな夜を作り出していて、カラオケボックスの騒がしさが嘘のようだった。
そういやあの救いの星。唯一可愛いかった子、なんて名前だったっけ?
・・・大川内碧だったな確か。メルアドくらい確保しとくべきだったか。
駅についた。
早く家に帰りたい。
なんか急にホームシックになった気分だ。
「あれ?鳳くん・・・だよね?」
ため息をつきつつ1人佇んでいると声をかけられた。見ると女の子に可愛い!と言われそうな僕と同じくらいの年のが上目遣いで僕を見ていた。
「あ、確か・・・」
名前が浮かびそうだ。浮かびそうで浮かばない。あとすこし。もうここんとこまできてるのに・・・。
「永・・・山?」
「森」
「あちゃ」
僕はわざとらしく額を手で叩いた。
そんな僕を見ながら永森は楽しそうに笑う。
あー、確かこんな奴だったよ。
永森俊吾。
皆の馬鹿なやりとりをいつも近くで楽しそうに聞いてたおとなしい奴だった。
「久し振りだね」
「うん、2年まで一緒のクラスだったから半年振りくらいかな?」
「もうそんな経つんだね」永森は遠い目をして言った。昔を偲んでいるのだろうか。ジジイ臭いがこいつらしい。
「予備校?」
「ん、・・・ああ、そうだよ。そっちは?」
本当は深い事情でこんな遅くまで家に帰れなかったわけだが、そこは割愛させてもらおう。
「同じ。お互い大変だね」ああ大変だったさ!
あのおかめの!あと西岡のアホのせいで!
「・・・?どうしたの?」
「い・・・いやあ!なんでもないさ。あはは」
どうやら僕は根に持つタイプのようで。
それから僕たちは他愛もない話を少し続けた。
異変に気付いたのはそんな時。
「・・・あれ?」
僕は腕時計と電光掲示板の表示を見比べた。
12時7分にくるはずの電車が10分になっても来ていない。
おかしい。首都圏あたりの電車は時間厳守が鉄則。・・・まあどんな電車でも時間厳守は当たり前か。でも首都圏サラリーマンの方々は1分1秒の遅れが命取り。商談が成立するかしないかの瀬戸際なのだ。つまり、the 崖っぷちおとーさん!にはこういうことはあってはならないことなのだ!
説明しよう。the崖っぷちおとーさんとは、妻には浮気され、息子には蔑まれ、娘には無視され、会社では窓際族もしくはリストラ一歩手前の男性のことだ。
『○○君、君はもうわが社には必要無いのだ』
『待って下さい!課長!私にチャンスを!』
『・・・いいだろう。××商事との契約を取りまとめて来たまえ。失敗したら・・・分かってるね?』
『は、はい!』
しかし・・・。
『くそ!なんで電車が来ない!このままじゃ遅刻だ!俺の!俺の人生がぁぁぁっ!』
・・・まあそういうわけで首都圏の電車に遅れはあり得ないと僕は言いたいわけで。崖っぷちおとーさんとかどうでもいいわけで。
「変だね、5分遅れなんて」うん、と僕が頷いたとき、アナウンスが入った。
【12時7分発横浜行き、遅れておりましてお客様には大変ご迷惑をおかけしております。只今、当駅付近にて、人身事故が起こり、電車が停止する事態になっております。そのため、当路線は一時運行を見合わせまして、1時15分より運行を再開したいと思います。皆様には大変なご迷惑をおかけしまして―――】
「マジですか」
「鳳くん、アナウンスは嘘言わないよ」
「・・・っ!分かってるよ!」
「冗談だよぉ、あはは」
「・・・くっ」
こいつ実はやなやつ?
僕らのやりとりをよそに、ホームの人達は怒ったりため息ついたり様々だ。向こうでは酔っぱらったサラリーマン風の男が駅員に怒鳴っている。
この電車がないと家に帰れないという人もいるだろうから当然といえば当然か。かくいう僕もその一人だったりする。
はぁ・・・帰るのは何時だろう?
そんなこと思ってしまう自分に嫌悪感。すぐそこで人が一人死んだんだからそんなこと考えるのは不謹慎以外の何物でもない。
でも今日は特別。
いつもの3倍は疲れている。
かったるくて親に事情を話す気にもなれない。
・・・とはいっても連絡しないならしないであとが面倒かな。
僕は大きなため息をついて立ち上がった。
「どうしたの?」
「親に電話いれてくる」
ああ、と納得した顔の永森はフッと笑った。
「てっきり待ちぼうけしてる僕をおいて一人タクシーで帰っちゃうのかと思ったよ」
「あのね。僕がそんな贅沢行為できるわけないでしょ」
高校生の財政は厳しい。そりゃあもう地方交付金が欲しいくらい。今の僕の財布の中は500円玉が1枚。100円玉が4枚。10円や1円がジャラャラ。小銭入れに何もないより1円ばっかの方が悲しくなるのは何故だろう。
そんなことを考えながら親に携帯で電話をいれる。
簡単に事情を説明し、遅くなる旨を伝えて切った。
「人身事故」というワードで僕を心配し始めたけどひかれたのは僕じゃない。
杞憂というか、時間の無駄だ。
・・・あ?言い過ぎだって?これは失礼。ただ、僕は母の過保護さに恥をかいたことが少なくないもので。
例えば・・・忘れもしない小学校の林間学校。バッグを開けてみたら何故か昨日自分で荷造りしたときは無かったはずの
包帯
傷スプレー
消毒液
絆創膏
虫刺されの薬
虫よけスプレー
目薬
胃薬
風邪薬
頭痛薬
整腸剤
アリナミンA
リポビタンD
オロナミンC
・・・いや、最後のは要らないだろう。これただのジュースだよね?不要物だよね?
ということで、半ば薬箱と化した僕のバッグは皆の笑いの的となり、僕は先生に呼び出しを受けて、主に最後の物について、こっぴどく叱られたのだ。
僕は電話を終え、永森の元へ戻ると、大きくため息をついた。
「しっかしなぁ。明日職体なのになぁ」
「あはは、そうだね」
「どこ?」
「大友出版って出版社。そっちは?」
なんていったっけ?いかん、名前もろくに覚えてない。確か・・・。
「と、豊岡遺伝子研究所?」
「疑問形!?・・・ていうか鳳くんは文系だよね?何たって遺伝子?」
「皆から言われたよ」
僕は苦笑いした。永森も小さく笑う。
こいつとこんなに話したのも久し振りだな・・・ていうか同じクラスだった頃もこんなには話さなかったかもな。
そんなことを思ったら、ちょっと嬉しくなった。