24話 病院探索!27歳の少女と自称死神 その4
「まったく、馬鹿な人だね!」
「はあ、すみません」
僕は呆然としながら、なんか頭を下げてしまった。
僕がいるのは保管室の中。なぜ入れたのか。
そして僕を引っ張りこんだのは年端もいかない少女。まだ12歳くらいに見える。その少女が僕を叱ってるんだからおかしな構図だ。
「ねえ君・・・」
「だいたい、何が楽しくてこんなとこ来るかな。あなたもアレでしょ?心霊スポットって面白半分で来たんでしょ?」
無視かい。
「んな暇じゃねーよ、僕は。だいたい君こそこんなところに1人でいるんだ?危ないよ。・・・僕が悪いやつだったらどうするの」
最後は笑いを含めた声で言った。
「大丈夫だよ。わたし、幽霊だから」
「ふぇっ?」
変な声を上げてしまう。
今なんて?
からかってるのか?
「それより、気を付けないとだめだよ。みんながみんなわたしみたいな善良な幽霊じゃないんだから」
「はは、善良な幽霊ね。僕はどうも幽霊っていうと悪霊ってイメージがあるから」
てかまだ目の前の少女を幽霊と認めたわけではないし。
「まあ、普通はそうだよね。でも悪霊ってそんな多くないよ?生きてる人と同じ。悪いことする人が目立って見えるだけ」
「あー、なるほど」
確かに僕らも犯罪者ばっかって訳じゃない。一般人のが多いのは当たり前か。
「あ、でもさっきの足音聞いたでしょ?あれは悪いやつ。あれに捕まったら、お兄さん、アウトだよ」
「う」
やっぱり。なんとなくそんな気はした。寒気が半端無かったし。
「・・・なんにしても助けられたってわけだ。ありがとう」
僕は頭を下げる。
「アハハ、お兄さんいい人だね。子供にもちゃんと頭下げるんだ」
「うっせ。・・・あ。君、さ。ここの病院の患者だった?」
「うん」
「じゃあここのスタッフの連絡先とか分からないかな?」
「連絡先?」
「うん。僕はそのためにここに来た」
僕は彼女に事情を簡単に説明した。
「ふーん、なるほどね。まあさすがにカルテは処分しちゃったみたいだけど」
「あ、やっぱり」
保管室内を見回してみてもカルテらしき物は置いていない。
「まっかせなさい!この病院に住み着いて15年、このわたしがサポートしてあげる!」
「あ、ありがとう」
12歳くらいで死んで15年?・・・敬語を使うべきなのだろうか?
「まあまずは事務室かなぁ。スタッフのお給料計算したりしてたから住所録くらいあるかも・・・」
なるほどね。
「ありがとう。じゃ、僕行くね」
「待った待った!サポートするって言ったじゃない。お兄さんここ出てすぐさっきの悪霊に捕まったらどうするのさ」
「あー、いや、でも」
「案内してあげる。ついてきて」
なんか、悪いなぁ。
というわけで、僕は見た目12歳の女の子に仕切られる半ば情けない形で、病院内を歩き回ることになったのである。
驚いたこと。その1。
幽霊は彼女だけではなかった。部屋を移動する度、出るわ出るわ。
もう幽霊の大盤振る舞いといった感じだ。
彼女は会う度にスタッフの住所を知らないか聞き込み、捨てられてないカルテがないか尋ねる。
もっとも、有益な情報を持ってる者はいないようだったが。
驚いたことその2。
やはりここは管理が極めてずさんだ。
資料管理室に、ここ数年のものならカルテが処分されずに残っていた。
僕のものは無かったが、これって問題なのでは?
驚いたことその3。
あの悪霊の正体だ。
他の何人かの幽霊が言うには、あれはこの病院で自殺した前院長の霊だとか。
なんとか話を聞く術はないかと思ったがどうやら話が通じないらしい。一声かけたところで倒れてきた書架に押し潰されそうになった。
「はぁ・・・疲れた」
数時間歩き回り、しかもあの悪霊が来てないか神経を張り巡らしていたので、疲労がたまる。
今はこうしてスタッフエリアの机の中身を全部ひっくり返し、捜索中である。
「やっぱないんじゃないかなぁ、カルテも、住所録も」
ふと手を止めて女の子が言う。
「うぅ・・・じゃあ意地でもあの悪霊に話を」
「無理だよ。どうしたって話が通じないもん。それに、普通の人が不用意に近づいたら死んじゃうよ?しかも・・・」
「しかも?」
「死ぬばかりか、永遠にこの病院に縛られ続けることになる」
「え?」
女の子は女の子らしからぬ表情・・・そう、諦観の表情とでもいうのか、で笑った。
「普通、強い怨念とか心残りとかそういうのがないかぎり幽霊にはならないんだよ、死んでも」
「・・・でも、大抵の場合、心残りって多少なりともあるんじゃないの?大往生して死ぬおじいさんおばあさんはともかく」
「うん、でもよっぽど強い想いだよ。ほんとに強い想い。それにそれでもすぐに成仏してしまうんだって。1週間・・・長くても1ヶ月くらいで」
「なんか、いろいろあるんだな、幽霊にも」
とりあえずそう言ってみた。
オカルトには興味無かったし、成仏がどーのなんて突然言われて正直面食らってしまったが、女の子の顔は、それを茶化したり、からかったりしていい雰囲気ではなかった。
女の子はそれまでの悲しげな表情からちょっと笑った。
「あはは、うん、そうだよ。でね、こういう場合成仏できない幽霊には2パターンあるんだ」
「2パターン?」
「うん。悪霊か守護霊になって成仏しないのを除けば。1つは、霊力のある人間に使役される使役霊になる場合、もう1つは、強い磁場に縛られて動けなくなる場合」
「じゃあこの場所は」
「うん、強い磁場でね。ここからあたし達は動けないんだ」
「・・・でもさ」
1つ腑に落ちないことがある。
「ここから動けない君が、なんでそういったルール?みたいなものを知ってるの?」
「ああ、教えてもらったんだよ」
「誰に?」
「それは――あ、あの人!」
「え」
少女の指差すもの、それに僕は言葉を失った。