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23話 矢嶋編 救出戦

長い間投稿しないでえらいすみませんでした。いやちょっと軽い投稿拒否にかかって・・・って、つまらないッスね。すみません。夏休みから今にかけてなかなか忙しく、いや、今も忙しいんですが、「この小説は3ヶ月以上更新されていないため、更新されないおそれがあります」とか書かれるのイヤだったので投稿しときます(笑)小説自体は進み、今25話(あれ?26話?)書いてます。15000文字の大台も突破し、ボリューム大きいです。読むのタルい?すみません。てなわけで、次回から一個2500文字くらいで区切ろうと思います。人物紹介は今回お休みですm(__)m

「うおぉぉっ」

美咲が咆哮し、車は獣道を進み始めた。

――ホントに行っちゃったよ。

それを呆れて眺める影が1つ。由希である。

あんなことやってうっかり死んでみれば、幽霊である由希の存在は消えてしまう。それを恐れ、由希は早々に退避したわけだが。

しっかしなぁ・・・。

美咲のドライビングテクニックの恐ろしさを知っている由希だったが、その腕の良さもまた知っていた。

その裏付けとして、車はぐんぐん獣道を進む。

由希は少し感心してそれを眺めていた。

美咲のドライビングテクニックに感嘆したのは由希だけではないらしく、最初は難色を示していた小田口も、今や

「ゴーゴー!」

なんて美咲と一緒に叫んでいる。

おい。

それはさておき、由希はやることがなくなってしまったわけだ。

「そうだ」

ちょっと考えたあと、由希は煙のように消え去った。










「おい、起きろって」

うーん・・・誰だ?

美咲さん?由希?小田口さん?永森さん?

誰でもいいや。

「・・・あと5分」

「3回目のあと5分だ。いい加減にしろ」

「・・・む〜」

「そんなに起きないと、お前が小学4年生の頃、お前が夜中1人でトイレに行くとき、天井裏に忍び込んだ俺が飛び出したらチビっちゃったことみんなに言いふらすぞ」


ガバッ!


慌てて飛び起きる。

「その本人すら忘れた恥ずかしい過去をチマチマと覚えてるのは幸兄か」

「よお、もう夜だぜ」

「ああ?マジ・・・?あー、すっごい寝ちゃったなぁ」

僕はうーんと伸びをする。小田口さんたちはしっかりやっているだろうか。

「まあ俺としても疲労困憊の奴を起こすのは忍びなかったが・・・事態が事態だ」

「事態?」

僕は首を傾げた。

「ああ、咲元組の若頭筆頭、あのファイルにあった奴だ。名前は鹿波(かなみ)栄一郎。そいつが、重要参考人として任意同行を受けた」

「任意・・・同行?」

この場合の任意同行はよっぽどのことが無ければ逮捕と同義となる。

「・・・なんで?血液から何から、咲元組を示す証拠はあのファイル以外何も無いんだよ?」

「・・・上層部のオヤジ共の判断だ」

幸兄の顔が苦々しく歪んだ。

「やられたよ。部下が上と繋がってた。俺に報告もなしにさっさと任意同行。俺はとんだピエロさ」

幸兄は自嘲気味に笑う。

「そんな・・・」

だが考えられることではあった。

警察なんて所詮ただの企業。

僕の父親もよく口にしていた言葉だ。

支店長の命令よりは社長の命令に従う。それは当然のことではあった。

「上は、さっさと事件を終わらせたいんだろう」

幸兄は言う。

「最初の刺殺体発見から何日かで、女の失踪、坂井の殺害。もういい加減に解決しないとメンツに関わるってことなんだろうな。マスコミも騒ぎ出してる。警察は無能かっ!ってな。この上女が死体で発見されでもしたら・・・」

「志保里さんは小田口さんや美咲さんらが探してくれてる。念のため助言のメールもしたから問題ない。僕はあの人たちを信じる」

助言のメールなんて意味なかったかもしれない。美咲さんならそれくらい気が付くだろう。

幸兄は僕の言葉に笑みを見せた。

「そう・・・だな。信用してみるか」

「ま、美咲さんだからね。裏切られることも数知れず、だけど」

「おいおい」

「じょーだん」

僕は笑ったが、もしかしたらじょーだんにならないかもしれないのが悲しいところだ。

「そう、それで、だ」

「ん?」

そうだった。幸兄は僕に用事があったようだ。

まさか愚痴を言いに来ただけということはないだろう。・・・美咲さんじゃあるまいし。

「俺にも意地がある。上層部に抗議し、交換条件を認めさせてやった」

「交換条件?」

「拳銃携帯命令だ」

ああ。

そういえば捜査会議のとき言っていた。

「やろう、もし簡単に刑事に銃なんて持たせて、誤って市民に当てたらどうするんだ、なんて言ってきやがる。だからこのチャンスに認めさせたってわけだ」

「大丈夫?そんな楯突いて」

僕は心配になった。幸兄は腐った警察機関を変える希望の星だと僕が勝手に決めている。

「は、せいぜい食えないやろうだとでも思わせとくよ」

「ま、安心しな。幸兄が辞職に追い込まれても、美緒ちゃんの面倒は僕がみてやるから」

「・・・お前ってさ、ロリコンなわけ?」

「そんな低レベルと一緒にするな。かの光源氏が紫の上にやったのと同じように、幼少時から目をつけ、自分好みの女に育て上げ・・・」

「やっぱお前は死ね!おいこらお前俺を殴れ!正当防衛で撃ち殺してやる!」

おいおい、ホントにホルスターから銃抜いたよ。

「じょーだん。第一、んなことしたら正当防衛とはいえあんた辞職でしょ」

「うっせぇ!・・・まあいい。ほら、お前も銃持ってこい」

「なるほど、ウェスタンよろしく合図と共に早撃ち勝負か」

「するか」

僕のジョークを一蹴する幸兄。

煩わしげに廊下の方を指差す。

「刑事の捜査における拳銃携帯には、なんかいろいろ事前にすることがあるからな。めんどくさいが」

「げぇ」

「お前の仲間にも伝えとけ」

「はいよ」

僕は小田口さんの携帯をコールする。

出ない。

美咲さんも同様だった。

「出ない?」

「うん」

まあ捜査中だ。場合によっては気が付かないこともあるだろう。

そんな時、一瞬寒気がしたと思うと

「ういっす」

由希が現れた。

「なんだ、起きてたんだねゆーくん」

「私が起こした」

「井原さんが?・・・あの・・・」

「?」

「よくできましたね。ゆーくん、寝起き悪いのに」

そう。らしい。僕は全然覚えてないが。

「ガキの頃から知ってる腐れ縁には、わけないことさ」

何故か胸を張る幸兄。

それに尊敬の眼差しを向ける由希。

・・・なに?僕を起こすってそんな困難なの?

「あ、ところで由希」

「ん〜?」

「小田口さんたち今どこ?」

「今ごろ山を登頂したか冥界に行ったか、どっちかだね」

??

「わけわからんねやけど・・・」

僕は美咲さんがやっていることを聞いた。

にしても。

歩くのが嫌だから車で獣道を駆け上がったぁ?

美咲さんらしいといえばそうだが、あの車が壊れて黒田さんのお怒りを被るのは僕なんだぞ?

なーんかやる気失せた。

車を壊すのだけはやめてくれと電話するために携帯を開いた。

・・・あれ。

やっぱ出ない。

「どうしたの?」

「や、出ない」

「お、おいおい、本気で事故ったんじゃないだろうなぁ!?」

幸兄が慌てた声を出す。

「大丈夫だよ。美咲さんは殺しても死なない」

「あ、もしかして」

由希が声をあげる。

「忘れていったのカモ」

「・・・」

あり得る。

めっちゃくちゃあり得る。もうあり得すぎて、はい!それ正解!と言っちゃいたいくらい。

24班の刑事部屋を調べたら、なかった。

やっぱりさすがに美咲さんでも忘れたりは・・・。

根気強くかけてたら繋がった。

「はい」

男の声?

「あの・・・美咲さんは?」

「あ、これ毒蝮警部補の携帯なのでありますか。会議室に置きっぱなしになっていて・・・」

おい。

「ところで、あなたは・・・」

遠慮がちな声。

「僕は同僚の矢嶋祐一といいます」

「矢嶋警部補でありましたか!ご苦労様です!」

それで分かった。

この人、門に立ってた人だ。

「あ、矢嶋警部補!恐縮ですが、もし毒蝮警部補や小田口巡査部長に連絡がとれるなら、用心するように伝えてもらえますでしょうか」

「用心?それはどういう・・・」

「ハッ!我々、毒蝮警部補指揮のもと、捜査を行ってきたのですが(捜査は、大体僕が思案したのと同じものだった。美咲さんのことだから自力で気付いたのだろうが)、他の地点を調べるにおいて、女を・・・その、つ、連れ込むのにいい場所はないかと聞かれ、毒蝮警部補方が捜査に行かれた山荘を貸した、という人物がいたのです。まだ捜査は続いてますが、我々の間ではその山荘が本命だろう、と・・・」

「・・・分かりました。伝えておきます」

電話を切るとすぐに小田口さんに電話。

・・・出ない。

僕はとんでもなく嫌な予感に襲われた。

「幸兄、美咲さんたち、拳銃は・・・」

幸兄にも僕の言わんとしてることが分かったのだろう。

幸兄は少し青い顔で首を振った。

「いや、持ってない・・・」

「そんな・・・」

由希が真っ青な顔でつぶやく。

幸兄の言葉を聞くや否や、僕は飛び出していた。

「待て祐一!どこへ行く!」

「山荘だ!決まってるだろう!」

「待て!拳銃持っていけ!」

「そんな暇・・・」

「命令だッ!」

幸兄が怒鳴った。

「・・・」

「細かい手続きは抜きだ。特例として俺がやっておく」

「分かった」

と、1つ思い出した。

黒田さんの車は美咲さんたちが使ってる。

今の僕には足といえるものがなかった。

「幸兄。車と、ドライバー用意できるかな?」

「任せろ。うってつけの人材がいる」

僕はうなずいた。

「・・・どうした?早く行け」

「幸兄、ありがとう。いろいろ」

「・・・ま、まあ部下が死んだら上司の責任問題だからな・・・。おら、お前もそんな気持ち悪いこと言ってる暇あったらさっさと行ってきやがれ」

僕は軽く微笑むと駆け出した。










由希には、案内役としてついてきてもらうことにした。

僕と由希が玄関先で待っていると、一台のパトカーが止まった。

出てきたのは若い男。

僕と同じかそれ以下か。

いわゆるおまわりさんの制服を着ている。

「チッス。あなた矢嶋警部補?」

「そうだけど」

「そっちの可愛い子は?矢嶋さんの彼女?」

「な・・・い、いやいやいや!」

慌てて首を振る。

由希はそっぽを向いてる。そんなに。

そんなに嫌か?彼女と言われたのが。

ちょっと落ち込む。

「俺は神流優(かんなすぐる)。ヨロシクッス」

「――そいつがドライバーだ」

ちょうど幸兄が玄関から出てきていた。

「ホレ、お前の銃」

ホルスターごと投げて寄越す。

「こいつは元走り屋でな。160キロなんて余裕で出せるぞ――まあ車両にもよるが」

「このパトカーだって140は堅いッスよ。さ、乗って乗って!急いでるんでしょ?」

僕らは促されるままに車に乗り込んだ。

「頑張ってこいよ」

手を振る幸兄に僕は手を振り替えした。

神流は手早くミュージックプレーヤーを動かす。

パンクなロックが車内に響く。

「とぉばすぜぇぇっ!」

急発進。

ガジッ。

僕は舌を噛んだ。












「大の男がいつまでもウジウジと」

「らっへぇ。らっへぇ、痛いんらもん」

僕はほぼ泣いていた。

舌から血がにじむ。

グワァァァーッとものすごいエンジン音。

「ヒャッホォーッ!」

神流は歓声をあげている。時速メーターは140キロ。とんでもない速度違反だがサイレンがそれを無効とする。

うーん、恐るべしサイレンの威力。

ドリフトなんてものはもう慣れた。いちいち驚かない。

元走り屋というのは伊達ではないようだ。

「神流・・・君だっけ?君、何歳?」

「19ッス!今年で20!バリバリの巡査ッス!」

僕よりは年下のようだ。

「いつもは交番勤務なんッスけどね!大恩ある井原のオヤッサンの頼みとくればもう、飛んできたッスよ!」

「大恩?」

「ええ!まあまあ昔いろいろありまして・・・」

ちょっと照れたような表情を浮かべたが、その間にも凄まじいドリフトをしてるのだから、これはもうスゴい。

「昔・・・といっても2、3年前ッスけど、ある事件の容疑者にされまして、自分。それを助けてくれたのが井原のオヤッサンだったッス!」

「そうなんだ・・・」

井原のオヤッサンって、幸兄まだ34歳なんだけど・・・。

そんなことを思いながら僕はまた小田口さんの携帯にかけてみる。

「――おかけになった電話は電源が切られているか、電波の状態が悪いため、かかりません」

「ッ!?」

今まで呼び出し音はあった。

電源が切られたのではない。壊されたのではないか?不意にあの無惨な坂井の死体を思い出し、首を振った。

あんな事件、繰り返してはならない。

「神流くんっ!急いでっ!」

「い、急いで!って矢嶋サン?」

「いいから!人命がかかってるんだ!」

「・・・分かりました。舌が千切れても知りませんよっ!」

千切れるって。


グワァァァーッ!


エンジン音がさらにすごくなる。

速度計は振り切れようとしている。

とんでもない速度のなか、僕は歯を食いしばり、ジリジリと神流くんのハンドルさばきを睨んでいた。












「あそこっ」

由希が叫んだ。

神流くんは無言でハンドルを回し、山道を登っていった。

ガタンガタンとかなり車内が揺れる。

大丈夫かと少し不安になるが・・・。

「あ!」

前方に2つの光。車だ。

「危ない!」

こんな山道に2車線の幅はない。

神流くんはハンドルを切って崖から落っこちるギリギリまで車を横付けた。

・・・すげえ。

向かいの車には2人の男が乗っていた。そして、あの車はとんでもなくボロボロだが、アレは・・・。

「黒田さんの車?」

由希が呟いた。

どういうことだろう。

さっきの車に2人が乗っている様子はなかった。

となれば・・・。

「ますます嫌な予感がしてきた。急ごう!」

「了解ッス!」


キュルキュルキュルキュルッ!


タイヤのスピンの音とともに、車は勢いよく発進した。










「ここまでだな」

神流くんはブレーキを踏んだ。

「この獣道は歩いていった方が速いッスね」

「そうか。ありがとうっ!」

言うが早いか僕は飛び出した。

「あっ!ちょっと!」

道ともいえない場所を走りに走る。

後ろにはピッタリ由希が引っ付いている。

なんてったって背後霊だし。

もうちょっと後ろでは、必死に神流くんが追いかけてるようだ。

――灯りだ。

ログハウスみたいな山荘が見えてきた。

「・・・!」

怒鳴り声のようなものが聞こえた。

僕は山登りでガタがきそうな両足を叱咤し、中へ飛び込んだ。

辺りを見回す。

何人もの男がノックアウトされている。

小田口さんと美咲さんの仕業か。

じゃあさっきの怒鳴り声は・・・?

小田口さんの美咲さんへのツッコミとか?

・・・まさかね。

あり得そうで怖い。


ガタンッ!


揉み合う音。

どこから?

「ゆーくん、あれっ!」

由希が指差す方をよく見たら奥に部屋がある。

「オダッチ!」

美咲さんの声。

僕はホルスターから銃を抜きながら、開けっ放しになっていた奥の部屋に飛び込む。

小田口さんに馬乗りになり銃口を向ける男がいた。

撃たれる!

僕は瞬間的に引き金を引いていた。












見下ろす男の顔がニヤリと歪んだ。

銃口がゆっくりと持ち上がる。

――やられる!

俺は迎えるであろう衝撃を覚悟し、目を瞑った。

「・・・」

永遠ともいえる時間。

銃声が響いた。

俺の体を熱と痛みがかけめぐ・・・らない?

なんで?

恐る恐る目を開けるとそこには拳銃を取り落とし、手から血を滴らせている男。そしてその後ろに・・・

最近見慣れた顔が2つあった。

「・・・矢嶋、さん」

矢嶋さんは激しく息を切らせている。

「ハァ、ハァ、小田口、さん。確保!」

俺はニヤリと笑った。

「了解!」

うめく男の腹にパンチを打ち込み、黙らせた。

「・・・どうしましょうか、コレ。・・・いや、それよりまず救急車を!」

俺は美咲さんと志保里さんの方を指した。

「・・・ひどいことするな・・・」

矢嶋さんがうめいた。

美咲さんはすでに気を失っている。

「・・・応急措置だ」

手近のカーテンを切り裂いた矢嶋さんは手早く止血を始めた。

「弾は貫通してる。よかった」

「・・・大丈夫、なんですか?その人」

志保里さんが尋ねた。

矢嶋さんは苦笑する。

「ええ。・・・ていうより、自分の心配をしましょう。水谷志保里さん」

「あ・・・」

なぜそれを?というように志保里さんは首を傾げた。

「まあ今はそれより救急車・・・あり?」

矢嶋さんがポケットをごそごそ。

「携帯無い」

「ゆーくん、携帯なら神流くんの車に置いてってたよ?」

由希さんが呆れたように言った。

「マジデ?」

「マジデ」

「美咲さんのこと笑えねえなぁ・・・」

嘆く矢嶋さんだった。












「ぜぇ、ぜぇ・・・矢嶋さんたち速すぎッスよ」

駆け込んできたのは神流くんである。

「よ、遅かったな」

「さ、さーせんっした。でもひどいッスよ先輩。俺がサイドブレーキ引いたりなんやかんやしてるうちにもう星の彼方なんスもん」

先輩とか呼んでるし。

「とりあえず救急車呼んで。僕、携帯置いてきた」

「俺のも、ホラ」

小田口さんは穴の空いた携帯を見せる。

うなずいた神流くんは、自分の携帯で119番通報した。

「10分ほどで来るそうッス」

「早いな」

「近いらしいッス。消防署」

そうこう言ってるそばからサイレンが聞こえてきた。ホントに早い。


ガタン!


志保里さんが崩れ落ちていた。

「大丈夫ですか!?」

「す・・・すみません。なんか安心してしまって・・・」

今にこの女性も署に呼ばれ質問三昧だろう。

僕はこの小さくなっている女性を気の毒に思った。

「救急隊!到着しましたッ!」

若い救急隊員5名が飛び込んできた。

「ご苦労様です。この野郎共はウチで引き取るので女性の方をお願いします」

「分かりました!」

救急隊員はテキパキと美咲さんと志保里さんを担架にのせて、山を降りていった。









サイレンの音が聞こえなくなり、僕らはへたりこんでいた。

「終わったぁ・・・」

由希がぐったりとトランプが飛び散っているテーブルに突っ伏した。

「何事も無くて良かったよ」

ホントそう思う。

もちろん、犯人たる男たちはまだそこらに転がってるわけで、安心はできないのだが。

「あの・・・ところで、彼は?」

小田口さんが尋ねた。

「ああ、彼は神流優くん。井原さんが紹介してくれた名ドライバーです」

「申し遅れました!派出所勤務!ペーペーの1年目ッス!よろしくお願いします!」

「同じ1年目ながら恐ろしいほど態度のでかい奴もいるけどな」

「誰ッスか?」

「誰です?」

2人の声が重なる。

「美咲さん」

「そうなんッスか?自分、タイプなのに」

「「やめといた方がいい」」

2人の声が重なった。

最初は好意すら覚えてたはずの小田口さんにこうも心変わりさせるとは。

美咲さん、何をしたんだろ。

「あ」

いきなり小田口さんが声をあげる。

「派出所勤務なら手錠持ってるでしょ。とりあえずこの一番危ない薬中野郎抑えといた方がいいよ。そッスよね?矢嶋さん」

小田口さんが僕に同意を求めた。

「そうですね。薬中は手錠するとして・・・あとは・・・なんか適当に」

「今どき珍しい!洗濯用ロープがあったッスよ!」

神流くんが太いロープをブンブン振り回す。

渡りに船。僕らは全員をロープで締め上げた。

これでとりあえず安心できる。

そんなとき、またサイレンの音が聞こえてきた。

さっきとは違うサイレン。ある意味聞き慣れた、パトカーのサイレンである。

「来たッスね」

「幸兄の回し者だな」

僕は呟いた。

このタイミングで警察を動かせるのは幸兄しかいない。

ドカドカと刑事が踏み込み、男が全員連行され、形ばかりの事情聴取を受けたあと、ようやく僕らは解放された。

神流くんは解放されてすぐ、

「やべぇ合コンに遅れる!」

と乗ってきたパトカーを140キロで飛ばし、そこにいた捜査官にこってりしぼられていた。

「・・・これからどうしましょうか」

小田口さんが尋ねてくる。由希の姿は見えない。

由希は美咲さんと志保里さんの担ぎ込まれた病院へ向かった。

ガソリン代も電車賃もいらない。幽霊はこんなとき便利だ。

とりあえず一件落着したが、これからどうするのか。確かに志保里さんの救出は成功したし、犯人グループも捕らえた。

犯人は今取り調べを受けているし、志保里さんは回復を待たないと話を聞くことはできないだろう。

とりあえず僕たちには急だってやることは特に何も無かった。

僕は伸びをしながら言った。

「僕は、ちょっと報告してきます」

「報告?井原警視正にですか?」

「・・・いや、ちょっと、坂井に」

「あ・・・」

小田口さんは口を閉じた。坂井は誰よりも志保里さんの無事を祈っていた。知らせてやらないのは酷というものだろう。

「行ってらっしゃい」

僕は背中でそれを聞き、片手を挙げて応じた。

ヤバい。僕カッコいい。

ハードボイルドきたんじゃないか?コレ。

と、立ち止まる。

神流くんは帰った。

黒田さんの車は犯人の一部が乗り逃げした。

足がない。

僕はその辺を歩いていたお巡りさんを捕まえる。

「ごめん、ちょっと乗せてってくんないかな?」










・・・はあ。

カッコいいことしたのに最終的には無様にヒッチハイクと相成った。

・・・車、買おうかなぁ・・・。いや、運転下手なのは重々承知しているけど。捜査じゃ重宝するんだよなぁ・・・。いや、僕が車を乗り回したら即刻ゴーアヘブンとなるのは目に見えてるんだけど。

警視庁まで乗せていってもらった僕は数回首をひねった。

坂井の通夜は確か今夜だったはずだ。

・・・あ、喪服。

僕は頭を抱えた。

この前喪服虫食いされてて捨てちゃったんだよなぁ・・・。

かといって今から買いに行けるような財政的余裕はない。

僕は非番である永森さんに電話をした。

「あ、永森さん?ちょっとお願いがあるんだけど・・・」

情けないハードボイルドである。










苦心のすえ、永森さんに喪服を借りた僕は、坂井の通夜会場に来ていた。

弔問客は驚くほど少ない。まあ調べによると、坂井はギャンブル漬けの毎日で、交友関係もあまりなかったようだ。

坂井は探偵と飲み仲間であり、交友関係といったらそれくらいか、あと柄の悪そうなギャンブル仲間が少々。

家族は、もう勘当したも同然らしく、一応通夜を開いたというだけのようだ。

・・・孤独なやつ。

僕はなんだか坂井という男が哀れになった。

探偵は死に、志保里さんは入院中。そうなると、この中に1人でも、奴の死を悲しんでいる者がいるだろうか?

僕は、坂井が収められている棺に近づいた。

死に顔は見られないようになっている。

それだけむごたらしいのだ。

僕は手を合わせると報告をし、踵を返した。

「あの・・・」

中年の女性が声をかけてきた。

「あなたは・・・?あの、息子とどういう関係ですか?あちらの方とは雰囲気が違うようなので・・・」

そう言って彼女はギャンブル仲間の方を指した。

まあ雰囲気は違うだろう。あちらは喪服も着ず、酔っているのか通夜だというのに騒いでいる。

周りの人は、迷惑がってはいるが怖くて何もいえないのか、チラチラと様子を伺うだけだ。

いい年した大人が・・・。僕は腹が立った。

そちらへ向かう。

「ちょっとすみません」

「あぁ!?」

酒臭い息がかかる。

「通夜ってのはしめやかにやる物なんですよ。うるさくするなら出てってもらえます?」

「っざけんなコラ!」

「何様だガキ!」

ガキって。

僕もう今年で21になるんだけど・・・。

僕はスッと警察手帳を取り出す。

警察手帳といってももう手帳ではなくなってしまった。刑事は別に手帳を持ち歩かないといけないので、現場の刑事には不評な革新である。

「警視庁捜査一課、矢嶋祐一警部補です。・・・なんだったら署までご案内しましょうか?」

「け、警察!?」

全員後ずさりする。

「別に、あなた方をしょっぴこうなんていうわけじゃないんです。ただ、お静かにお願いします」

「・・・」

ギャンブル仲間共は黙りこくった。

恐るべし警察手帳の威力。というかこいつら一体何をやらかしているんだ?

「あの・・・」

見ると、さっきの坂井の母親だ。

「警察の方だったのですか・・・」

「あ、はい。・・・息子さんにちょっと報告することがありまして」

「報告?」

「息子さんは、死ぬ間際、誘拐されてたある女性を助けるように僕に頼んでまして、今日、その女性が無事に保護されたので、その報告です」

「・・・そうだったんですか」

「女性を救出できたのも、犯人確保に近づいたのも、すべて息子さんが残してくれた手がかりのおかげです」

僕は深々と頭を下げた。

「いえ・・・でも、奔放でどうしようもない息子でしたが、最後に人様の役に立つことができたのですね・・・」

見ると、母親の目には光るものがあった。

『この中に1人でも、奴の死を悲しんでいる者がいるだろうか?』

僕は、さっきの自分の言葉が間違いであることを悟った。

坂井、お前のことを思ってくれてる人はちゃんといるよ。


ブブブブブ


神流くんの車から取り出しておいた携帯が震えた。

「はい」

「大変だよぉ!」

由希?

「志保里さんが・・・いなくなっちゃった!」

「な、何ィ!?」

僕は思わず大声を上げてしまった。

周りの人が驚いて僕を見る。

僕は慌てて声を潜めた。

「・・・どういうことだ?」

「とりあえず手当てが終わったところに刑事が何人か現れて、坂井さんが死んだって聞かされたら飛び出していっちゃって・・・」

「バッカ野郎がッ!」

精神的にもぼろぼろな彼女に、いきなりそんな話をする馬鹿がどこにいる。

きっと功を焦った馬鹿が何も考えず言ったに違いない。

「・・・とにかく、志保里さんを探してくれ。もしかしたらまだ病院内にいるかもしれない」

「分かった!」

電話を切る。

クソッ!

その刑事、年に一回の剣道の全署員合同稽古で叩きのめしてやる!

僕は心に決めた。










ジャブジャブジャブ・・・。

僕は顔を洗っていた。

あんなに寝たはずなのに、すでに睡魔が襲ってきていたのだ。

とはいえ、まさか通夜の席でぐぅすか寝るわけにもいかない。僕はそんな大物じゃない。

というわけで、お手洗いを借りて冷たい水で気合いを入れたのだ。

志保里さんが見つかったという話はまだ聞かない。

そろそろ僕も探しに行くべきだろうか。僕がいなくなるとあのギャンブル連中がまた騒ぎだしそうだが、やむを得ない。

僕は母親に挨拶しようと会場(といっても部屋の一室に過ぎないが)に戻った。




会場に戻ると何やらざわついて様子がおかしい。

ギャンブル連中が騒いだのかと思ったがそうではなかった。

ざわめきの中心には、場違いな白い清潔そうな服、病院着を着た女性が1人、いた。

棺の前で慟哭している。

僕はその女性に声をかけた。

「――志保里さん」

「あ――」

ジッと見つめる黒い目。

その目からみるみる涙が溢れ出した。

「なんで!」

「えっ」

「なんで坂井さんは殺されなくちゃならなかったんですか!」

「・・・」

「教えて!教えて下さい刑事さん!」

「・・・」

「酷すぎですよ・・・こんなの。なんで先生も・・・坂井さんも・・・」

泣き崩れる志保里さん。

僕は声をかけることができなかった。

ただ立ち尽くす。

静かな会場に泣き声だけがただ響き渡った。












〜裏コーナー〜

西岡:シリアスな空気をもぶち壊す!裏コーナーの時間がやって参りました!

敦司:毎度お馴染み、司会は空気読めない男A改め鳳敦司、空気読めない男B改め西岡研でお送りいたします

西岡:にしても最近文の量が多くなってきたねぇ

敦司:調べによると、一番短い話(2話)と、一番長い話(前回)とを比べると、なんと7倍だって結果が出てる

西岡:7倍!それはそれは・・・

敦司:・・・まあそれはそうと、今日のゲストいってみよう

西岡:おおっ!可愛い子かっ!?

敦司:もういい加減諦めれば?この話には基本、『可愛い』だけの子はいないんだって

西岡:諦めるか!まだミドリちゃんがいる!

敦司:お前知らないのか・・・大川内さんは、女が好きなんだ

西岡:ぬわぁーにぃ!?まさか!そんな馬鹿なわぁぁぁあん!

敦司:や、嘘だけど

西岡:わぁぁぁあん!うわぁぁぁあん!

敦司:聞いてないな。じゃ、ゲストはこの方










黒田:・・・

敦司:捜査一課24班、黒田警部です

黒田:あぁ・・・私の車ぁ・・・

敦司:もういいですよ、車のことは。本編でたっぷり悲しんで下さい

黒田:・・・

西岡:お前もけっこうキツい奴だね

敦司:スムーズな進行は司会の技量を反映する。・・・さて、黒田さん、ここに藁人形と五寸釘が1つずつあります。誰を呪いますか?

西岡:おい

黒田:・・・1つじゃ足りない!矢嶋!毒蝮!あと私の車をパクった馬鹿2人!ついでにハゲの捜査一課長!しめて5つ持ってこんかいぃ!

西岡:あー、今のでみんなのまとめやく、冷静沈着黒田警部像が壊れたな

敦司:人はみな仮面を心に持っている。彼の場合、それが少しずれてしまっただけだ

西岡:・・・何いきなり哲学的なこと言ってんの

敦司:や、なんとなく

西岡:・・・

敦司:で、黒田さん。そのついでの禿野捜査一課長には何をされたんですか?

黒田:いや、禿野じゃなくて、頭が禿げている捜査一課長

敦司:つまり禿野捜査一課長でしょ?

黒田:いやいや!名前じゃなくて、禿げているんだって!

敦司:だから禿野なんでしょ?

黒田:なんで名前になる!?ハゲの捜査一課長なの!

敦司:だからさっきからそう言ってるじゃないですか・・・

黒田:だから・・・









30分後

黒田:いいか?ハゲというのはあくまで特徴であり、名前とは何の関係もないんだ

敦司:だってあなたさっき禿野って言ったじゃないですか

黒田:だからそれがそもそもの間違いで

敦司:意味が分からない。西岡、お前分かるか?

西岡:・・・俺はお前らが延々30分ハゲやなんやで議論してることの意味が分からない

敦司:だから禿野なんでしょ?

黒田:違う!










さらに30分後

西岡:馬鹿馬鹿し。今日は映画で『のののけ姫』やるんだったな。かーえろ

黒田:禿げているだけなの。頼むから分かってくれ・・・

敦司:禿野なんでしょって!

黒田:違うっつってんだろ!じゃあ何か?お前の頭の中じゃ道行く頭皮過疎化のオジサンたちはみんな禿野って名前なのか!?

敦司:あ、じゃあ黒田さんも禿野入ってますね

黒田:だぁまらっしゃいっ!









敦司:だから禿野

黒田:ハゲの!

敦司:禿野

黒田:ハゲの!

敦司:禿野

黒田:ハァゲェのぉ!

敦司:ハーゲンダッツ?

黒田:ちゃうわい!










・・・!

・・・!

・・・!

・・・!






敦司:・・・なるほど、ハゲのだったのか

黒田:禿野だって言ってンだろがぁぁっ


・・・キリがないので。

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