19話 メリーさん
人物紹介 No.005 小田口猛 東玉川署の若き巡査部長。26歳。高卒、交番勤務からスタート。それなりに優秀で、成り上がりでここまで来たが、主に戸塚署長にハゲだのクリリンだの暴言を吐きまくったことがたたったのか、出世から遠ざかりつつある。当初は問題児キャラだったが矢嶋や由希のボケに圧され、半ば強制的にツッコミへの道を歩まざるを得なくなった可哀想なやつ。ヘビーではない程度のスモーカーで、タバコを吸うと彼の頭の回転は早くなるらしい。好きなものは肉。嫌いなものはナスとピーマン。・・・好き嫌いはちょっと子供っぽい。
さて、久し振りの主人公、鳳敦司です。
皆さん今までの展開をお忘れの方もいらっしゃるかと思いますので、ここでざっとあらすじを。
僕は受験競争真っ盛りの高校3年生。
日々勉学に励んでいた(ホントか?とかいうツッコミは無しの方向で)。
学校の行事、職業体験の前日、西岡にバカみたいな合コンに連れて行かれたり、変な女刑事、美咲さんに絡まれてほとんど眠れなかったり、そのせいで寝坊した挙げ句到着直後にぶっ倒れ、尾崎豊フリークの元ヤンおばさんに看病してもらったりと色々あったが、最終的に、僕は体験の一環、DNA検査体験で、母親と血が繋がって無いことが分かったわけだ。・・・って、こうあっさり言えるようになるまでに随分かかったが。
そしてその2日後。
本来なら予備校でひたすら勉強しているであろう日曜日の午前中。
僕は1人電車に揺られていた。
遺伝研から帰った後の僕は明らかに不自然だっただろう。
学校では授業もまったくといっていいほど頭に入らなかったし、家に帰ってからも、いきなり飛び込んできた事実を頭で処理することができずずっと上の空だった。
しかし、佐々井さんが詳しい検査結果を調べてくれるまで何もせずにボーッと待っているのも気が引ける。何かアクションを起こさなくてはならない。
そこで僕は閃いた。
ばあちゃん家行ってばあちゃんに僕の出生について聞いてみよう。でもって保管されてあるアルバムやら何やらも調べさせてもらおう。
さらに。
ばあちゃん家行けば小遣いがもらえる!
紙のお金が財布から無くなって久しい僕には、この小遣いは魅力的過ぎる。
・・・おっと、不謹慎なことを考えていた。
下心が入ると大抵物事は失敗するというものだ。
そもそも、名古屋まで行って帰ってくる金も馬鹿にならないのだ。小遣いもらっても利益はいつもほど多い訳じゃない。
僕はそのために、今回半年振りに通帳を引き出しから取り出す羽目になったのだし。
というか、今回は遊びに行く訳じゃない。もっと重い理由で行くのだし。・・・でも、こういう馬鹿なことを考えてないとやっていけなかったりする。
思い立ったら吉日ということで本当は土曜日に行きたかったのだが、予備校をサボって行かなくてはならないことを考えると、親がいない時に行かなくてはならない。
日曜は父は休日出勤、母は母親仲間と遠出のショッピングだそうで、絶好のチャンスが早くも到来。
そうして日曜、僕の隠密行動は始まった。
新幹線で行くようなリッチな真似はもちろんできない。なので東海道線のんびり1人旅である。
席も確保できたので、順風満帆な船出だ。
まだ発車したばかりだが、ガタンガタンという単調なリズムが僕を眠りに誘う。うーん、良い景色。
建物がほとんどない田園地帯を列車が走る。
きっかけはどうあれ、こういうのもたまにはいいな。僕はゆっくりと目を閉じた。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
眠りにつく寸前、電車に乗るのでマナーモードにしておいた僕の携帯が鳴った。なんだぁ?人が寝ようとしてるのに。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
ブブブブブブ
バイブが鳴り続けている。電話か?
ディスプレイを見ると、非通知。
出ようか出まいか迷う。最初は無視しようかとも思ったが、バイブは鳴り続ける。これじゃ寝ようにも眠れない。
仕方ないな。
僕はバッグから財布と携帯を出すとバッグを席におき、席を守っておくと席を立った。
連結部の辺りでこっそり電話に出る。
僕はマナー違反は好きではないのだが。
「はい」
「わたし、メリーさん」
セールスか詐欺か。なんて思ってたら聞こえて来たのは女の子の声。しかも・・・メリーさん?
「・・・は?」
思わず声が出る。
「わたし、メリーさん。今、1号車にいるの」
背筋に寒いものが走る。
「ち、ちょっと冗談はやめて」
「今からあなたに会いに行くわ」
プツリ。プー。プー。プー。
「ちょっ、おい待て!」
僕の声も空しく携帯からは電子音しか聞こえない。
なんだってんだ?
これは明らかに都市伝説の一種である『メリーさん』の展開だ。
いたずら?しかし誰の?
西岡の顔が一瞬浮かぶ。
やりそうなのはあいつだが、あれはどう考えても女の子の声だった。
第一、あいつは今ごろ予備校でひたすら眠い講義を聞いてるはずだ。
しかし、そこでふと思い至った。
あいつの特技を。
あいつは声変わりしなかったからか、高い声も低い声も自在に操れる。アニメの女の子の声を出せるなら、メリーさんの声も出せるのではないか?
しかし、あの電話の主は、『今1両目にいる』って言った。
つまり、犯人は僕が電車に乗ってるって知ってる人。僕は今回隠密行動でここまで来た。親はもちろん、友人にも誰ももらしていない。僕が電車に乗ってるなんて知ってる訳がないんだ。なら可能性は2つ。本物のメリーさんがいる。もしくは偶然乗り合わせた僕の知り合いによるイタズラ。
メリーさんがいるなんて認める訳にはいかない。
つまりこれは、タチの悪いイタズラだ。
ブブブブブブ
まただ!
僕は電話にすぐに出た。
「・・・はい」
「わたし、メリーさん。今、2号車にいるの」
「おいいい加減に」
プツリ。プー。プー。プー。
・・・イタズラはやめろと言うこともできずに切られた。
チッ。と舌打ちをすると電話をしまう。
ったく、暇な奴め。んなイタズラしてる暇があったら勉強でもしとけ!
いや、予備校サボった僕が言うセリフじゃないか。
イタズラだと分かった途端に僕は元気になる。
いや、やっぱ気味悪いですから。
小さい女の子の声っていうのが恐怖心をさらにそそる。
これがもし西岡のイタズラだったらはっ倒してやる。
ブブブブブブ
「・・・」
「もしもし。わたし、メリーさん。今、3号車にいるの」
「待て」
「もうすぐ会えるわね」
ハッと息を飲んだ。
プツリ。プー。プー。プー。
間違いない。犯人は近くにいる。なぜならもうすぐ会えると言ったから。
これは僕の居場所を特定してなきゃ言えないセリフだ。犯人は、近くにいる。
・・・まあこれをイタズラと仮定しての話だが。
僕はサッと辺りを見回した。
怪しい人間はいない。
まあ当然どこかに隠れてるだろうからな。
しかし誰なんだろう。こんなことする人は。
西岡じゃなかったら当然犯人は女となる。
女の子でこんなことしそうな友人は思い当たらないのだが。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
「・・・やめろ」
こうなったら乗った振りして恐がって、犯人を引っ張り出してやる。
「もしもし?今4号車よ?あと2つね」
フン、言ってろ。
「待て!お前何者なんだ!」
僕は必死な感じを演じ、電話の相手を問い詰めた。
「わたしはメリーさ―――」
「たろうちゃん!こんなところにいたのね!」
・・・!
電話越しからと直に耳からと同じ声が響いた。
どこだ・・・いた!
もう1つ向こう側の車両にいる派手な服装のオバサン。
あの近くに犯人が!
「電話中の人に話しかけるなんて!あなた、本当にごめんなさいね」
待ってろこんにゃろ。
僕は電話と一緒に電源を叩き切ると、向こう側の車両へ歩き始めた。
叩き切ったのは、もうくだらない電話がかかってこないようにするため。
さあて、待ってろよ、メリーさん。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
「・・・ッ!?」
電話が・・・鳴っている!?馬鹿な。電源切ったはず・・・。
待て。落ち着け。きっと切ったつもりでも切ってなかったんだ。
出ようか出まいか迷った挙げ句、僕は電話を耳に当てた。
「・・・はい」
「わたし、メリーよ。もうあなたのそばにいるわ」
「・・・」
僕はそろそろ本気でイラついてきた。
「・・・いい加減にしろよあんた」
僕は電話を切った。と同時に携帯の電源も落ちた。
やっぱり電源はちゃんと落としていた・・・?
「ちくしょう、どうなってんだ」
僕は毒づくと辺りを見回した。
近くにいるって・・・どこにもいないじゃないか。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
またか。
電源は切れてたのに勝手に震えだす携帯。
「ふざけやがって」
僕はひたすら無視することにした。
10回・・・。
20回・・・。
コールは10回続けば留守番電話サービスにつながるように設定してあるはずなのだが、そんなのお構い無しだ。
まだ鳴ってる。
僕は着信中のディスプレイを睨み付けた。
こうなれば根比べだ。
と、僕は見た。
着信中のディスプレイがいきなり通話開始に切り替わるのを。
「どうして出てくれないの?」
・・・ッ!
携帯から声が流れてくる。その声はまとわりつくように僕の鼓膜を刺激した。
「でもいいわ。こうして会えたんだもの」
やめろ・・・。
「ずっとあなたを見ているわ・・・」
「やめろ!」
電話を切る。
切れなかった。
何度ボタンを押しても通話は終了してくれない。
キャハハハと、甲高い笑い声が電話越しに響く。
そして。
プツリと音がしたかと思うと、プープーと無機質な電子音が聞こえてきた。
切られた。
僕はホッと息をつく。
しかしまたかかってくるだろう。
僕が何をしたっていうんだ・・・。
ブブブブブブ
ブブブブブブ
出なくても無駄だ。
僕は連結部の窓に向かってため息をつくと、携帯を開いた。
「もしもし、わたし、メリーさん。今あなたの後ろにいるのよ」
後ろに、いる?
この楽しげな声は確かにそう言った。
そして、確かに誰かの気配を後ろから感じた。
メリーさんとやらが今うしろにいるってのか?
ムカついた。
電話の声は、どこまでも、どこまでも楽しげだった。人を怯えさせておいて。
許せない。
敵わなくてもかまわない。通用なんかしないかもしれない。
ただ、一発ぶん殴んないと気が済まなかった。
僕は大きく息を吸った。
「死にさらせぇぇッ!」
振り返りざまにフックを叩き込む。
・・・ん?
手応え?
ふと見ると、よく見知った顔が白目を剥いて悶絶していた。
「西岡!?」
どういうことだ?メリーさんは本物ではなかったのか?
僕は頭が混乱するのを感じた。
〜裏コーナー〜
西岡 いやあ今回敦司くんは踏んだり蹴ったりですなぁ!
敦司 嬉しそうに言うな。嬉しそうに。
西岡 いやあ、前回は俺が落ち込んでたからねぇ。ハッハッハ
敦司 あ、前回といえば
西岡 ?
ドスッ
西岡 ぐばぁっ!?
敦司 てめえ前回はよくも逃げやがったな
西岡 あ、あぁ・・・あのことね
敦司 てめえ前回トイレ行ってなかなか帰ってこないと思ったらそこには誰もいなくてトイレの窓が開けっ放しだったっていう
西岡 いやあ、身の危険を感じたもんで
敦司 僕が何時まで愚痴聞いてたと思ってる
西岡 ・・・さぁ?
敦司 6時だ。朝の
西岡 うひゃあ
敦司 完徹だよ。もはや
西岡 ははは。・・・助かった(ボソッ)
敦司 まあ今回我々が得た教訓は
敦司・西岡 ゲストは選べ!
西岡 てなわけで今回のゲストいってみようか
敦司 今回のゲストは?
西岡 この方です!どーぞ!
佐々井 やあこんにちは
敦司 佐々井さんって使い捨てキャラなのか?
西岡 いや、一応今の段階では、けっこう本編に関わってくる・・・可能性が高い
敦司 なんだそりゃ
西岡 いや、作者のいい加減な現段階の構想では登場させるつもりだけど、もしかしたらあと1、2回出たら使い捨てキャラに成り下がる可能性もあるから一応ここで出しておこうっていう意図
敦司 なんでそんな説明的!?
西岡 んー、大人の事情ってことで
敦司 ・・・
佐々井 で、あの、俺は・・・
西岡 おぉそうだった。遺伝子研究所で初登場、現在敦司に協力してくれている佐々井さんです。
敦司 御世話様です
佐々井 いえいえ
敦司 ではさっそく質問コ〜ナ〜!
佐々井 へ
敦司 佐々井さん、ぶっちゃけいくら貰ってますか
佐々井 え?えーとぉ
西岡 いきなりそれか・・・
佐々井 まあ・・・『ピー』くらいかなぁ
敦司 ・・・
西岡 へー
敦司 なあ西岡
西岡 なんだよ敦司
敦司 僕、大きくなったら研究員になるわ
西岡 ・・・?へ?そう?どーぞご勝手に
敦司 なあ西岡!お前この金額を言われて何平然としてるんだ!
西岡 へ?別に普通じゃね?『ピー』万なんて俺の小遣いくらいだけど
敦司 ・・・
佐々井 ・・・
田中 ・・・
西岡 ・・・?
敦司 佐々井さんが真面目に働いてなくてもそんな金貰ってんのにはムカついた・・・だが貴様が!高校生風情が!小遣いと同じだとぉ!?
田中 高校生のガキが人の給料の何倍小遣い貰ってんだぁ!
佐々井 え?誰?この人。田中って誰?
西岡 え、あの、窓際族のサラリーマンです
田中 窓際族いうなぁ!
西岡 え?た、確かこの前は自分で認めて・・・
田中 知るかぁぁ!
美咲 待って待って。わたしも一発ぶん殴る
敦司 美咲さん!?
西岡 出たぁっ
敦司 美咲さん、2週続けては反則・・・
美咲 はぁ?じゃあんたらはどうなのよ
西岡 いや俺らは司会・・・
田中 ギャーッ!お許しくださいお許しください
美咲 ?誰コレ?
敦司 これゆうな。田中さん(仮名)。あなたに蹴り潰された人
美咲 あー・・・アハハ
佐々井 あのぉ、俺忘れられてない?今日のゲスト俺・・・
美咲 とにかぁく!高校生がわたしの○倍小遣いもらってるなんて、悪よ悪!公務員が地べた這いつくばっていくらもらってると思ってんじゃあ!公務員は給与もらいすぎって、そんなの官僚と高級管理職だけ。下っぱは安いんだコラアァァ!
西岡 あの、あなたの事情はいいから
美咲 さあみんな!目の前の巨悪に、今こそ立ち向かおうじゃないか!
敦司・田中・佐々井 おー!
西岡 え!佐々井さんまで。てか事の発端あんたじゃ・・・
佐々井 だってこうでもしないと話に混ぜてもらえそうにないんだもん
西岡 なっ!?
一同 死ねぇ、西岡ぁ!
西岡 え、ちょ、こんなのって・・・アリ?・・・ンッギャアアアアアッ!
〜了〜
前回の話、敦司視点です。敦司がいきなり西岡を殴ったのは、本物のメリーさんと勘違いしたせいでした。でもまあ西岡くんも楽しんだことだし(笑)仕方ないっちゃあ仕方ないですね。 次回は電車の中続き、おまけとしてメリーさん編の完結(?)編です。お楽しみに・・・してる人いるのかなぁ・・・。 この時点で4分の1くらいできあがってるんで次の更新まで2週間はかからない(はず)です。ではでは