14話 矢嶋編 井原本部長の初舞台
捜査会議入りました。しばらくは矢嶋編行きます 新しいプロジェクト試験的に実行します。あとがきへどうぞ。
「ひゃあ」
第一会議室に入った僕らは唖然とした。
桃井さんがさっき本庁の方がたくさんいらっしゃってとかなんとか言っていたのは聞いたが、ホントに『たくさん』いた。
本庁と所轄合わせて刑事は100名以上。庶務の人とかを合わせるともっとだ。
それらの人員を今回取り仕切るのがあの幸兄、いや、井原幸一郎警視正なのだ。なぜ、たかがといってはなんだが、1人殺されただけの刺殺事件にここまで大規模な捜査体制をとるのだろうか。
僕は首を捻りながらも、空いていた最後尾の方の席へついた。
「お、矢嶋ぁ」
本庁の奴らはみんな最前列にいて、顔見知りが1人僕を見つけ、こっちへ来いと手招きしたが、僕は苦笑を浮かべつつ首を横に振って動かなかった。
僕は今東玉川の助っ人だからね。
隣には小田口さん。さらに隣に桃井さん。
姿は見えないが、おそらく由希は後ろにいるのだろう。少し肌寒い。
「あー、皆ご苦労」
いつもとは違う威厳たっぷりの井原警視正の言葉で捜査会議が始まった。
「私が今回この事件の指揮を執ることになった井原幸一郎だ。至らないところもあると思う。そのときは上下の関係に躊躇せずに、指摘して欲しい」
井原警視正が頭を下げるとパラパラと拍手が起こった。
それに対しもう一度軽く頭を下げた井原警視正は、
「ではこれより、捜査会議を始める!」
と高らかと告げた。
「まずは確認のため事件の概要を」
「ハッ」
かなり前の方の刑事が2人立ち上がり、概要を話し始めた。
スクリーンが事件現場や被害者の顔のアップ写真を映し、それに合わせて2人の刑事が代わる代わる語る。ざっと話し終えたら席につく。
「次!捜査の進展は」
「はい」
ガタリと近くから音がしたと思いきや、桃井さんが立ち上がっていた。
「今日一日、我々東玉川署員は本庁の矢嶋警部補を始め、数名の本庁捜査員を迎え、聞き込み等の大規模な捜査を行いましたが、手掛かりとなることは聞けませんでした。しかしながら、事件が起こった時間が深夜だということを考えると聞き込みはむしろ昼間よりも深夜の方が効果的と考えられます。ですので、現在も少数ですが東玉川署員が現場付近の聞き込みを続けております。以上です」
鮮やかに一礼して桃井さんが席につく。
執事っぽい。やっぱり。
いっそのことスーツではなく執事服を着せたらどうだろうか。
井原警視正も一瞬桃井さんを興味深そうに見つめたが、すぐに本部長の顔に戻った。
「次!検死での新しい情報があるはずだ」
「ハッ、傷口の状態から犯人を右利きと断定しました。また、心臓が貫かれているため、凶器は刃渡りの長い刃物。被害者に刺さっていた大型ナイフで間違いないと思われます。さらに、心臓を守る骨やその他の臓器がほとんど傷ついていないことから、犯人は相当殺しに手馴れた人物と考えられます」
「そう、その話だがこちらから補足がある」
井原警視正は口を挟んだ。
「手口から考え、犯人は捜査一課で長年追っていた殺し屋の可能性がある。氏名・住所・国籍などあらゆる点で謎に包まれているが、存在だけは確認している。すでに10人以上殺している危険人物だ。これからの捜査は十分気をつけてくれ。では次・・・」
バンッ
「すみません!遅れました!でも重要な手がかりが入ったんです!」
そう言って飛び込んできたのは何回か顔を見たことがある一課の刑事。
「貴様!捜査会議中だぞ!」
怒鳴ったのは井原警視正の隣に座った偉そうな禿げ頭だ。どうやらその刑事の上司らしい。
「構わない。どうした?」
「ハッ、自分、一課に残り事務作業をしていたのですが、そこに電話がかかってきまして、自分は被害者を知っていると」
『なんだと!?』
不特定多数の人が同時にそう叫んだ。
隣の小田口さんもその1人だ。
まあ当然だろう。今までさっぱり身元が分からなかった被害者を知っているという人が現れたのだ。
「電話の相手によると、被害者は新宿で小さな事務所を開いている探偵だそうで、自分は被害者の飲み仲間だと言っていました」
「そいつと連絡はつくか?」
「いえ、それが、警察がどこまでちゃんと捜査をしてくれるか分からないから捜査の様子を見て追って連絡するとだけ言って、切られてしまいました。あ、でも切られる前に事務所の場所を教えられましたのでメモしました。読みます」
狭い室内に刑事が読み上げる事務所の住所をメモするペンの音だけが響いた。
その音が消えたのを見計らい、井原警視正が口を開いた。
「ここにきて重大な事実が発覚した。被害者は探偵。明日事務所を調べる班を今から構成しようと思う。今から名前を呼ばれたものは事務所班だ」
14人の名前が呼ばれ、その内、矢嶋・小田口両名の名前もあった。
「では次、これからの事についてだが。夜は自由だ。夜の聞き込みに出るもよし。寝て鋭気を養うもよし、だ。明日からは今日と同じ割り振りで、聞き込み班、現場班、資料調査班、待機班の4つに分かれてもらう。但し、先程事務所班と言われた14名はそちらへ行くものとする。以上、解散!」
ザッと一斉に立ち上がると一同礼。
こうして只の刺殺事件にしては仰々しい捜査会議は終わった。
「矢嶋警部補」
刑事たちがゾロゾロと席を立つ中、井原警視正が僕を呼んだ。
僕は明日の事について小田口さんとおまけ約1名と話し合うつもりだったので、小田口さんに待合室に行ってるよう言って井原警視正の方へ向かった。
「お呼びでしょうか、井原警視正」
「・・・堅苦しいのはやめるか。なんかお前にそう言われるとむず痒い」
少し笑みを見せて井原警視正の本部長としての顔が、いつもの幸兄の顔に戻る。それを見て僕もニヤリと笑った。
「了解、で、何?幸兄」
「どうだった?俺の本部長っぷり。俺これが本部長初めてなんだけど」
「え、そうだったの?」
「ああ」
意外。てっきり本部長なんてバリバリでやってるのかと思った。
初めての割には堂々としてたと言えなくもない。が。
「んー、20点」
「低っ」
幸兄は小さく萎んだ。
かわいそうなので
「50点満点で」
と付け加えてあげる。
「ああ、そうか。それは良かった。・・・って、いや、それでもなお低いと思うぞ俺は」
「うるさいなぁ、模試の全国平均くらいいってるだろ。幸兄の大学にもいけるレベルさ」
「いやいやいや!俺一応T大卒だからね!?」
ふ、さりげない自慢か?それは。
「冗談はさておき、あの大袈裟なまでの人数体制はその殺し屋とやらの影響なのか?」
「俺結構真面目に聞いたんだけどな・・・。ああ、あの体制は上からの指示だ。今回こそ捕まえるって奴さんら息巻いてるよ」
「手柄争い、ね」
「ったく、どっかの会社の営業の成績争いと変わらないな。でも、今回の件、危険なのに変わりはない。相手は相当腕の立つ殺し屋だ。命最優先だ。事件解決しようとして刑事が殺されちゃあ元も子もない。拳銃携帯命令をいつでも出せるよう上に申請している」
「上は通すかな?」
「通させるさ。百人以上の命を預かってるんだ」
フフ、頼もしいじゃないの。
「了解。だけど大丈夫だよ、相手はプロの殺し屋。どうせ見つかるようなヘマはしないだろうから」
僕は笑って言った。
「いや、まあそれはそうなんだろうけども、仮にも刑事がそう言っちゃうのはどうなんだ?それに、危険なのは殺し屋だけじゃない。殺し屋に仲間がいるかもしれないし、もしかしたら殺し屋がヤクザとかと繋がってるかも知れない」
「確かに。でも今時刑事がヤクザとドンパチやんないって」
「・・・昔はやってたのか?」
「テレビでやってたよ。『危ないデカ』だっけ」
「テレビの話かよ。もういい、お前人待たせてんだろ?」
「お、知ってたの?」
「あの人も災難だな、お前なんかとペアになって」
「なんかそれさっきも言われたけど何気にそれ酷いよね」
「酷いのはお前の性格だよ」
「・・・美緒ちゃん寝取ってやる」
プチ
「ぶっころおおおおぉすッ!」
あ、キレた。
「ブッコ・ロース?何の肉?それ。美味い?」
それでもなおおちょくる僕。
「ぶっ殺すっつってんだぁ!人の娘寝取るだと!?死んで謝っても地獄へ送って針山にしてやる!」
「あぁ、ハイハイ。ただの冗談・・・冗談だって。おいじょう・・・」
問答無用で拳が伸びてきた。
無論それをくらう僕ではない。日々美咲さんの鉄拳をくらってる僕には三十路を迎えたオッサンのパンチをかわす事くらい造作もないことだ。ヒラリとかわすとさっさととんずらこく。
これだから子煩悩は困る。軽ぅいブラックジョークも理解できないとは。
幸兄を振り切った僕は、これから僕らのチームがどう動いていくか検討するべく待合室へ向かった。
〜裏コーナー〜 敦司 えー、何故か司会進行役を任されました、鳳敦司です。本コーナーは、我々登場人物が、適当にダベるというものです。これを見なくても、本編には何ら支障は無い・・・はずです西岡 あーっ、固い固い!敦司クン、いつからそんな真面目キャラになった?・・・あ、皆さ〜ん、アシスタントの西岡研で〜す。 敦司 なんだ来たのか西岡。てかスペース無いって。もう締めないと 西岡 は?俺もう終わり? 敦司 終わり。 西岡 (;_;) 敦司 じゃ、また次回とゆーことで。