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13話 矢嶋編 『オカルトチック』なマジ話

小田口さんが突然叫び声をあげた理由、それは・・・

僕はしっかり分かっているが、おもしろいのでとぼけた。

「どうしたんです?ってか笑い声なんて聞こえました?」

「き、聞こえましたよ!しかも・・・う、後ろに!」

「後ろに?」

「う、後ろに!女の人が!」

「さぁ、もしかしたらさっき話した幽霊が来たんですかねぇ」

「え!?呪いは解かれたんでしょ?」

「いやぁ、最近忙しくて。お墓参りもご無沙汰なんですよね♪」

「ですよね♪じゃないッスよ!しまいにゃキレますよこの野郎が!」

アハハと僕は笑う。

「・・・で、笑い声が聞こえたんですか?」

「聞こえましたって!」

「いや、僕は聞こえませんでしたが」

実は聞こえてたりするが、ここは小田口さんを怖がらせるためにシラを切る。

「嘘でしょう!?聞こえましたよね?」

「・・・聞こえてるくせに」

後ろから声。最高のタイミングで。

・・・小田口さんにとっては最悪のタイミング、かな。

「え、また声!しかも後ろに女の人がいるんですよ!バックミラー越しにさっきからチラチラ見えてるんですよ!」

小田口さんはもう泣きそうだ。

「いえ、僕にはさっぱり」

「実は見えてるし聞こえてるでしょう?」

また声。

「さあ、見えないし聞こえません」

「いや少なくとも聞こえてるよね!?」

後ろからの的確なツッコミ。

「ちょ、ちょっと!何幽霊と仲良くボケとツッコミ交わしてるんですか!?」

そろそろいいか。

僕は後ろに現れた美人ともいえる顔立ちの『彼女』を紹介することにした。

「いやあ、小田口さん、紹介します。こちら、さっき話に出てきた女性。早瀬由希さん、享年18歳です」

「享年って・・・」

小田口さんはあんぐりと口を開けた。

「いつもいろんなとこほっつき歩いてはたまに僕のところに戻ってくるんですよ」

「ほっつき歩いてるって。そんな言い方はないでしょ」

由希が抗議する。

「ほっつき歩いてるじゃん」

「ほっつき歩いてない」

「ふうん、姿消して映画館だの漫画喫茶だのに入り込んで映画タダ見や漫画タダ読みしておいてそんなこと言うのか?・・・ああ、ほっつき歩いてたんじゃなくて遊び呆けてたっていいたいのか」

「うわっ、ホンット性根腐ってるっていうかなんというか。小田口さんでしたっけ?大変ですね、こんな奴とペアになっちゃって」

「え?ああいえその」

幽霊にいきなり振られて小田口さんは動揺しまくっている。

「由希、小田口さんはまだ目の前の現実を信じきれていないんだよ」

「あ、あなた、本当に幽霊なんですか?実は隠れて前から車乗ってた訳じゃなくて?それに、ほら、白いコート着てないし血塗れじゃないし」

「この季節にコートなんか着てたら姿現したとき思いっきり不審じゃないですか。血なんて論外ですし」

由希は淀みなく答える。

「普段姿現すんですか?」

「姿現さなかったら漫喫で漫画読むとき漫画が独りでに浮かび上がった!って大騒ぎだもんな?こいつが姿消すのは漫喫の出入りの時だけです」

僕は横槍を入れた。

「なるほど・・・」

小田口さんは少し納得したようだったが、

「いや、しかしいきなりあなたが幽霊だと言われても・・・」

と、信じるには至らなかったようだ。

「じゃあそれでいいです。あたしはどっちかっていうと生身の人間だって思われてた方がいいんで」

「うおい、それじゃあ僕がつまらな、ゴホン。小田口さんが気になって夜も眠れなくなるだろう」

「あ、今本音出た!・・・まあいいか。小田口さん、よぉくあたしを見ててください」


フッ


由希の姿は一瞬の内に狭い車内から消え失せた。

「う、うわぁ!本当に、本当に幽霊だったのか!」

小田口さんは喚いた。

しかし、すぐに立ち直る。

「でも、正直、格好が普通の女の子過ぎて幽霊に思えません」

「あっはっは。確かにそうですね。あんなの怖くないですよね。やっぱお岩さんくらいの迫力がないと」

「よっく言うよ!あたしと初めて会ったときはビビってたくせに!」

姿が現れる。

「自分が死んだのが納得できないからって自暴自棄になって人を脅かしまくってた奴がなんか言ってるよ。てか血塗れのコート着てこっちに向かってくる人がいたら誰だって怖いと思うだろ」

「確かに・・・。俺だったら逃げ出しますよ」

「小田口さんは怖がりだから参考になりません!」

「うぅっ。傷ついた」

小田口さんはおどけて胸を押さえてみせた。

ずいぶん余裕ができたもんだ。

微笑ましさ半分、つまらないじゃないかの不満半分で小田口さんを見た。






「もう署に着きますね」

「ええ、渋滞も抜け出しました」

今は車はスムーズに進んでいる

「ねぇ、今はどんな事件追ってるの?」

「警察には守秘義務があるのだよ、小娘」

「小娘って・・・。初めて会ったときは歳変わらなかったくせに!」

由希はまた怒り出す。

「本音を言うと、めんどくさくて説明したくないだけだ。お前、どうせ姿消して捜査本部に入り込むつもりなんだろ?」

「う、バレたか」

「あたりめーだよ。付き合い長いからな」

僕はニヤリと笑った。



付き合い長い、か。

そういえば、この奇妙な幽霊との付き合いは長い。

僕が公務員試験1科を受ける前からなのだから、2年以上だ。2年以上、何だかんだ言って僕を助けてくれている。

しかしこいつは会ったときから変わらず18歳のままだ。幽霊は不老なのだ。

しかし、不死という訳ではない。



「そう。付き合い長いね。全く、変な人に憑いちゃったなぁ・・・。早瀬由希一生の不覚」

「バーカ、死んでるから一生じゃねーよ」

「あの、ちょっと気になったことがあるのですが」

僕と由希のやり取りをよそに、小田口さんが口を開いた。

「どうしました?」

「あの、話を聞いていると幽霊になるといいことばかりで、なんか、こういうのはアレなんですが、死んで幽霊ライフをエンジョイした方が得ってこともあるのでは?」

「あー、ところがそうでもないらしいんですよ。ねぇ、由希ちゃん?」

「ゆー君にちゃん付けで呼ばれると、なんか気持ち悪いんだけど。・・・はい、えーと、まず、あたしの存在自体が稀なんです。普通、死んだら冥界へ逝くわけですが、あたしみたいに不慮の死を遂げたような思念の強い魂で、しかも冥界の扉がたまたまその時閉じてしまっていたときに死ぬという条件を満たさないとこういう風にはならないんですね」

「なんか急にオカルトチックな話になりましたね」

「小田口さん、オカルトチックというよりオカルトですよ。僕も最初聞いたときは信じられませんでした。ぶっちゃけ今も半信半疑ですが。冥界の扉?ププッ。どこのオカルトマニアの発想だ?」

「もー怒った。いいもんもう話さないから」

「ちょっ、ここまで話して終わりですか!?」

「おいおい、冗談だって。軽いブラックジョークさね」

「ゆー君の冗談はブラック過ぎるってよく言われない?」

「ん、昨日言われた。そんなようなこと」

「ほら見なさい」

「バーカ、僕はブラックジョークで人をイジることに人生かけてんだよ」

「ホンットにやな男!」

「別にお前なんかに好かれようと思ってねーよ」

「ぬぁんにを〜っ」

「ああもう!あんたら話逸れすぎです!冥界の扉だろうが何だろうが信じますから続きを話して下さい!」

「はぁい」

由希は素直に返事をして続きを話す。

「いいこともあるけど、この状態っていうのも、何かと苦労するもんなんです。普通、冥界の扉がもう一度開いたら逝くんです。魂は。だから、あたし達は憑依することで留まろうとするんです。しかし一回憑依してしまったら戻れませんし、憑依の相手が弱って死んだら呪い殺したことになり、その魂は『無』になります。消えてなくなっちゃうんです。天国にも地獄にもいけません。だから、守護霊としてとかですね、相手に負担をかけない憑依の方法をとるわけです。ちなみに今あたしはゆー君の守護霊ですよ?」

「ひゃああ。ついていけなくなってきた」

「全く。変なのに守護霊になられてもありがた迷惑だ」

「ハァ?何言って」

「はい!続きをお願いします!」

進行役を勤めるのも楽ではない。小田口さんはこのやり取りを早々に打ち切らせた。

・・・僕は意図的に話の進行を乱して遊んでいるのだが、由希の方はまぁ天然だろうな。

「はい。えーと、守護霊っていうのは主の命令には逆らえなくなるんです」

「ちなみに、僕は人をイジって遊ぶのは好きだけど人を操って遊ぶのは嫌いなので、『金輪際誰の命令も聞くな。自分の思うままに行動しろ』って命令しました」

「へぇ。なんか大人物って感じですね」

「好い人なのか嫌なやつなのか分かりにくい奴だよね、全く」

2人の僕を見る目が暖かくなる。

「いや基本やな奴だから安心しろ」

「・・・続けます」

「・・・どうぞ」

のも束の間、一気に冷たくなった。

2人は僕を無視して話を始めた。

何?僕そんな悪いこと言ったか?正直なこと言っただけなのに。

「・・・こいつはこんなバカだから、あたしは助かったといえるわけですが、あるところでは命令に背けないのを良いことに、奴隷のように守護霊を使ってる人もいるようです。そんな霊達は、死ぬより辛い思いをしているそうです」

「ひどいですね」

「幽霊をいくらこき使っても、当然現代法ではしょっぴくこともできない。何ていうか、非常に残念だ」

僕が言うと、由希も悔しそうに唇を噛んだ。

「あたし達も泣き寝入りするしかないみたいで・・・。あと、あたし達の姿は家族には見えないんです。1番会いたい人たちには見えないなんて、結構悲しいですよ?それに、守護霊と主は一蓮托生。主が死んだらあたし達も冥界逝きです」

「なるほど・・・。いろいろデメリットもあるんですね」

「でもま、こいつは運がいいんだな」

「そうね。さっきはああ言ったけど、ゆー君みたいな変人バカに憑いたのは幸運だったのかもね」

「変人バカねぇ。ま、否定はしないけどさ、ニート幽霊」

「に、ニートぉ?」

「1日の大半を漫喫で過ごし、働きもしない人を何て言うかしってるか?」

「ム、ムキャアアアッ!こんのおおぉっ」

「はい!いい加減にしなさい!着きましたよ!」

・・・一瞬小田口さんがお母さんに見えた。

車を停めて東玉川署の入口へ向かう。

道すがら、一応小田口さんに謝る。

「あはは、すみませんね。幸兄やこいつとしゃべると、僕はどうも素になるようで」

「勘弁してくださいよぉ。俺、こういうキャラじゃないんですよ?なんか自分の中でキャラ崩壊の危機ですよ・・・」

「「すみません」」

2人揃って頭を下げた。

確かにキャラが崩壊しつつあると思ったからだ。

「いえ、いいですよもう・・・」

小田口さんは半泣きで笑った。






「ご苦労様です!・・・あれ?その娘は?」

そんなこんなで入口に着くと、やはり朝も会った警官に質問を受けた。

まぁそうだろうな。刑事2人に少女1人。明らかに奇妙な組み合わせだ。

僕は適当に誤魔化した。

「ああ、ちょっと捜査中、素行が悪かったので連れてきたんです」

「そうでしたか、ご苦労様です!では、少年課に連れていきます」

変に気を回す警官だな。

「あ、いえ。こいつは顔見知りでしてね。僕が厳重に注意して帰しておきますので」

「そうですか。ご苦労様です!」

会話の中で『ご苦労様です!』を3回も使った警官は、また敬礼すると、署の中へ僕らを通した。




「ふぅ。もう捜査会議始まりますね。しかし、さすが矢嶋さん!どうなることかとヒヤッとしましたが見事な機転です」

「いやあ、それほどでもイタァッ!」

痛みの元を見ると、由希が僕の足を思いっきり踏んでいた。

「悪かったわねぇ、素行が悪くて」

「うん。僕は嘘をついた覚えはない。この暴力女」

「知ってる?言葉の暴力ってもっと痛いの」

「知らない」

キッパリ。

「こんの・・・」

「黙って!」

小田口さんが静かに制した。見るとあの執事刑事が前の方にいた。

「由希、付いてくるなら姿消せよ」

「うん」

由希は頷くと空気に溶け込んだように消えた。

「桃井さん!」

小田口さんが声をかけた。あの人桃井さんっていうんだ。

「ああ、小田口君、お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

桃井さんは僕を見た。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です。桃井さん、捜査会議は」

「少し前に本庁の方がたくさんいらっしゃって、あと15分で始まります」

危ない。ギリギリセーフだったんだ。

「時に、矢嶋さん。さっきあなたの近くにいた女の方はどなたですか?」

「女?」

僕は怪訝な顔をしてみせた。

「知りませんよ?・・・もしかして桃井さん、幽霊でも見たんじゃないですか?」

冗談めかして言う。

「・・・失礼しました。どうやら、わたくしの勘違いだったようですね。さあ、捜査会議が始まります。参りましょう」

桃井さんが後ろを向いたので小田口さんと顔を見合わせ、ホッと胸を撫で下ろした。

・・・さて、いよいよ幸兄指揮する捜査会議か。

果たして事件に進展はあったのだろうか?

僕逹3人と後ろに付いた幽霊1人は、捜査会議会場の第1会議室へと足を踏み入れたのだった。

はい、いかがだったでしょーか。何気に長い13話。 タイトルコールが思い浮かばなくなって困ってる今日この頃です。 さて、最初の勢いはどこへやら、すっかり更新スピードが落ちてる近頃です。いや、飽きたんじゃなくて忙しいんですって。ホントホント・・・。まぁ他のを見るついででもチラッと覗いてってくれると嬉しいですね。続編とか考えてましたが、なんとしてもフィナーレまで書き上げるのが当面の目標です。あと、最後になりましたが、誰かコメント下さい。ないのは寂しいです。批判でも嬉しいです。(Mじゃないよ?)

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