12話 矢嶋編 Sっ気爆発!真夜中の怪談
はい。めっっっっちゃ久し振りの更新です。合宿明けて一息つけたので更新です。何回も通ってくれた方、ありがとうございます。 さて、ゆっくりできる期間もそろそろ終わりを告げ、またしても部活、勉強の日々な訳ですが、更新は遅くても絶対止めないよう頑張ろうと思います。だって構想が30話くらいまでまとまってるのに書かないのは勿体無いですからね(笑) ひとまず、これからもよろしくお願いします
「どうかしました?・・・疲れたんスか?」
ムスッと黙り込んだ僕を心配してか、小田口さんが声をかけてきた。
「いえ。別に・・・。渋滞ですか?」
さっきから車が動いてないように思える。
「ええ。ご覧の通り」
小田口さんは前を示した。車。車。車。
はぁ〜。ここまで来るとむしろ見事なもんだ。
「よく考えたら今日は金曜日でしたね。土日の旅行に向けて、今のうちに出発する家族が多いのかなぁ・・・。脇道逸れとくんだったなぁ」
腹立たしげに小田口さんが言う。
東京は混む。金曜の夜、土日は特に。
だから電車というものがああして発達したのだ。
「時間かかりそうですねぇ」
「あ!そういえば気になってたことがあるんスよ」
「なんですか?」
「いや、来るときに、入口にいる警官に聞いたから今日来たのが矢嶋さんだって分かってたんスけど、今日俺とペア組むのは毒蝮美咲さんって女の人のはずでしたよね」
僕はフフと笑った。
「女の人のが良かったですか?」
「え・・・ええ、まぁ、正直」
小田口さんは照れながら言った。
「だって、矢嶋さんたちがいる24班は変人班で有名ですけど、優秀な人材ばかりってことでも有名なんですよ」
「え!そうなんですか!?」
「そうッスよ。知らなかったんですか?」
知らなかった・・・。一時期は馬鹿にされてた24班が・・・。
僕は感慨深いものを感じ、嬉しくなった。
「で、毒蝮さんは24班の紅一点ですごい美人って評判ですから、才色兼備の・・・」
「小田口さん」
僕は小田口さんの肩に手を置き、首を振った。
「確かに美咲さんは美人で優秀です。そこは否定しません。・・・しかし、忘れてはいけません。彼女は変人班の一員です。しかも彼女は一番タチが悪い。怒ったらスーパーサ●ヤ人並の戦闘力になり、酔ったら幼児並の我が儘になります。しかも自分の要求を拒否するとぶたれます。手に負えません」
「なんか・・・すごいですね」
「すごいなんてもんじゃないんですよ・・・」
「・・・お察しします」
「どうも」
僕はペコリと頭を下げた。渋滞はまだ続く。
「にしても、なんでこんなに混むんでしょうねぇ」
「確か・・・この辺に『世界料理博物館』っていういろんな国の料理が食べられる施設が出来たらしいッスよ。その関係ですかね」
「はぁ〜、なんでよりによって・・・行きたくなっちゃいますよ」
僕は腹を押さえて言った。小田口さんはクスリと笑う。
「行きたいのは山々ですがねぇ。捜査会議間に合いませんよ」
「ですねぇ」
「「腹減ったなぁ」」
程なく車内に笑い声が響いた。
前にも車。後ろにも車。横にも車。横の車にはカップルが乗っていて、渋滞で車が進まないのをいいことになんかいろいろしちゃってる。
やれやれ。
「はぁ。渋滞はまだまだ続きそうですね」
「あ、そうだ!」
小田口さんは声を上げた。
「暇潰しに面白い話があるんですよ。・・・矢嶋さんは『緑の鏡』って知ってますか?」
「え、紫じゃなくて?」
僕は聞き返した。『紫の鏡』は有名な都市伝説だ。
確か、20までに紫の鏡という言葉を忘れないと死ぬとかなんとか。・・・まあ僕は生きてる訳だが。
「うーん、『紫の鏡』から出来た都市伝説の一種です。これはちょっと長い話になりますけど・・・」
断りを入れて、小田口さんはゆっくりと話し始めた。
緑の鏡っていうのは俺が住んでた地方・・・西東京の方に伝わっていた話なんですがね。簡単なものです。緑の鏡という言葉を20になるまで覚えていたらその人は死んでしまうというものです。これは、紫と同じですよね。
それで、これは紫の方には無かった話なんですが、これを3人以上に伝えれば『緑の鏡』を覚えていても助かるって要素が加わってるんです。
ある時急に流行り出したんですよ。その話。
で、ある日、20の誕生日を迎えたばかりの若い男女が死ぬ事件が起こりました。被害者は5人。3ヶ月に渡って起こりました。
死因は心臓麻痺。そして死体には意味不明の印が焼き付けられていたんです。
警察はこの情報をひた隠しにしましたが、噂としてまことしやかに流れていたんですね。大騒ぎになりましたよ。
緑の鏡だ!
緑の鏡の呪いだ!
・・・てね。
最初の犠牲者から4ヶ月目に入ろうとしたころ、1人の19歳の青年が逮捕されました。
新たに人を殺そうと家に入ろうとしたところを現行犯で逮捕されたそうで。
しかし、話はそれで終わらなかったんですね。
その青年は裁判で無期懲役を言い渡され、刑務所に居たわけですが、どういうことかまた20歳になった人が死に出したんスよ。
犯人は捕まっていたので警察としては偶然の事故ってことにしたかったらしいんです。
そして、12月21日。その青年が20歳になった日。
どういうわけかピッタリと死ぬ人はなくなったんです。
・・・その青年を最後にして。
なんとも不思議な事件だ。刑務所に犯人がまだいるというのに人は死に続けた・・・?
何らかの経路で殺害方法を知ったコピーキャット、つまり模倣犯の仕業だろうか?だがしかし・・・。
「まあ当時は俺もしがない学生でしたからね。事件についてよくは知らないし、警察がなぜ犯人の行動を読んだかのように現行犯逮捕出来たかも知りません。ただ、これは俺が警官になってから聞いた話なんですが、この事件の解決には本庁の一ノ瀬警視正が深く関わっていたとかなんとか・・・」
「一ノ瀬警視正ですか!?」僕は思わず聞き返した。
一ノ瀬拓馬警視正。
警視庁捜査一課特別事件処理部という部署の部長をやっている。
2、3回しか会ったことはないが、欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。・・・そういう人に私はなりたい。
といった感じの人で、まあ要は温和でいい人っぽくていつも笑っているから掴み所のない、腹の下じゃあ何考えてるのか分からない人だ。
そもそも僕は、あの部署は何をしている所なのかもよく知らない。
今度行ってみようにもあの部署がどこにあるのかも知らない。捜査一課という名前はついてるものの、実態は全く違った、謎に包まれた存在なのだ。
・・・というか、そんな存在が警視庁内に存在すること自体どうかと思う。
「お知り合いだったスか?」
「いや、2、3度しか会ったことはないですが。なんというか、雲みたいに掴み所がない人です」
「はぁ、なるほど・・・。あんな事件を解決できるような人ならきっとすごい刑事なのでしょうが」
小田口さんはそれよりも・・・と、口を開いた。
「どう思います?2回目の事件の方について」
「ああ、そうですね。模倣犯という考え方ができなくはないですが・・・。犯人の心臓麻痺については、分かりません。正直、偶然にしては出来すぎてる気がするのですが」
「ですよねぇ。よりによって20歳の誕生日に死ぬなんて偶然、ないですよね」
そう言って小田口さんは僕を見据えた。
ん?なんか震えているような・・・。
「俺、考えたんですけど、犯人が勝手に呪いに見せかけた演出をしたのが許せなかった鏡の怨霊が呪い殺したのでは・・・すみません。ん、んなわけ、ないですよね・・・?」
ははぁ。
小田口さん、この手の話に弱いのか。
てかこの話自分で振ってきたくせに。
「いや、それを偶然としてしまうよりはむしろその方が自然かもしれませんよ・・・?」
「そ、そうですか?」
小田口さんは否定して欲しかったようだ。
「いやね、僕は割りと幽霊とか信じてるんですよ・・・というのもですね」
ああ、おもしろい。
僕は声色を変えた。
「い、いや!もっと楽しい話しましょう。そういえば楽天の田中が」
「そう。・・・あれは僕が高校生の時」
僕は無視して話し始めた。
僕が高校生のときは、よく渋谷とかに繰り出して遊んでたものでした。
ある日、ちょっとカラオケが盛り上がりすぎて帰りが夜遅くになってしまったんですね。
渋谷駅前の交差点をいつも通りに渡ろうとしたとき、僕は見てしまいました。
向こうから、白いコートを真っ赤に血で濡らして歩いてくる女の人を。まあ女の人っていっても当時の僕と同じくらいに見えましたが。
・・・しかしおかしいんです。
あんなに大量出血しているのにも関わらず、誰も気に留めないんです。
いくら、東京が冷たい街だと言っても、死にそうな人を誰も気に留めないことはないでしょう。僕はもしかするともしかするんじゃないかと思いました。
まあ少し興味はあったのですが、流石に怖いので見ぬふりをして帰ることにしました。
しかしどうしたことでしょう。不審に思ってガン見していたのがいけなかったのでしょうか。女の人は一直線にこちらに向かってくるのです。
回れ右して逃げようかと思いましたが、そこは渋谷の交差点。逃げようにも人の壁が邪魔して逃げられません。
マズイだろ。
こりゃ本当にマズイ。
流石に僕も焦りました。
女の人はどんどん近づいてきます。
大丈夫。
いくらなんでもこんなたくさん周りに人がいるところで幽霊に殺されたりはしない。
僕はそう自分に言い聞かせて、覚悟を決め歩き始めました。
見えないふりをして通りすぎようとする。
ちょうどすれ違おうとするとき、
『クスリ・・・』
女の人の口から笑いがこぼれました。
『見えてるくせに』
ギョッとして僕は思わず立ち止まってしまいました。・・・間違いない!あれは幽霊だ!
僕の第六感がそう告げています。
ふっと振り向くと、やはりそこに血に濡れた女の人はどこにもいませんでした。
「ちょっ。怖いじゃないですか。止めてくださいよ、もう」
小田口さんはマジで怖がってる。
「イヤです。まだ続きがあるんです」
僕はキッパリ言って続けた。
ここからが肝心なのだ。
あのときは、結局何事も起こらずにすみました。
しかし問題が起こりました。
あの女の人、僕の夢に出てくるようになったんですね。
血に濡れた姿でこっちにゆっくり、ゆっくり近づいてくるという夢です。
憑かれてる、と思いました。
これではおちおち夜も眠れませんのでですね、ちょっとあの交差点の辺りを調べてみたんです。
そうしたら・・・1つの地蔵を見つけたんです。
気になって交番のおまわりさんに聞いてみると、あの交差点で事故死した女子高生のためのものだというんですね。
僕はてっきり大人かと思っていたのですが、遊びの服装だったので大人っぽく見えたんでしょうね。その子が。
僕は頼み込んでその子の名前を聞き、その子の家に行ってみたんです。
お母さんがいたので、線香をあげさせてもらうことにしました。仏壇の写真を見れば誰だか分かりますからね。
といっても、まさか『娘さんの幽霊を見たので線香をあげさせてもらいに来ました』とは言えません。
とりあえず僕も高校生だったので中学の時の友人だったが自分は遠方に引っ越してしまい、今回久しぶりに戻ってみたら友達から亡くなったことを聞かされ慌てて駆けつけた、と作り話をしてなんとか上がらせてもらいました。
仏壇の写真は、紛いなくあの女の人でした。いや、女の子、というべきかな。
そうと決まったらやることは1つしかありません。
僕は母の日でも行ったことのない花屋で生まれて初めて花を買い、地蔵の前にに供えました。
すると、パッタリ夢に女の子は出てこなくなったわけです。
「幽霊確定じゃないですか!」
小田口さんは悲痛に叫んだ。
「まぁ。そうです」
「・・・でもいいとこありますね、矢嶋さん。花供えてあげるなんて」
「ははは、そうですか?まあ今も2ヶ月に1回くらい供えに行ってるんですが。別に殊勝な考えではなく、夢に出られると困るんでね。やってるだけです」
「クスリ・・・」
「え?」
小田口さんはギョッとした。
ははは。面白い。驚いた顔が金魚みたい。
「ちょっと、今クスリって・・・ギイイイヤアアアアアアーーーーーッ」
その時突然小田口さんのものすごい悲鳴が響き渡った。
ああ面白い。
なぜ小田口さんが突然悲鳴をあげたのか、それは・・・。