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おいおい。なんだこれは。
いったいどうなっている。
郊外森林奥地の洞窟。敵本丸と思われるこの場所。意気揚々と乗り込んだ。そう乗り込んだんだ。
有害種。人類における危険度により段階的にランク分け、分類される。
今回の任務目標。駆除対象。
液状無形種有核型。主に沼地、洞窟、森林等に生息。ゲル状の体内に補色対象を捕らえ、養分としとり入れる。補食対象は主に生息地周辺の生物。時おり農村部の家畜などへの被害報告有り。
だったろ。たしか指令詳細の文面には、『特段な能力はもたず人への被害は稀』なんて文も並んでたはずだ。
「どうしようか。残ったんはぼくら二人だけみたいやね。」ラクが額に手をあて困り果てたようにつぶやいた。
二人きりとはステキなセカイだな。ロマンティックが止まらんぜ。
おれは指令詳細にある生態の挿し絵を見た瞬間、確信していた。これはあれだ。
スライムだってね。
ぶにぶにと、ぷにぷにとしてそうだったからな。もうあいつだろ。
誰だってそう思う。冒険の序盤、経験値やら小銭やら稼がせてくれるあいつだろ。
ところがどうだ。こいつらは。見た目こそそのままだが、聞いてた話と違うぞ。
チュートリアルにはハード過ぎる。
「こんなに素早く動けるとは聞いてないぞ。洞窟の外の個体はここまで強くなかった。人を襲うこともなかったはずだろ。」
「小隊がほぼ壊滅やしね。そもそも人を襲えるほどのスペックはないはずやから。」
暗く湿った洞窟には、壁一面いたるところに青だか緑だかわからんような色したスライム野郎。
その半透明の体内に捕らわれておられる隊長殿、先輩方。
「生きてはいるみたいやね。意識がない?のか。麻痺、毒…。理由はわからんけど身動きはとれんみたいやね。」胸元に鼓動は感じる。死んじゃいないな。だが、
「体内に取り込まれたってことは。」
「そやね。エネルギーとして消化されてるってこと。どうにかして助け出したいけど。」そういってラクはまた額に手をあて考え出した。
冷静だな。ふだんのキャラからは想像がつかん。口が回る分、頭も回るんだろ。
「でもほとんどの祈りが効果なしとは困ったもんやね。」
そうだ。なにもおれらも無抵抗にやられたわけではない。もちろん幾度も現場をくぐり抜けてきた人達だ。隙を突かれて一瞬でとはならないさ。
有害種を認識した瞬間、すでに隊長は『氷の祈り』を終えていた。
凍えるような冷気も感じたし、手を合わせ発動の瞬間もたしかに見た。
他の先輩方も手を合わせ応戦していた。
だがそれによって起こる全ての事象は、有害種に吸い込まれるように消えてしまった。
そして攻撃と共にみんな飲み込まれていった。
「ディトの祈りをどう使おっか、そこやね。」
火の神様々ってか。
「火の祈りの効果はバツグンだ!とはな。なんとも都合のいい。」
特定の属性の魔法のみ攻撃が通用する。RPGにはありがちだな。ここはゲームの中か。
まどろっこしい。もういっそ焼き払ってやろうか。考えるのも面倒だ。
「いま、全て燃やし尽くそうとか考えてなかった?そんな単純じゃないと思うわ。」
おい。勝手に心を読むんじゃない。お前の能力はそれじゃないだろ。
「どういう事だ。弱点をつくのは常套だろ。」
答を待つためにラクのほうへ顔をむけると、なにやら思案しているようだった。
何故、おれら二人だけ残るような状況になってしまったのか。不幸中の幸いのスタート。
まわりが苦戦するなか、なぜか火の祈りだけがダメージを残す事ができてしまった事から始まる。
有害種にエンカウントした場面で、漏れなくおれも反撃に転じたからな。
そして偶然に横にいたラクも助かったのである。感謝してほしいものだ。
少しは同意したらどうだ。
「ディトが攻撃してくれた有害種。まだ燃えとるやろ。火が残っとる。可燃性ってやつかな。」
無惨にも返り討ちにあい、経験値と変わった死骸。残骸。
それらは、おれとラクを中心に円を描くように囲って今も燃え続けている。この炎のお陰で悠長に話をできてるわけか。
「それだけ相性が良いってこったろ。構わんさ。」
「有害種に攻撃が通ったとして、その後どうすんの?みんな燃え続けるで。火傷ですめばいいやろけど。」
「それこそ、その後お前が働け。そのためのお前の祈りだろ。」
「ぼくのは火や炎を消すわけやないんやから。」
ええい。ならどうしてくれよう。仕方がないのか。
「いっこ試したい事があるんや。あくまで仮説やけど。いいかな。」