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遠征にきてはや三日、一通りの調査を終え明日が本番といったころか。夜空の下で一服。もはや習慣といったところか。この五分弱に瞑想に近いものを感じるね。まぁ悪い影響だ。
悟りを開こうと研鑽している時、じゃりじゃりと足音が聞こえた。おれは目線を音の方へ目を向ける。
「ディト、おれもタバコ付き合うし火くれ。」またやかましい奴が来たものだ。おれは言葉も返さずマッチ箱だけを渡した。
「おまえ火の神の加護だろ?マッチなんていらんやろ。」
金髪の坊主頭はへらへらとしていた。
ラク。こいつとは訓練生の頃からの同期だ。訓練生を卒業し、涙の別れかと思えば配属先でもまた会うはめになった。腐れ縁か。どうせなら美女がよかったと心底思う。
「おまえはタバコを吸う度に神に祈りたいか?」
「確かに。」
また顔をくしゃりとして笑いながらラクは煙を吐いている。
この世界には魔法のようなものがある。ほとんどの人はこの力を使えるのだ。
そしてこの力が神から与えられたギフト。贈り物。
この世界では『加護』と呼ばれている。
人により使える加護は違うようだ。嵐を巻き起こす者もいれば、水を自在に操る物もいる。雷を呼ぶ者、傷や病を癒す者もいる。まだおれが知らないものもあるんだろう。
神は一人にあらず。八百万もの神がおり、様々なものを司っている。そして人それぞれ仕える神も違う。故に与えられる加護も千差万別。だそうだ。
そして人々は祈る。加護を得るために。
「便利は便利だけどさ。毎回こうやって手を合わせるってのもめんどいしな。」
手を合わせて祈る。
それが加護を得るための条件。
ようは魔法発動の必要動作ってとこだ。能力を使うためには必ず行わなければならない約束事である。
「でも火の神の加護とかいいよな。なによりカッコイイしな。」
「いいやん。こうボワッてさ。」
一人でわいわいと楽しそうだな。さぞ人生楽しかろう。
「おれはお前の加護の方がよっぽど世の中の人にとって有益だと思うぜ。」
嘘ではない。なぜ神はこの男にたいそうな加護を与えたのか不思議でならない。
「まあな。あ、わかった。ディト君、嫉妬っやつだね。嫉妬。こわいこわい。にししっ。あれ。え?え、ごめ、ごめん!やめて、やめ、たすけ…」
もう遅い。祈りを終え、合わせた手をひらく。するとすでにその中には火球があった。ためらわずそれを投げつけてやった。
「ちょっと、あつっ、あつ!やっば、熱いって!」
「問題ない。たかだか弱火だ。」
「ちょっと!髪、焦げたしな!やっと坊主から伸びてきたのに…。」
「口は災いのもと。聞いたことないか?」
「にしてもやり過ぎやし!ほんっと、どエスやわ。」
「親ゆずりだ。」
「明日の任務に影響でたらどうすんの?ほくけっこう大事だよ?」自分で言うか。まぁこいつらしい。気を使わず話せるのも悪くない。憎めん奴だ。
「明日の有害種は数が多いだけでたいして危険でもないだろ。おまえまで仕事はまわってこんだろうよ。」
「そうやといいけどね。ま、ぼくらは危ないとこは任せられてないみたいやし。無事に終えたいもんや。」
そうだな。
さっさとおわらせて家に帰りたいもんだ。
おれは残りの煙を肺に満たして火を消した。