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「明日から遠征だよ!いっぱい食べて精をつけなきゃ!」
よくもこれだけの料理を食卓にあげれるものだ。絵本のような石畳と木の温もりとやらがあふれた居間のテーブルに今夜の夕食が並んでいる。一皿一皿が胃袋をダイレクトに誘惑してくる。三ツ星級だな。
「ケガしないように気をつけないとだめだよ!心配だなぁ…。」
この家の調理場を主に取り仕切る、愛すべき我が妹である。その寛容さ、慈愛心は聖母にすら価する。後光すらさして見えるね。
「絶賛研修中だ。まぁ、そこまで大層なやくまわりはまわってこないだろうよ」
ひたすら極上の味を口に届けながらおれが答える。
「またそんなこと言って!きちんと隊長さんの言うこと聞いて、無理したらだめなんだからね?」
なんたる母性だ。もはや老婆心と言ってもいい。まぁそれもよかれと思ってのことだろう。小柄で幼い容姿に対してほんと大人びた性格をしたやつだ。個人的には後ろに纏めた短めの黒髪。いいぞ、それ。ポイントアップな。
「おかあさんだってこのまえケガして帰ってきたんだよ!治る前にすぐまた出て行っちゃうし!」
そういえばそうだったな。ふん。確かに。
「あ!もうお兄ちゃんたら。笑い事じゃないんだからね!」
おっと。顔に出てたか。
「わるいわるい。あの魔女を手負いにする化物を想像してたらな。まぁ、魔王とでもエンカウントしたんだろ。」
「もー!冗談じゃないんだから。家で心配しながら待ってる身にもなってよね!ほんっといっつも二人は…」
主婦みたいな愚痴はよせ。小皺が増えるぞ。
魔女。なんとストレートな通り名であろう。
王国軍第三師団に所属し、特別遊撃隊の長として圧倒的な実力で次々と戦果を挙げている。どうせ遊撃隊とは名ばかりに暴れまわっているのだろう。サディズムが服をきてるようなもんだからな。
敬意からくるものなのか、畏怖の念からくるものなのか、その名は王国軍中に知れ渡る 。類いまれなる美貌が拍車をかけているのもたちが悪い。
とんでもない人を母にもったものだ。
この魔女こそがこの世界の母としておれと妹を育ててくれた人物だ。
またこの世界における魔法の類いの師でもある。色々と頭が上がらない。
「聞いてるの?おかあさんみたいに強くてもケガするんだよ!お兄ちゃんはもっと心配だよ…。」
「へいへい。」確かに珍しいな。一方的な制圧を至高としてほぼ無傷で帰ってくるのに。天変地異の前触れか。
「今回は面倒でもなさそうだから一週間くらいだろ。すぐ帰ってくるさ。」おれから言わせたら妹を一人で置いていく方が心配だしな。
「三日もしたら母さんも帰ってくんだろ?まぁそれまで鍵閉めて引きこもってたら安全だろ。」文字のままに箱入り娘として育ておきたいね。魔女の護衛付きだしな。
「もー!そんなことばっかり言って!」
反論を背中にして、おれは部屋を出た。煙草を言い訳に逃げるが勝ちだ。