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旦那様が振り向きます。その途端、服が離され、私はその場に座り込みました。

「今じゃなくてはいけないのか?」

「はい。その場で結構です。時間も取らせません」

いつになく真剣なロレオ様を私は見ていました。今からこの方は、私の我が儘の所為で苦しい思いをしなくてはならなくなるでしょう。私は謝りたい気持ちで一杯でした。でも出来ません。何故なら私は、声で伝える以外の方法を知らないのですから。どうすれば、ロレオ様に感謝の気持ちを伝える事が出来るでしょうか。

「サーシャは、もう声が…」

「出ないだと?それは本当か?」

「はい、真実です。もし嘘だとしても、彼女に嘘を吐く利点はないと思います」

私は静かにその時を待ちます。旦那様が結論を出すのにそう時間はかからないでしょう。

旦那様とお話をしている間もロレオ様はちらちらと此方の様子を窺っていました。その眼に、不安な色を滲ませて。それでも、旦那様は気がつきません。

「どう…、なさいますか?」

「使えぬ物は処分するしかないだろう」

「そんな…っ」

やはり、私の行き先は処分でした。どういった方法で処分をされるのでしょう。少しばかり、怖い気がします。

「ならばお前は何か別の方法があるというのか?」

「声が出なくてもここで飼えばいいじゃないですかっ」

「邪魔になるだけだろう。ここの者は皆こいつを人間として見ていないからな。どういう扱いになっても知らんぞ」

「本人の前でそんな…っ」

今度は目線だけでなく、お顔ごと此方を向きました。いっそ耳も聞こえなくなれば良かったのでしょうか。私は会話を聞くなと言われれば、耳を塞ぐ事しか出来ません。でも耳が聞こえなければ、余計な事を聞かなくて済むのでは…。それならば、此の耳も捧げてしまいましょう。

両手を耳に当てます。静かに爪を立て、勢いよく引っ掻きました。

白いドレスには赤い色がよく映えます。指が汚れてしまったのは仕方がない事でしょう。不思議と痛くありませんでした。

「サーシャ!!」

ロレオ様が驚いたお顔で鳥籠に近づいてきました。その姿を見て、私は微笑みました。そんな私をロレオ様は更に吃驚した様に見ていました。

「サーシャ、どうして…。っまさか、会話を聞かない様にする為…?」

私の狙い通り、耳はあまり聞こえなくなりました。水の中に潜った時の様に、はっきりとは聞こえません。これで充分です。

「耳も聞こえなくなってしまえば、もうがらくたも当然だ」

「そんな…そんな言い方…」

「本人が望んだんだ。あれはそういう事だろう」

「しかし…っ」

「諄いぞ」

ロレオ様はお顔を歪められました。旦那様に何か言われたのでしょうか。一体、何を…。

旦那様とロレオ様が話している間も赤は白を染めていきます。結構深く抉れてしまった様で、なかなか血が止まりません。暫くすれば、止まるのでしょうか。

それにしても、人間の爪で此処まで深くいくとは思っていませんでした。精々、皮が捲れる程度だと思っていたのに。予想を斜め上に行く出来事は初めてです。

旦那様とロレオ様は未だ何かをお話している様子です。私の処分についてのお話でしょうか。それとも、商品価値が下がったと文句を言っているのでしょうか。若しくは、両方でしょうか。

旦那様が近づいて来ました。お話は終わった様です。

「サーシャ・フォルナルド。お前はもう用済みだ」

何故かその言葉だけは、はっきり聞こえたのです。

私は立ち上がって、ドレスの裾を持ち、頭を下げました。――…泣くのを堪えながら。

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