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「……」

私は静かに首を横に振りました。どんな罰が待ち構えていようと、この幸せな気持ちがあるならば、大丈夫だと思いました。

いなくなる事は、怖いです。でもそれよりも、この幸せが消えてしまうのが怖い。ならばいっそ、この幸せを抱いたまま。私はそれで充分です。

「…っ、そうか…」

その時、ロレオ様のお顔が泣きそうに歪んでいました。私は貴方のそんなお顔は見たくない。

笑って、笑って下さい。ロレオ様。私は幸せでした。皆様の為に歌う事が出来て。ロレオ様に人として見て頂けて。これ以上幸せな事は、きっとないでしょう。

「……」

私は手を伸ばします。この鳥籠の中から貴方に届くように。

触れてはいけない事は分かっています。それでも触れたかった。

ロレオ様はそんな私の考えを知ってか知らずか、私の手を握ってくれました。久しぶりに触れる人の手は、とても…。

私は貴方に向かって微笑みます。笑ってほしいという願いを込めて。

頬に涙の跡を残した貴方は、消えそうな笑顔を向けてくれました。相変わらず、泣き虫は治っていないようです。

貴方は私の手を強く握ってくれました。とても心が温まりました。そして思ったんです。私は、もしかしたら世界一幸せなんじゃないかって。

そろそろ旦那様がいらっしゃいます。私は手を戻そうとしました。そしたら、貴方はもっと強く私の手を握ったのです。それからゆっくり、手を離しました。

「サーシャ…。どうして、どうして逃げないんだ…?どうして、俺に笑えと言うんだ…」

これが、最後なんてと言ったロレオ様の口調は昔に戻っていました。そうです。最後なんです。だからこそ、貴方に笑っていて欲しかった。私の最後の我が儘です。どうか許して下さい。

――足音が聞こえます。きっと旦那様がこの部屋に来たのでしょう。

齢十六の私には、勿体無い位の人生でした。唯声が綺麗というだけで買われてしまいましたが、他の人に比べると境遇はましだった。いえ、断然に良かったんです。今ではそう思えます。

「サーシャ…。一緒に逃げよう?お願いだ…」

「………」

私は頑なに首を横に振ります。私は逃げません。ここで逃げてしまえば、ロレオ様にも迷惑がかかるでしょう。それだけはしたくなかったのです。

扉が開く音がしました。部屋には旦那様がいらっしゃいます。旦那様はゆっくりと私に近づいて来ました。

「今日はどんな歌だ?早く歌いなさい」

「……」

私は何と伝えれば良いのでしょうか。助けを求めるように、ロレオ様の方に目線を向けます。目線の理由がわかったのか、ロレオ様は悲しそうな顔をしました。そして微かに、首を横に振りました。

「どうした?早く歌え!」

「…っ」

私は服を捕まれて引き寄せられました。その勢いで私の胸は鳥籠にぶつかりました。息が止まるかと思う位の痛みでした。

でも旦那様の後ろにいるロレオ様の方が痛いお顔をされていました。ロレオ様が、お怪我をした訳ではないのに。

私はもう一度、ロレオ様を見ました。先程よりも強い意志の籠もった眼で見つめました。すると、更に泣きそうなお顔をしたロレオ様が、漸く頷いてくれました。

静かにロレオ様の腕が伸ばされます。その手は旦那様の肩を掴みました。

「父様、お話が御座います。宜しいですか?」

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