(6)
その想いも、三年しか続きませんでした。
それは、ある日突然、私の声が出なくなったからでした。
何の前触れも無く、唐突に。
「……っ、…っ…っ!」
両手を喉に添えて、声を絞り出そうしていました。声が出なければ棄てられる。どんな形で棄てられるのかはわかりませんでしたが、私には声以外に存在価値が無かったのです。
偶々聞いてしまった話は処分をするかどうか。旦那様の声でした。
「………っ、…っっ、っ……」
何とかして、ロレオ様がこの部屋に来る前に。足音が聞こえる前に。
そんな願いも虚しく、扉は開いてしまいました。その途端、私の喉に空気が入り、ヒュッと音が鳴ったのです。
これが声ならば、どんなに嬉しい事か。
「さぁ、今日も綺麗な歌を聞かせてくれるかい?」
ロレオ様が目の前にいます。もう手遅れでしょう。
私は、処分されます。もうこの城にはロレオ様以外、私を人間として見る方はいません。皆様、私を唯歌う人形か鳥としかお思いになっていないんです。
それは仕方がありません。だって私は、羽ばたく事も許されず、歩く事も許されず、逃げ出さないように、勝手にいなくならないようにと巨大な鳥籠の中で飼われているんですから。
「……っ」
私は口を開けたり閉めたりします。声が出ない事をロレオ様に知ってもらう為に。
「どうしたんだ?今日は、歌いたくないの?」
「…っ、…っ」
歌いたくない訳ではないんです。声が出ないんです。私は、歌いたい。皆様の為に、この声を使いたい。
処分されるのは嫌です。だって怖いんですよ。どんな事が待ち受けているかわからないのに、素直に処分されるのを待つ人がいると思いますか。
私は消えたくありません。誰だってそう思うのが普通でしょう。
「っ、声が出ないのか…?」
「…っ、…っ」
許して下さい。ロレオ様。私はあなたに声を聞かせる事が出来なくなりました。こんな私にはどんな罰が下るのでしょう。考えただけでも恐ろしい。
「……。逃げるかい?」
「…!?」
そんな私にロレオ様は逃げるという選択肢を渡したのです。でも私はここから出てしまえば、右も左もわからないような人間です。ちゃんと生き延びる事が出来るでしょうか。否、出来る訳がありません。だって私は、この狭い世界しか知らないから。
「父様に見つかる前に、逃げなさい。そうすれば、サーシャ、君は生きていける」
驚きました。ロレオ様は私を助けてくれるというのです。城の中で唯一私を人間として見てくれる人。人に人として見られるという物がどんなに喜ばしい事か、私はロレオ様に教えてもらいました。それは今までにない位に私の心を満たし、幸せな気分にさせてくれました。