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あの日から、旦那様の私への対応が段々と荒くなっていきました。一年経っても、二年経ってもそれは変わりませんでした。
何か変わったとしたら、ロレオ様があまり泣かなくなったという事でしょうか。唯偶に、泣きそうなお顔をしているのを見る事があります。そう簡単には変われませんよね。
あともう一つ変わった事があります。私がいる鳥籠の鍵がとても頑丈になった事です。ロレオ様も鍵を手に入れられなくなったそうです。鍵はずっと旦那様が持っています。
雰囲気はとても怖いのですが、偶に林檎を渡してくれる時があるのです。ロレオ様から聞いたのかもしれません。私は嬉しい様な吃驚した様な。そんな感じでした。その様子を話すと、ロレオ様も吃驚していました。
「ねぇ、サーシャ」
「何ですか?」
「サーシャはどうしてそんなに林檎が好きなの?」
「それは…、昔一緒にいた男の子とよく食べていたからです。その林檎がとてもおいしくて」
「…そうなんだ」
「どうかなさいました?」
「いや、何でもないよ」
「…?そうですか」
ロレオ様の優しい笑顔は変わらない儘、時間だけが過ぎて行きます。旦那様の対応も変わってしまいましたし、使用人さん達の対応も冷めた物になっていきました。お客様達の顔も何もかもが変わっていきます。勘違いかもしれませんし、本当にそうなのかもしれない。私にはもう、わからなくなっていました。
着せられる物や食べ物が高価でも、皆様の対応を見ている限りでは、嫌々してやっているという感じに思えます。
綺麗なドレスも綺麗な髪飾りも、唯のがらくたと一緒です。私はそれがとても悲しく、辛かったです。自分の歌を非難されようがどうでもいいのですが、その非難される私が身に着けている物にまで被害が行くようで、嫌だったんです。物が可哀想でした。
そうは思っていても、私には何も出来ない。何かをしたくても何も出来ない儘、時間だけが過ぎていきます。私は、何と力のない者なのでしょうか。何かをしたい。でも、何を?
ロレオ様に聞きました。すると、「サーシャは何もしなくていいんだよ」と言われ、旦那様に聞くと、「そんなに何かしたいなら歌でも歌っていろ」と言われます。矢張り私には、歌を歌う事しか出来ないのでしょうか。他に出来る事はないのでしょうか。答えなんて、分かりません。
こうして悩んでいる間にも、日は沈んでいきます。時間なんか待ってくれません。ならば、私は旦那様の仰った通り歌を。聞く者総てを幸せにする様な歌を。それが、私の答えになるならば。
…結局、歌に戻ってきてしまう私です。他に取り柄が無いからと、歌に頼ってしまうのは悪い事でしょう。それでも歌います。いつか、旦那様も笑顔になれる様に。どんな方でも、笑顔になれる様に。一年でも、二年でも、頑張ります。