(14)
生まれ変わる。そんな事が簡単に出来るのでしょうか。
でももし、出来るのならば、私は生まれ変わりたい。どんな形になろうと構わない。またロレオ様に会えるのならば。
「でも、どうやって……?」
「まあぼくにも仕組みはわからないんだけど、そこにある湖。あの中に沈んだら、生まれ変われるみたいなんだ」
「沈むって……。苦しくないの?」
「苦しくないみたいだけど……」
その時不意に、足元が冷たくなりました。まるで水に足を浸けた様な感覚です。アイを見ても平然のしていたので、私の勘違いかと思いました。でも足元を見ると、水が。
「林檎に水をあげる時間なんだ。時間になると湖の水が増えて、全体に広がっていく」
「服、濡れちゃ……」
「大丈夫。ぼく達は濡れないよ。そういう仕組みなんだ」
「そう、なんだ……」
とても綺麗な光景でした。もともと綺麗だったその場所は、水が増えた事によって光が反射し、きらきらと光っていました。水面に映し出された林檎の木も色とりどりの蝶も、美しさを魅せる為だけにそこにある物の様でした。
「そうだ……。記憶は、記憶はどうなるの?消えてしまったら、ロレオ様に会えなくなるんじゃ……」
「うーん……。わからないけど、大丈夫なんじゃないかな?本当にうんめいがつながっているなら、記憶がなくても大丈夫だと思うよ」
「そんな感じなのかな?」
「うん、たぶん」
物凄く不安は残りましたが、他に方法がないのであれば、仕方がありません。
私は決心しました。アイがロレオ様の弟なのも、私がロレオ様の家に買われたのも何かの縁でしょう。そう思わないと、決心が揺らいでしまいそうでした。だってあまりにも、アイの言葉は不安だらけだったから。
「うん、私決めた」
「どうするの?」
「アイと離れるのは寂しいけど、ロレオ様に会いたい」
「わかった。ぼくもサーシャと離れるのはさみしいけど、サーシャがそう望むなら」
「ごめんね……」
「ううん。サーシャには笑っててほしいから」
そう言って笑ったアイの顔は、この場所に相応しい程の綺麗な笑顔でした。その笑顔の儘、アイは私を湖のそばギリギリに連れて行きました。そしてそこに私をまた座らせました。
「いい?サーシャ。今からぼくが身体を押すから、そのまま後ろにたおれてね」
「そのまま沈めばいいの?浮かないかな」
「大丈夫、浮かないよ。たぶんだけど」
「アイ、たぶんばっかり」
「だって試した事ないんだもん。でも、大丈夫だよ」
アイは私の胸のあたりに指を添えました。まだ力は入れていないので当てているだけですが、いつでも大丈夫だよという思いが伝わってきました。
「ぼく、泣かないよ。サーシャには、笑顔でいてほしいから」
そう言ったアイの顔は、泣きそうに歪んでいました。私はアイの笑顔が大好きです。ですが、泣くのを我慢してまで笑って欲しくありません。だから私はアイの頬に手を添えました。
「アイ、泣いてもいいんだよ。私に言ってくれたみたいに」
「………っ」
その途端、思いっきり身体が傾きました。アイが力いっぱい押したからでしょう。バシャンという音と共に、ヒヤリとした感覚が身体を包みます。視界が水に覆われる瞬間、アイの大きな瞳には涙が溜まっていました。その涙が零れるのに、そう時間はかからないでしょう。
「サーシャ…………っ」
―――……水の表面に波紋が広がった。
「 」




