(11)
「普通じゃない、林檎……」
「そ。普通じゃない」
そう言ったアイは私の手を取って歩き始めました。ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ。しばらく歩くと沢山あった木が消え、開けた場所につきました。光が差し込む、暖かい場所です。アイは其処に私を座らせました。
「普通じゃないって言っても、ちゃんと食べられるやつだよ?サーシャは、何がいいかな」
「人によって違うの?」
「うん。その人に合った林檎があるんだよ。サーシャは……」
アイは私の目を見ていました。少し微笑んでいた顔が段々と強張ったいきます。私は首を傾げました。一体、どうしたと言うのでしょう。
「ぐ、れ、ぇ…?サーシャ、どうして……」
私は余計分からなくなり、更に首を傾げました。グレーがどうしたのでしょうか。林檎と色は、何か関係があるのでしょうか。しばらくアイを見つめていると、アイは「ちょっと…、待っててね……」と言って、何処かへ行ってしまいました。
アイが帰ってくるまでの間、私は周囲を見ている事にしました。広いこの場所は、周りが木で囲われています。少し歩くとまあまあな大きさの湖がありました。空気は綺麗だし、景色も綺麗。周りには甘い香りに誘われて来たのか、色とりどりの蝶が舞っています。普通ではいないであろう、真っ赤な蝶や、紫の蝶もいました。不思議な気分です。此処はまるで、天国の様だ。
「お待たせ。持ってきたよ」
しばらくして、アイが帰ってきました。その手には、グレーの林檎と真っ青の林檎。そのうちのグレーの林檎を渡してくれました。
「グレー……。変わった林檎だね。こんなの、見た事ない…」
「うん。普通はないからね。サーシャは、限りなく白に近いグレーの林檎が合うよ」
食べてみて。と、アイは私に言いました。色は不思議ですが、香りは林檎そのものでした。一口齧ると、とても不思議な味がしました。言い表せない味です。でも不味くはありませんでした。
「それはね。今の気持ちの味なんだよ。サーシャは、微妙な気持ちのままだ。昔はあんなに真っ白だったのに」
「そう…、かもしれないね」
「ぼくが育てている林檎は、気持ちの味がする。それぞれ味が違うんだよ。ここに来る人に合った林檎を、ぼくは選んでる」
「じゃあ、そっちの青い林檎は?誰のなの?」
秘密だよ。とアイはいいました。少し、悲しそうに笑って。私の顔をじっと見ていました。そして不意に顔を逸らすと、「食べたら、分かるよ」と呟きました。食べたらわかるというのは、食べてもいいという事なのでしょうか。それにしては、アイは林檎を握ったまま離そうとしません。食べてもいいのか、駄目なのか、よく分かりませんでした。すると、アイは小さく口を開きました。
「食べてもいいよ。でもその前に、ぼくの本当の名前を、教えなくちゃね……」




