(1)
この小説の書き方は、苦手な方がいらっしゃるかもしれません。
昔。もう、何時だったかはっきり覚えていませんが、私は鳥籠の中にいました。
私、サーシャ・フォルナルドは、とても寒い国に生まれました。
冬になればマイナス、――何度かはわかりませんが、濡れた布が一瞬で凍る位の寒さにはなりました。
そんな寒い国で貧しい家に生まれた私は、親の都合で売られる事になりました。
あの頃は、確か六つ位だったと思います。食べる物が無く、明日生きる為の物さえないという状況の中、母達は私を高値で売ったそうです。
私が連れて行かれた場所には、同じ位の歳の子がいました。男の子も女の子も、皆暗い顔をしていて見ているだけで心が痛くなりました。
私はしばらくその場にいたのですが、一人話しかけてくる男の子がいたんです。
「おなまえはなに?」
私と同じ、六つの男の子でした。黒い髪の目が大きな男の子。
「サーシャ……。サーシャ・フォルナルドっていうの。あなたは?」
「ぼく?ぼくは……」
うーん、どうしよう?と言いながら彼は首を傾げていました。何かを悩むようでもあり、何かに怯えているようでもありました。
「えっとね、すきななまえでよんで?」
「どうして?」
「ぼくね?なまえ、ないから」
名前がないという男の子は、そう言ってにっこり笑っていました。
だから私は彼の事を“アシュレイ”と呼びました。愛称として彼をアイと呼びながら。
アイはよく何処からか赤い実の果物を持ってきました。
『林檎』という名前なんだとアイから教わり、その味もアイに教わりました。
とても美味しいその果実をアイと分けて食べるのが好きでした。
でもそんなある日、私達が十になった時、私は裕福な家の方に買われる事になりました。アイが泣いて、離れたくないと言い、私もまた泣いてアイのそばから離れませんでした。
それに見兼ねた業者は、アイをどこかに連れて行き、私から遠ざけました。
アイが連れて行かれた重たい扉の向こうでは、悲鳴が聞こえた…気がしました。
アイがあの後どうなったかは、わかりません。誰も教えてくれませんでした。ただ一言、高くなりそうだったのになと呟くだけ。
あの時の私には意味がわかりませんでしたが、アイは何処かに行ってしまったという事はわかりました。何処かという具体的な事はわかりませんでしたが。
それから直ぐに私は大きな家に連れて行かれました。見た事もないような大きな家です。そこで身体を綺麗にされ、高そうな洋服を着せられました。
そして連れて行かれた部屋の中には、大きな鳥籠がありました。カーテンしかない部屋にある鳥籠は、何か異様な存在感を持っていました。