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2014年/短編まとめ

狂い咲きの生命

作者: 文崎 美生

「ボク、アイツ嫌い」


回転椅子を回しながら彼女が突然言い放った一言に、私の作業をする手は止まった。


ふわふわの焦げ茶の髪が風で遊ばれている。


小さな口には愛用のシャープペンシルを銜えている。


危ないからと言えば彼女は素直にシャープペンシルを手で持つ。


そして再度同じ言葉を吐き出す。


『ボク、アイツ嫌い』


彼女の言うアイツとは一体誰なのだろうか。


そもそも彼女が好きという人物自体存在するのか。


彼女の目に映る世界は敵ばかりじゃないか。


味方の方が少ない。


いや、それは当たり前なのだろうが彼女は別だ。


味方である筈の人間まで敵だと思い込んでしまう。


今度は誰が気に食わないのか。


「全部」


問えば答えは返ってくる。


だがその答えを理解するまでに数秒を要した。


私は再度彼女に問えば返ってくる言葉は同じ。


聞き間違えること自体ないだろう、この距離なのだし。


ふわふわの髪を一つに束ねながら彼女は無表情に言う。


「全部嫌い」


好きなものは一切ない、彼女はそう言っている。


ならば私はどうすればいい。


この幼馴染みが分からない。


彼女は私の理解には及ばないことを平気でしてみせる。


思い立ったがすぐ行動。


入水に興味が沸けば水に飛び込むし、相棒であるパソコンの中身が知りたくなれば解体。


正直理解出来る範囲を超えている。


頭は決して良くはない。


ただ勉強をしたがらないだけであって、ちょっとコツを掴めば直ぐに上達する。


テスト前に少し勉強を見てやれば、上の成績になるくらいには頭がいい。


理解したいと思うか興味があるか、それだけが彼女にとっては大事な事なのだ。


年の離れた兄は彼女に輪をかけて変わっていて、それでいて天才的だから彼女もまたその血が濃いのだろうな。


「全部嫌い。でも壊せない」


嫌いだと思うなら要らないと思うなら壊してしまえ。


彼女はいつもそうだった。


人も物も壊す。


人に至っては物理的じゃなく心理的に。


彼女の言葉は鋭利な刃物になり人の心を抉るのだ。


「早くボクが死んで壊れますよーに」


くるくると回転椅子を回わす。


彼女の表情は見えない。


ずっと傍にいた幼馴染み。


いつからこんな風に短絡的に短調的に、狂い咲きの桜のようになったのか。


恐ろしさと美しさを兼ね備えた狂い咲きの桜。


彼女は正にそれだ。


「華々しく咲いて潔く散りたいわ」


何時か彼女が自らを壊す時、出来ることなら私の手で。


出来ないならば最期を見届けて、私の腕で眠って下さい。

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