メル
「ここは・・・」
俺にあの奴隷商を薦めたドワーフの店に着くと奴隷商を出てから、というか出会ってからずっと口を噤んで下を向いていたメルが視線を上げ声を漏らした。
どうやらここに来たことがあるらしい。武器を買いにいくとはいってあるがこことは思わなかったようだ。そういえばメルは俺がここの店員に推薦状を貰ってきたことを知らなかったっけか、まぁいい。立ち止まるメルの背中を押して店内に入る。
「おう、らっしゃ・・・い・・・」
「・・・おじさん」
「メル!メルじゃないか!ハッハ!本当に買ってもらえたのか!あんたも物好きだな!」
「自分の身内を勝手に薦めておいて買ってきたら物好き呼ばわりとはあんたも大概だけどな」
「おじさん!」
メルが目の端に輝くものを浮かべながらドルドに抱きつく。・・・どう見ても両方同い年の子供にしか見えないが。
「おうおう、まるで子供の時に戻ったみたいじゃねーか、いやー良かった。とりあえずこの人ならお前を捨てることは無いだろうよ」
ドルドはロムにちらりと視線を向けながら言う。
いや別に俺はそう言う趣味じゃないからな?それとも牽制か?
「ここに来たのはメルの武器を買いにでしょう?武器を持たせて経験を積み強くなった奴隷はそうそう手放しませんし大切にもするでしょう?飽きたり年をとると捨てられる性奴隷なんかに比べれば戦闘奴隷の方がよっぽどいい条件の主人ですよ」
「・・・そうか」
命の危険がある戦闘奴隷が条件がいいとは余り思えないのは安全な異世界で育ったからかそれともセシルの昔の扱いを知っているからか・・・
「まあいい。とりあえずメルの武器が欲しいんだ適当に見繕ってくれよ。もちろん値段の方は分かってるよな?」
「ええ、ええ任せてくださいよ。メルはまだまだ修行不足ですが、剛腕のスキルを持っているのでやはり重い槌あたりがいいでしょう。柄の長さは最初は短めのほうがいいかな」
そういえばまだメルのステータスは見てなかったな。
名前 メル
種族 小人種 奴隷
性別 女
Lv 1
HP 400
MP 10
ATK 30
DEF 10
INT 5
AGL 10
ユニークスキル 精錬Lv1 鍛冶Lv1
スキル 付加Lv1 彫金Lv1 槌術Lv1 剛腕Lv1
所有者 神楽坂 竜司
MP10か、俺が1レベルの時の10分の1。文字通り桁が違うな。
やっぱりATKは高めだが俺やセシルと比べればまだまだだから要レベル上げだな。つっても俺もこっちに来てから日が浅いから直ぐに追いつけるだろう。
「ああ、そうだ。ここらで鍛冶の材料になる鉱石が採れるところってどこだ?」
「ん?鉱石ですかい?そりゃあ目の前にあるリム鉱山に行けば銅や鉄のくず鉱石ならいくらでも落ちてるでしょうが奥に進むほどに強い魔物がいるし、いい鉱石を掘るには採掘のスキルとつるはしが要りますよ?」
「ん?鉱山は誰でも掘っていいのか?」
「入鉱税さえ払えば掘るのはタダですが鉱山から鉱石を持ち出すのに別の税が掛かりますね。・・・というか鍛冶スキルを見たくてドワーフの奴隷を買いにいったのにメルを買ってくるとはやっぱり変なひとですねお客さん。メルのこと聞いてないわけではないんでしょう?」
「いいんだよ。俺にはちゃんと考えがあるんだから。そんな事より採掘スキルについて詳しく教えてくれ。使える種族は限られているのか?何か使えるやつに共通点は?」
「採掘が使える種族が限られてるって話は聞かないですねぇ。共通点もです。そんなものが分かってるならこの街の全員が採掘スキルを持ってますよ」
「はっ、違いない」
つまり採掘はユニークスキルじゃないってことだ。取得条件は分からんが大方採掘を試してみれば覚えるだろう。
「んじゃ、適当な防具屋見に行ってからギルドでロムとメルの冒険者登録とパーティ加入。その後なんとか鉱山」
「・・・リム鉱山です」
「おう。それそれ。その鉱山をちょっとのぞきに行くか」
「はい。了解しました」
「うん。分かったよ!」
俺の呼びかけにセシルとロムが大きく頷いて答える。ってあれ?
「おっ。武器はそれでいいのか?」
鉱山の名前をボソッとしてきたほうにちょろっと視線を向けると見るからに重そうな両手持ちのハンマーを携えたメルが立っていた。
鉄の両手槌
スキル:なし
「おう、そいつにしたか。ちと重いかもしれねえがメルにはちょうどいいかもな」
「本当によろいいのでしょうか?」
両手でハンマーをしっかりと握ったメルがおずおずと上目づかいで聞いてくる。
「ん?何がだ?」
「奴隷には普通武器を持たせないと聞きますそれなのにこんなしっかりした武器を与えてもらってよろしいのでしょうか・・・」
メルはちらちらと俺の腰の鉄の剣を見ている。
奴隷が主人と同レベルの武器を持っていいのかと心配しているのだろうか。
「いいんだよ。徒手空拳のロムはともかくセシルも鉄のレイピアを持っているしせっかく買ったのに武器がなくて満足に戦えないほうがもったいないだろうが」
そのうちロムには何か武器か篭手のようなものでもあげようと思っている。ちなみにこの店には置いていなかった。
「というわけでコイツはいくらだ?」
「いや、こいつはメルの門出祝いに持っていってください。あとコイツも持ってってくだせい」
まだちょっとおどおどしているメルを無視してドルドに話を向けると気前のいい言葉と共に何かをさらさらと書いて俺に握らせてくる。あと傍にあった鉄のつるはしも。
「これは?」
「知り合いの防具屋の地図とちょっとした口利きですよ。今度は本物です。多少は割引してくれるでしょう」
「そうか?まあくれるなら貰っておくか」
また来ると言って武器屋を後にする。
武器屋を出てから少しづつ話すようになったメルと一緒に防具屋へ行った。
とはいえうちのパーティは盾を使う人はいないし俺とセシルは動きが鈍ったら嫌だから皮の防具の上位版。革の防具一式を。カチャカチャうるさいのを嫌ったロムも同じものを。自分だけ高価な金属鎧を買ってもらうわけには、と遠慮したメルもおんなじ物を買った。
店主のドワーフにはドワリムまで来ておいて金属製品を買わないとは何事だとぶつくさ言われたがめちゃくちゃ負けてくれた。もう赤字なんじゃないかってくらい。 買い手のつかない在庫品だといわれたがありがたく貰っていくことにした。
途中メルが奴隷になった理由も話した。
メルが小さい頃に教会で洗礼を受け彫金と付加のスキルを先天的に覚えていることが分かり。(普通の人はどうやって自分の、あるいは相手のスキルを確認しているのかと思っていたが教会である程度の寄付金を積んで洗礼とやらをしてもらえば分かるらしい)両親にだだ甘やかされて育てられてきたが。15歳の成人の日ついにメルには魔力がまったく無く彫金や付加のスキルどころか鍛冶スキルすらまともに使えないことが分かると両親の態度が一変。今までのだだ甘やかしはどこへやら一気にあたりが厳しくなった。
MPの最大値を引き上げる魔法薬もあるそうだがとても高価な薬でメルのスキル頼みで仕事もやめ借金をしまくっていたメルの両親ではとても買えるものではなかった。
メルの両親はメルのスキルがあてにならないと分かった後もなかなか生活水準を落とすことが出来ず結局一家揃って破産。借金奴隷として売り飛ばされ、現在に至る。両親の行方も不明だが別に興味は無いらしい。
「私はドワーフの中でも出来損ないですが、精一杯マスターに尽くします。だからどうか捨てないでください」
そう言って頭を下げるメルの肩は少し震えているような気がした。




