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一般高校生の異世界ライフ  作者: テトメト
勇者と魔王と愚かな選択
43/47

美徳スキル

「我、"勇者"神楽坂竜司(リュージ カグラザカ)が願う!《慈愛ノ王(ガブリエル)》よ!我の慈愛を糧とし、我の寵愛を受けし者を救いたまえ!《愛の光による救済(リ・リーフ)》!!」



自然に口をついて紡がれるのは力ある言葉。

唱え終わった俺の体から暖かな光が溢れ腕の中で眠るように目をつむるセシルへと吸い込まれていく。それと同時にまた俺の中から何かが抜け出していく感覚があるが心が削れて行くような感覚は無い。むしろ心の奥から次々と湧き出る感情が心から溢れセシルに吸い込まれていく光をさらに強くしていく。


「セシル。頼む戻ってきてくれ!セシル!!」


俺はセシルの体を強く抱きしめ奇跡を願う。



───七つの美徳スキルの1つ《愛の光による救済(リ・リーフ)》は完全回復魔法である。

であるが、さすがに死んでしまった人を生き返らせることは出来ない。何故ならこの世界の人は息絶えたその瞬間に魂が肉体から離れ魔力に分解され星に溶け込み新たな命として転生するから。と言われている。

つまり死んだ直後に魂の保護が出来なかった以上セシルの蘇生は不可能である。(あるいは禁呪を使えばゾンビとして再び動くことは出来たかもしれないが理性のないモンスターになってしまってはそれはもうセシルとは言えないだろう)

不可能である・・・はずだった。

が、偶然にも悪魔達が獲物の魂を新鮮な状態で食すために発動させていた輪廻結界が肉体と分離したセシルの魂が魔力に分解されるのを防ぎかつこの場に留まらせていた。

つまり───



「ん・・・ごしゅじん、さま?」

「セシル!」

「セシルさん!」

「セシルおねえちゃん!」

「んんっ、ちょっと痛いですご主人様」


そっと、本当にただ眠りから覚めたように目を開けたセシルを力いっぱい抱きしめる。セシルが抗議の声を上げるが知ったことか。

とそこへセシルの後ろから泣きじゃくるロムが突撃。俺とロムでセシルを挟み込むようにして抱きしめ泣きまくるもんだからおおよそどういう状況なのか理解している様子のセシルも今度は苦笑いでこの状況に甘んじていた。



セシル蘇生から数十分後。ようやく一息ついた俺達はとりあえずこの場を離れることとなった。

黒幕っぽい上級悪魔はもう片付けたはずなのに未だ夜は明けず赤い月も煌々と俺達を照らしている。幸いにもゾンビたちはあれ以降湧いていないし新手の襲撃も無い。でもだからこそこの不思議空間からの脱出の手がかりも無くとりあえず移動することにしたのだ。

・・・というか未だに鎮火されない呪いの黒焔が草原を焼きつつじわじわと侵食してくるのが地味に怖い。


「本当に大丈夫なのか?」

「はい。ご主人様のおかげです。ありがとうございました」


そう言うセシルは蘇生当初と比べずいぶん顔色も良くなりムリをしている様子もない。本当に大丈夫なようだ。


「うしっ!じゃさくっと出発するか。フラーン馬車の準備は終わったかー?」

「はい!この子も落ち着いてくれましたしいつでも出発できますよ」

「じゃあさっそく出発を・・・」

「「「きゃっ」」」


するか、と言おうとして言葉に詰まる。突如地面が揺れだしたからだ。

最初は地震かと思ったけどそうじゃない。視界は確かに揺れているのに足元は揺れていないまるで半端なく手振れしているビデオを強制的に見せられているような・・・正直言ってかなり吐きそうなんだが。


「おうえぇーー」


だからといって女の子が吐くのはどうかと思うよ、ロムよ。


どんどん激しくなっていく視界の揺れはある時を境にぴたりと止まる。

そして今度は空。赤い月に一瞬皹が入った様に見えたと思った瞬間。月を中心としてまるで波が引いていくように波紋が走る。波紋が地平線の彼方まで飛んでいき完全に見えなくなった周りで空気が変わる。

纏わりつくようだった重い空気が解け白い月と輝く星々が散りばめられた夜空が俺達を見下ろしている。


元の世界に戻ってこれた。

その実感を分かりやすい形で得られ目に見えてみんな安堵と喜びが混ざった表情になり緊張が緩んでいくのが分かる。

だが、俺は一切緊張を緩めない。どころかさらに集中して辺りの気配を探り続ける。

さっき不意打ちでセシルが刺されたからってのもあるがそれ以上に索敵スキルがさっきから警鐘を鳴らしている。この濃い気配はさっきの上級悪魔達と同格と見ていいだろう。その気配は辺り一帯からするようにも感じるしどこからもしないような気もする。有体に言えばどこか分からない。

だが気配がする以上隠蔽のスキルは持って居なさそうなのはラッキーだ。これなら気をつけてさえいれば不意をうたれることは無いだろう。

と思っているあいだにも辺りに満ちていた気配が集まっていく。場所は俺の後ろ。君達、人の背後に立つの好きだよね。

気配が集まり人型を形作っているのを感じつつどうしようかと考える。

剣は無いし魔法もちっちゃな火の玉なら作れると思うが上級悪魔相手には流石に効かないだろう。


よし逃げるか。


そも、結界が解けた以上こいつの相手をする必要はないしな。

出発までの時間稼ぎ位は俺が拳術(LV0)で相手してやろう。


「死ねぇぇぇぇ!下劣な人間風情がぁぁぁぁぁ!」


・・・叫びながら出現したら背後に出てきた意味が無いと思うんだ俺。


とりあえず隣に居るセシルの腰に手を回して支えつつ跳躍してロム達の方へと撤退する。


「フラン馬車の準備を急げそれまでは俺が時間稼ぎを、」

「ご主人様!」

「するから、うおっ!」


跳躍中に俺の腕を振り払うようにセシルが身じろぎした。

奴隷紋の影響でセシルが俺をかばおうとするのは分かりきっていたのでしっかりと腰を支えていたにも関わらずその僅かな動作だけで振り払われる。

だけでなくまっすぐ跳躍していたはずの俺の体がほぼ真横へと吹き飛ぶ程の衝撃を受けた。

だがそんなことよりもさらに衝撃的な出来事が慌てて受身をとった俺の前で展開された。

セシルがしたことはたいしたことではない。ただ反転して、腕を振り乱し迫ってくる男の悪魔を両手で思い切り押しただけだ。ただそれだけの筈なのに、


「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「・・・え?」


哀れ、名前も知らない悪魔の男はその一撃で体をくの字に折りながら地面とほぼ平行に飛翔し黒焔が燻る中に突撃。砂糖に群がる蟻の様に一瞬で全身を真っ黒に埋め尽くされそのまま灰になって消えてしまった。

まあ今はそんな事よりセシルの変化だ。とはいってもある程度は察しがついている。おそらく蘇生が原因だろうと思いつつセシルのステータスを確認すれば1つのスキルが追加されていた。それもユニークスキルだ。


『蘇りし者』

魂と肉体の結びつきが強固になる。

肉体の限界を越えて力を引き出せるようになる。


えーと、つまり?死ににくくなった上に筋力が大幅に上昇したと?

でも肉体の限界を超えるってあるし力を引き出し過ぎたら体の方が壊れそうだ。手足が反動で千切れようとも死にはしない体になったのかも知れないがそんな痛々しいセシルは見たくないから力に馴れるまでは力をセーブするようにさせよう。


というようなことを自分の両手と悪魔が飛んでいった先を交互に見つつ頭にハテナを浮かべているセシルに説明した。



「・・・つまり私にもロムの様なユニークスキルが使えるということですか?」

「ん、まぁそういうことだな。でもこれはロムにもいえることだけどお前達のユニークスキルにはデメリットも存在しているんだから使うなとは言わないが使うときは慎重にな」

「はい。分かりました」

「はーい。分かっているよリュージ」

「ならばよし。あぁ、それとなセシル。今は奴隷紋のせいも有るだろうから何も言わないけど次からは獲物も無しに敵の前に飛び出すようなことはしないでくれよ?心配したんだぞ?って俺が言えた義理じゃないけど」


セシルが飛び出さなければ俺が飛び出していただろうしな。


「はい・・・ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


ありゃりゃ。ユニークスキルを得て嬉しそうだったセシルがおちこんでしまった。

心なしかセシルの犬耳もショボンと垂れ下がっている様に見える。


「リュージさん。セシルさんもリュージさんの事を思ってしたことですしその、あまり怒らないで上げてください」

「そーだよ。リュージ!セシルおねぇちゃんは悪くないよ!」

「・・・あぁ、いや。別に怒っているわけじゃ無いんだ。うん。まったく。・・・そ、そんなことより早く出発しようぜ!もうこんなところに長居はしたくないしな!」

「?・・・まあ、そうですね。それでは今度こそ出発しましょうか」

「うん!目指すはドワーフの国ドワリム!」

「確か鍛冶が盛んな国でしたよね?良い剣が見つかるか今から楽しみです」

「あ、ああ。そうだな」


誤魔化す様に話題を変えた俺にフランがちょっと引っ掛かりながらも話をあわせてくれて二人も話に乗ってくれた。

俺は本当にセシルに対してこれっぽっちも怒っていない。純粋に心配だっただけだ。だがそもそも、それ以前の問題として・・・


(怒りってどんな感情だったっけ?)


どうやら俺が新しく得た(スキル)は俺が思っているよりも大きな代償が必要なものだったらしい。

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